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俺は女心が分からないし、分かりたくもない。


寄宿学校も毎日が勉学ではない。

七日に二日……所謂、週休二日制でこの休暇中に生徒は部活動に勤しんだりするのだが。

生憎、この日は土砂降り。寮内に引き籠る他なかった。


そんな最中。俺は幾度も『サイクル』の研究を続けている。他と比較して活躍所が少なすぎる魔法だ。どうにか別の側面から探っていた。

なんせ。この『サイクル』という魔法……光魔法の文献には一切記載のない新種の魔法。

否、恐らく光属性の魔術師専用の魔法と思われる。


そして……


「よし、成功だ」


一つ。俺だけが活用できる方法を発見した。

それは――ヘルコヴァーラの杖の花を活用し、別の魔素を俺の神経に取り込み、それを光魔法に変換する。

簡単に言うと、別の属性の魔素を光魔法に変換するって奴だ。

恐らく、本来は闇属性の攻撃を受けた際に活用できる原理を別属性にも応用した。

そんなところだ。


ここで俺の部屋をノックする音が聞こえる。

その主は使用人の一人で、何でもエカチェリーナから俺の知人が訪問してきたという伝言内容だった。

土砂降りの中で?

馬鹿馬鹿しいと思った。

同時に俺の知人で学園に訪問できる奴と言えば……心当たりは数える程しかいない。


仕方なく、俺が件の知人を確認しに向かえば、土砂降りに打たれたせいで衰弱しきった様子のミディアだった訳だ。

用件なら手紙に書いて出しておけばいいものを……どうして、コイツがこんな馬鹿な真似。

ミディアは医務室でエカチェリーナの杖の花で治癒を受けていた。


医務室にいるエカチェリーナ当人が事情を説明する。


「豪雨の中、火属性の魔法でここまで飛んできたようです。火属性の方ですから雨に打たれ、体調を崩されたそうです」


ベッドの上で唸っているミディア。

俺は奴に代わって「ご迷惑をお掛けし申し訳ございません」とエカチェリーナに謝罪する。

大体、コイツもここから大分離れた地区にある学園に配属されてる筈だろう。

そっちにも迷惑かけて……対応が面倒くさい。

エカチェリーナは、いつになく深刻な声色で言う。


「……ジョサイア先生。彼女に何か言伝しましたか」


「……彼女は冒険者同士交流があって、この学園に配属中も幾度か手紙をやり取りをしましたが、特別変わった話はしてませんし。彼女とは特別な関係でもありません」


俺と大差、歳が変わらないんだから。

餓鬼っぽいツインテールも止めた方がいいし、他にも餓鬼臭い仕草を自重して欲しいくらいだ。

エカチェリーナは深い溜息をついてから告げる。


「ジョサイア先生に足らないのは……女性に対する思いやり。いえ、女性の心中を理解できないところでしょうか」


「はい?」


いや、だから、ミディアとは恋愛関係でもないと説明したが?

エカチェリーナは深く言及せず「私はこれにて失礼します」と医務室から去る。

……ああ。そうだ。

俺はミディアに対し魔法陣を使用する。これで奴の体内に染み込んだ水の魔素を光の魔素へ『サイクル』で変換。それで『ヒール』を発動させる……と。


術式の作業をしていると、問題児のミディアが目を醒ます。

開口一番に文句吹っ掛けてやろうとしたら、いつもは表情筋一つ動かないミディアが涙ぐんで。

ぐちゃぐちゃな声で喋った。


「ぜんばいが死ぬの……いやぁ……」


「はあ?」


「だって……! 手紙で……!!」


そこから顔をぐしゃぐしゃに涙を流し続けるものだから、話にもならない。

俺は「寿命の話か」「人間、いつかは死ぬもんだろ」とミディアに聞かせてやるが、以前として会話が成立しない。


………。


長い沈黙の末、ようやくミディアは落ち着いたらしい。

ちょうど俺がかけた魔法が終わり、体力的に異常も疲労も感知した状態になった筈。

取り合えず、俺は一つ一つ確認していく。


「まさか、配属された学園からここまでぶっ飛んで来たのか」


「うん……」


馬鹿過ぎるだろ……と内心突っ込んだが、ポツポツとミディアが言葉を紡ぐ。


「最初は……よく分からなかった。でも先輩が死ぬって考えたら……」


そしたら、また半ベソかき始めるもんだから俺も流石に「オイ」と静止した。

ミディアらしくなさ過ぎる。

頭でも打ったんじゃないかと疑念を抱くくらいだ。変なものを食って思考がどうかしたって方が納得できるくらいに。

しかし、エカチェリーナの助言から考察するに………いや、馬鹿か。俺も。


仕方ないので俺は言う。


「どうせ、距離的にもここから、お前が配属されてる学園まで一日以上かかる。俺が学園に連絡はするぞ」


「……うん」


「あとな……俺も老眼とかには参っている。それを改善する方法を探す。寿命も延びるかもしれねぇからな」


「……本当………?」


「噂によると健康に気使えば寿命が延びる事もあるんだと。俺も伊達に薬を調合してきた訳じゃねえ。努力はする」


「良かった……私も……」


「お前は取り合えず休んで反省してろ。迷惑かけたのは俺だけじゃねぇんだからな」


ミディアは呆然として天井を見つめている。

一応、ミディアの体調を確認する為、杖の花を置いておき退出する。

折角の休みも、とんだ災難で潰されたもんだ。天気だけでも最悪だってのに……ん?

向こうから声がしなかったか?


クソッ、老眼の次は難聴かよ。冗談じゃない。雨の音にかき消されて聞こえにくかったんだろう。誰かが叫んだような気がする。

俺が杖の花を先行させて杖の花を通して視覚を繋げると――エカチェリーナの姿が。

奴は珍しく走り去って、バジーリが取り残されている。


……なんだ? これ。


走って来たエカチェリーナは、俺のいる方へ来てぶつかりそうになったので、咄嗟に柔らかくした『シールド』で奴を受け止める。

奴らしくない驚きようで『シールド』を見て、一息ついて「器用ですね。ジョサイア先生」と言う。

声色が明らかに平静じゃない。


「すみませんでした、失礼します」とエカチェリーナは早々に立ち去ってしまう。

後から追って来たバジーリも取り乱した様子で。

俺と出くわすなり苦虫踏んだ顔をしてきた。あくまで知らぬ顔で俺は「どうかされましたか」と尋ねた。

バジーリは酷く苛立った様子で「なんでもない!」と踵返した。


……全く意味が分からない。コイツら、付き合ってるんじゃないのか?

まぁ、どうでもいいか。


俺は新たな試みを始めようと思い立つ。所謂――若返りの薬の作製だ。

世界七大偉業の一つに『不老不死』が存在するが、それに近い領域の話になるかもしれない。

だが、俺も呑気にダラダラ学園生活を謳歌していただけじゃない。

『サイクル』の活用法を確立した事で、新たな薬品を作製できる――と。

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