怪盗Rからの予告状
どの新聞記事にも記載されてあったが、内容としては政治情勢や著名人のスキャンダルに埋もれている異常な出来事だった。
ある魔術師が数十点ほどの新薬を公表したにもかかわらず。
それらの所有権を放棄する、という内容だ。
新薬開発に勤しむ誰もが願っているのは、自身の実績が認められる事。
同時に、新薬の所有権を取得する事である。
所有権があると、その新薬が販売された際に、開発者に利益がゆくシステムに一応はなっているのだが。
ジョサイアはそれを放棄した。
中には副作用もある新薬もあるし、今後の薬品開発に役立てる方がいいと判断したらしい。
異例の対応に、界隈の一部ではジョサイアの行動に称賛を唱えていた。
本当にごく一部なのだが……
「あ~あ、悲しいぜ。こんな事ってあるか?」
某所にて新聞記事を眺め、溜息つくのがランディーだった。
彼が憂いを帯びているのは世間が、ジョサイアの実力や実績に見向きもしない事もそうだが。
別口からの情報を入手していたランディーは、もう一つの、ガルダからの報告書に目を通している。
そこにはバジーリとエカチェリーナに関連する記載があった。
彼らの関係は把握している。
しかし、ランディーは嘲笑していた。
「婚約が嫌だからって、ジョサイアを利用するなんてなぁ。惚れる奴も惚れる奴だよ。ジョサイアもジョサイアで、自分が良ければって感じで他人事なんてお構いなしだもんな。いや、別にジョサイアが好きって訳でもねーのか? ただこのバジーリって奴がアレなだけで」
バジーリの行動は分かりやすい。
彼は地位と名誉に固執しているのだ。それらはエカチェリーナとの婚約の為であり、自身の欲望を満たす為でもある。自分の魔法陣が採用されるよう裏でコネを回してたりと、彼なりの努力を尽くしているようだ。
一方のエカチェリーナは、貪欲なバジーリを好き好んではおらず、バジーリとの交際を発展させるどころかジョサイアを持ち上げるように、新薬を彼女の方から提出したほどなのだ。
彼女が果たして本心からジョサイアに惚れているか定かではない。
これらを一瞥したところで、ランディーは「さてと」と呟く。
「やってみるかぁ。『侵入』」
今までランディーが魔法陣崩しで武器を解放したり、侵入したりなどしてきた。
だが、どれも魔法陣崩しが発展する前の古い魔法陣を相手してきたようなもの。
現代のエルフの魔法陣も進化しているだろうし、何より――I連合国の、ランディーが侵入を試みようとしている場所には、最先端をいく魔法陣使いがいる。
ジョサイアの事だが……
無論、エカチェリーナの魔法陣も崩せるか試すつもりだ。
故に――『予告状』を各新聞社に送り付けた。
近日中に『サックウィル学園』へ侵入する予告状を。
特別、何かをする訳でもない。盗むとも書いていない。
ただ侵入するだけ。
シンプルだが、これで相手の動きを伺い、学園内の防壁魔法陣に変化があればいいとランディーは願った。
なんせ、結局、ランディーが侵入すると予告するのだ。
所属している生徒の親御が心配しない訳がない。
幾ら世間体で義賊扱いされている『怪盗R』と言えど、何等かのスキャンダルを持ち出さればタダで済まないのだから……
☆
「これは……」
そして、予告状の一件はエカチェリーナの耳にも届く。
教職員たちにも。
新聞記事に関心を示さない生徒たちにも注意を促す為に、各寮のホームルームで寮監が報告するという異例さまで。
親御らは子供の監視兼警護をさせている『影』にも注意を促す。
エカチェリーナも防壁魔法陣の見直し、強化を励む。
そして、ジョサイアも――……




