敵じゃないなら、味方でもない判別もしてくれよ
肝心の薬が完成したのは、一か月後だった。
上手い具合の調合というのもそうだが、教員の職務も怠らず、自分に負担をかけないよう隙あれば薬の調合に使う魔法陣を書き記したり。
素材の調達をミディアだけでなく、ギルドに依頼する。
素材の質が良ければいいんじゃない。
かといって若さに効力を特化してしまうと、自らの生命エネルギーを消耗する類になってしまう。
薬に調合するのは、俺の生命エネルギーではなく他の生命エネルギーで補えるようにし。
若返りの効力ある薬を別に作っておき……
『スキャン』で二種類の薬の効力を確認。
「よし、今度こそ……」
二種類の薬をヘルコヴァーラの杖の花、二つ分に注ぎ込んで……いわば、点滴みたいなものだな。
副作用対策で杖の花にもう一つ、常時『サイクル』発動型の魔法陣を組み込み、発動。
さあて……
劇的な効果はパッと見では分からない。
強いてあげれば、心なしか体が軽く感じられるぐらいか。
常にバフを受けてる奴は、そういう感覚になって、当然の身体能力だと思い込んでしまいがちになるらしいな。
所謂、バフ中毒。
婚約破棄と同じくらい冒険者間で問題となった奴だ。
今の俺も軽いバフを常時つけてるようなもんだ。薬兼点滴はほどほどに、容量を守って適度にやる。
一先ず、これで様子見でも。
―――光魔法のレベルが50になりました。
―――『キュア』を取得しました。
くつろぐ寸前で脳裏に天の声が響いたと思えば……『キュア』? 新しい魔法だと??
飲もうとしてたコーヒーもどきが入ったカップを置いて。
俺はステータスで概要を確認した。
キュア:索敵魔法
自身に害あるものを光魔法で索敵する
……は?
ちょっと意味が分からん。あまりに説明が短くシンプルで……それでいて曖昧な内容だ。
要するに……『スキャン』とは違い、原因特化の魔法?
試しに使用してみるか。
「『キュア』」
これの魔法陣も魔力の波長で術式を記すのは後にして、適当に発動してみるが何も……
いや、何故か今朝の新聞に薄い光が灯っていた。一つだけじゃなく、幾つも。
一つは『モンスターの大量発生』に関連する記事。
Aランクのダンジョン活性化による『モンスターの大量発生』の抑え込みが芳しくない様子。
しかも、このダンジョン。俺のいるサックウィル学園に近いのだ。
近い、とは言っても距離はあるが、このど田舎には障害物がないので、『モンスターの大量発生』がなだれ込んだら学園と周辺はあっという間に押しつぶされるだろう。
まあ、今朝読んだ内容なので把握していたが、俺は奇妙に思う。
「変な魔法だな。こういうのに反応するって事は……」
やはり。
『キュア』で反応した記事は、まず冒険者のランク制度等の見直し。
俺が居住区にしているキャメロン地区の法改正。
「居住区内での無断修理・無断治療禁止条例……医師免許の資格必須。あと薬品関連もか。面倒だが資格の勉強しておくか……」
自由の国宣言はどこへやら。
『モンスターの大量発生』のどさくさに紛れて自由の糞もない法を通しやがって。
とまあ、俺によって害ある要因に反応する。不思議な魔法だ。
……そうだ。
俺はふと出来心でエカチェリーナの手紙に『キュア』を発動してみた。
……反応はない。
やましい感情や目論見はない、と見ていいのか?
まだ、過信していい魔法か判別つかないので、どうにも反応できない。
この時は、多少の事はいいだろうと慢心しまっていた。
若返りの薬の開発に一段落済んだから、俺は安堵していたんだが……
あの女。
そう、エカチェリーナは余計な事をしでかした。女っていうのは、余計な事しかしないのか?
☆
俺が今の新薬に到達するまでに産み出した新薬。
あれを公表する気など毛頭なかったので、エカチェリーナの実績にしてしまえばいい。と適当に流してしまった俺が悪かったんだろう。
確かに、あの女は俺の新薬を世間に公表したが、事あろうことか、俺の名を使って公表しやがったのだ。
俺が自主的に公表した訳じゃないのに。
公認者にエカチェリーナ自身がサインして、そのまま提出したと涼しい顔をしてきた。
普通、こういうのには俺のサインも必要になるだろうが、その辺りの筆跡管理みたいなのは、この異世界でやらないガバガバ具合だ。
エカチェリーナは、その隙を狙ったとしか思えない。
一つだけ。
例の『不老不死』の秘薬に関しては、公表していないので安心して下さいだと。ふざけんな。
お陰で世間体で目立つような事に……
ああ、この女。
E王国が把握している俺の実績を含めて、恋愛感情抜きで俺を婚約者にしようとしてやがるのか……?
バジーリは駄目で、俺はいいって。
どういう基準なんだ。プライベートの俺の事なんて何一つ知らない癖してな……
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