俺は誰と戦っているのか?
俺は俺の『趣味』がある。
最早、これまでの知識と能力は『趣味』を活かす為にある。
もう分かるだろうが、俺の『趣味』は他者を育成し、完成させる事だ。それにより如何なる結果を齎そうが心底どうでもいい……
だのに。
ランディーは快楽主義が勢い余って酷い方向へ飛んでいったものだ。
チラリと新聞記事を拝見すると、I連合国のあちこちで活躍する俺の『趣味』で誕生した教え子たちの報告があがる一方。
パーティ同士で結婚から離婚。
浮気や不倫……あげくはハーレム集団としてマスコミにも持ち上げられたり。
俺は溜息ついた。所詮、こんなものだろうと。
幸いにも破天荒を繰り広げる連中に教えを施したのが俺、というのは未だに発展してない。
だが、最悪な事に学園内にも異常が起こり出し始めた。
サロンでの職員会議にて、エカチェリーナが挙げる。
「近頃、学園内の風紀が乱れ始めています」
心当たりある寮監らは賛同する様に述べていく。
まずはニャンナから。
「ニャニャ……私の寮のフラート君でしょうか……にゃんか目紛しく成績は伸びてるんですけどぉ、女の子達のハーレム状態を形成しちゃってて。しかも、中には政略結婚のある子もいて。にゃんて注意したら……」
次はエドガルが勢いよく息をつく。
「つい最近、I連合国学園最優秀賞を取ったマカロッサもだな! 若者は調子に乗り易いのかねぇ、私も注意をしたがマカロッサも周りの女子が反省の色もない!!」
バジーリも、相変わらず苛立って眉間にしわ寄せながら言う。
「貴様らのいうフラートとマカロッサは爵位持ちではないからまだいい。問題は私の寮に所属するアレグザンダーだ! しかも、政略結婚相手のクリスティアナが同寮にもかかわらず、彼女を省いてハーレムを作っているのだからな!!」
歴史科担当のリッカルダも、政略結婚からの婚約破棄を経験した身であるからか、冷静に判断しているようだ。
「その為に、各々爵位持ちで政略結婚ありきの生徒に『影』がついているのです。問題は学園内で婚約破棄騒動へ発展しないか、動向を探るべきかと。事を荒立ててはいけません……」
恋愛に縁遠いだろう肉体派のダルマツィオは、首を傾げる。
「単に仲良くやってるだけじゃないか? それに男は皆、モテたい年頃だろう! 婚約破棄の騒動も歴史で騒がれるほどの大事だと、リッカルダ先生が教えている!! 単に雰囲気を楽しんでいるように俺は思うぞ! なぁ、ゼッキロ!!」
急に話を振られて、飛び上がるゼッキロ。
バジーリは皮肉るように鼻先で笑う。
「貴様の寮は色恋沙汰もなしか。相変わらず陰気臭い寮だ」
「拙僧、いえ、私の寮ではまあそのあの、騒動とか問題とかありませんのでご安心を……」
徐々に声が小さくなるゼッキロに代わって、エカチェリーナが目を伏せて「バジーリ先生」と注意するように呼び掛ける。
バジーリは気さくに述べた。
「悪い意味ではありませんよ。エカチェリーナ学園長。ゼッキロ先生の寮の特色らしいと褒め称えたのです」
一通りの報告を聞いて、俺も心の内で溜息つく。
本当の意味で出来のいい教え子は、ミディアとランディーぐらいしかいない、か。
ランディーを褒めるべきか分からないが、奴はまだマシな義賊に感じる位、他の教え子がな……
単に育成するだけじゃなく、社会人としての教育も必要って事か?
現に話題が挙げられた連中は俺の教え子のほんの一部……他に調子乗ってハーレム形成している輩も、少なからず存在する。俺の授業中でも、そういう雰囲気ある連中が居るって事だ。
しかしな……
俺は配属された身分。Aランク冒険者の肩書があれど、身分は平民。
生徒相手でも、教員相手でも強く出れる立場じゃないんだよ。最低とも何とでも思え。これが自己防衛って奴だ。
だが、エカチェリーナは俺にも意見を求める。
「ちなみにジョサイア先生はどうでしょう」
「……生憎、恋愛分野は分かりかねます。生徒の動向のどの範囲までを恋愛を匂わせるかも判断ができません。素人意見で恐縮ですが、皆様がそこまで心配されるようなら、講習を行っては如何と」
バジーリが「講習ぅ?」と如何にも小馬鹿にする声色で聞き返す。
俺も効果を保証できないが、婚約破棄パターンの定番は、ある程度の熟知をしている。
「雑学程度の知識ですが、婚約破棄関連で一番の問題になるのが政略結婚の破棄――ですよね。当事者本人は自らの立場を理解しておらず、仮に政略結婚を破棄した場合、どのような事態に至るのか想定していない事が多いかと。たとえ話でも当人にその理解があるかどうか確かめるべきでは? 我々は教員ですから、生徒が理解していない所をフォローするのも務めではないでしょうか」
ここまで俺が語ると、何故か全員がだんまりとなる。
静寂を裂いたのはエカチェリーナで「そうですね」と言う。
「政略結婚をされている生徒を対象に特別講習を行う。ええ、それがよろしかと……社会勉強の一環にもなります。日程は後に決めるとして、講師はリッカルダ先生にお願いしてもよろしいでしょうか」
「はい……私でよろしければ」
リッカルダ自身の境遇もあってか、彼女は複雑な表情ながらも頷いた。
って、なんで流れるように、俺の案が採用されているんだよ?
俺の代わりにバジーリが指摘してくれた。
「待て! 何故、臨時教員の案を採用するのだ!? エカチェリーナ! ……学園長」
「ジョサイア先生と意見が合っただけです。元々、私もそうするべきと考えておりました」
エドガルは不思議そうに聞き返す。
「むしろ、何が不満なのかね。バジーリ先生。私としては悪くない提案とすら思っていたよ」
「……いえ」
バジーリの方は自棄に俺を睨み返すが、俺を恨まれてもだな。
ギスギスした職員会議が終わり。
その後……例の特別講習がされると一部のハーレム集団が大人しく、いや、消え去った風に思える。どれも爵位持ちの連中辺りばかりが。
恋愛脳と思ったが、地位や権力にしがみ付ける屑だった訳だ。
良くも悪くも安心した。
そんなある日。
珍しく天候が崩れて、土砂降りになった日にアイツが――ミディアが前触れなく、この学園にやって来たのだった。
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