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一方、A帝国では(1)


ジョサイアがA帝国を出国し、数日後……




壁の建設現場では労働者に鞭打つ音ではなく、陰鬱さと苛立ちとが立ち込めていた。


「クソッ! また止まったぞ!! これで何度目だ!?」


怒声を上げていたのは監督役の騎士だった。

ジョサイアをクビにした代わりに導入された魔動式のゴンドラ。

作業中、何度も何度も不具合が発生してしまい、作業が中断。修理の為に業者を呼ぶのにもまた時間を食う。

悪循環が続いていた。


ようやく到着した業者も呆れて強めの口調で言う。


「また重量オーバーによる負荷が原因です。何度も言ってるはずです! ゴンドラの積載量もちゃんとお伝えしましたよね!?」


「一々、数量を測ってる余裕なんてない! それにゴンドラのスピードが遅すぎる!! これじゃ到底、期限までに完成できないぞ!」


「ゴンドラが重くなればスピードも遅くなりますよ。子供にだって分かります」


「あのな! 偉そうな態度取っているようだが、前に雇っていた魔術師は落書きみたいな魔法陣だけで、ゴンドラ(これ)の二十倍ほどの働きが出来てたんだ!」


「は……? い、いや、それはありえませんって。しかも、魔法陣? 今時、そんな古い技法で――」


「ありえないも糞もあるか! あの生意気な魔術師の人件費を削減できるのと、お前たちを信用して魔道式の機材を導入したんだぞ!! 今回の件は上に報告させて貰う!!」


「お待ちください! 魔道具は正しく運用すれば問題など起きないんです!!」


「弁解する余裕があるなら急ピッチで改良に努めろ! 期限までに『壁』が完成しなければ、貴様らにも責任を負って貰うから覚悟しろ!!」


「そ、そんな……」





別の場所でも深刻なトラブルが発生していた。


「おい! まだなのか!?」


「俺達はいつまで待機してりゃいいんだ!」


冒険者をクビになったであろう荒くれた男達が口々に騒ぐ。

職員が「黙れ!」と怒声を上げる。


「行くあてもない貴様らを雇ってやっているんだぞ! 文句を言うようなら、即刻クビにしてやるからな!!」


ここはA帝国唯一の郵便局。

帝国の郵送物全てを収集し、配送する重要な機関。

その郵送物を仕分けるのは魔道具。なのだが…


十台も仕入れた魔道具は郵送物を一つ取り込み、住所をスキャンに似た技法で読み取り、判別、区画ごとに流していく。

この一連の動作で一分強かかっている。

一つ一つやっていては、到底終わらない。現に配送が数日遅れている。


無常にも帝国内の全て郵送物が、どんどん山を高くした。

しかも、A帝国の場合、不審物のチェックと郵送物全ての記録をしなければならないのだ。

故に、一箇所に集める。


更に新聞の発行、配達も迫っていた。

これも遅れる訳にはいかないが、それ以上に配送の遅延が深刻だった。


痺れを切らした職員が待機させてた元冒険者たちに呼びかける。


「仕方ないッ。おい、お前たち!! 仕分け作業を手伝え! 魔法を使っても構わん!!」


実際に仕分け作業に取り掛かる元冒険者たちは口々に言う。


「いくらやっても全然量が減らねえ! どうなってんだ!?」


「魔法を使っていいとか言うが、何をどう使えば仕分けに役立てるんだ……」


「前はジョサイアの奴が三十分くらいで終わらせてたらしいぜ」


「そりゃ嘘だろ! 『ホーリー』を使えない癖して――」


職員が「口より手を動かせ!」と喝を入れ、冒険者らは渋々黙り込む。

埒があかないので、他の職員も一団になって仕分け作業に時間を費やした。





ジョサイアが関与していた医療事業は、彼から伝授された魔法陣や薬品で試行錯誤しているものの、重症者の治療には苦戦している。


下水道の工事にも時間が必要で、しばらく清掃を続けなければならないと言われ、清掃会社はジョサイアをクビにするんじゃなかったと悲鳴を上げた。


中級層はジョサイアに建造物からアンティークまでの修繕、倉庫や部屋の片づけを依頼していたが、光魔法による無償の恩恵を授かれず、どうすればと途方に暮れた。


他にもジョサイアが縁の下の力持ちになっていた細かな事業が嘆いていたが、一番深刻だったのは……





大規模な人事異動を終えた帝国の新生ギルドに、C公国からダンジョン調査の依頼が入って来た。


C公国が、きな臭いA帝国と同盟を組んでいるのは、帝国の冒険者の練度が優れているからだ。


C公国周辺にあるダンジョンは、発展途上国の中では数が少ない。

代わりにダンジョンの攻略難易度が高い。

低くても『Bランク』。

首都から離れた辺境に世界でも数少ない『Sランク』のダンジョンがある。


冒険者の中でも、高ランクの冒険者でしか対処できない。

故に自然とC公国の依頼先は隣国で、優れた冒険者が集うA帝国となるのだ。


今回の攻略は、通常通りダンジョン内のモンスター討伐と現地調査。

ダンジョンの活性化の兆しがある場合、速やかな国民の避難とダンジョン周辺に大規模な包囲網を敷く。

これが年にニ、三回ほど起きる。


舐めた編成で攻略できるダンジョンではない。

のだが……


「あの。これは、どういうことですか?」


まだ幼さが残る赤ツインテールの『勇者』の少女が、国から派遣された監察官に尋ねる。


味方へのバフと敵へのデバフ、剣術と魔法……全てをバランスよく兼ね備えた『勇者』を持つ者は、自然とパーティの主要格になりやすい。


彼女もそうで。

同盟国からの依頼からか、国が厳選した者で構成されたパーティのリーダーとなった。

しかし、パーティ構成は問題しかなかった。


「どうしてサポーターがいないんですか? これでは効率的な攻略が出来ません」


「サポーターなどという不要な存在は無駄だ」


「……は?」


「それとも何だ。サポーターがいなければ、ダンジョンの攻略が出来ないと? 戦闘の役に立てないというのに」


「あの……」


勇者の少女は絶句してしまった。

目の前の人間は、国は、何を考えているんだろうと。

頭を抱えたい衝動を抑えながら勇者の少女は述べた。


「彼らの役割はダンジョンのマッピング、戦利品の処理、治癒やバフなどを迅速に処理をする事です。特にモンスターの死骸処理を最低でも三十秒以内に済むよう訓練を――」


「何を言い出すかと思えば……勇者のお前一人いれば済む話だ。死骸から討伐部位と魔石をはぎ取れるだけの作業に、不要な人員を割くなど無駄だ」


「失礼ですが、実際にダンジョンの中に入った事はありますか……? モンスターは待ってくれないんです。ダンジョンは唐突に地形が変化するんです。勇者の私でもそれら全てを対処するなんて不可能です。だからこそ、効率的なーー」


「勇者が聞いて呆れるな。サポーターがいなければ駄目? 甘えるな。勇者ならサポーターは愚か、ソロでダンジョンを周回できて当然なのだ。……もういい。お前はリーダーから外れて貰う。サポーターなしでやれないのならばランクも降格だ」


まるで言葉が通じない。

Aランク、否。

元Aランクの少女は「分かりました」と告げ去る。


もうここは、この国は終わってしまうのだ。

少女は悟った。

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