恋愛ゲームに関心も興味もありませんが、なにか?
46歳。
悪くない寿命だと感じてしまう俺の感覚は狂っているだろうか?
冒険者をアスリートに置き換えれば、多少、理解されるか。
やはり、スキルやステータスありきでも、肉体的な老化は避けられない性だ。
無論、最高齢で八十歳近い現役冒険者ってのもいるが、大体は四十、三十代……人によっちゃ二十代後半で冒険者を引退し、若手の育成に回る奴が大半だ。
俺の場合……老化が酷く感じる。
一応、老眼や肉体の加速で補える部分はあれど、肉体はともかく、老眼……視野のぼやけは徐々に酷くなるばかりだ。
冒険者を引退……しかも、二十代前半で。
どうなんだか。俺は気づいたら筆を取って、ミディア宛の手紙を書き記していた。
奴は俺とパーティを組みたいから、という理由で引っ付いてきたんだ。
ある意味、俺の老化の件を聞いてどう反応するか、確かめておきたい……興味本位だった。
早朝、新聞を部屋に届けてくれる使用人にミディア宛の手紙を渡し、発送するよう頼むと。
その使用人から、新聞とは別に一通手紙が渡された。
また、学園長がお呼びになっていると告げられ、授業前に伺うようにとの事だった。
手紙。
定期的に送られるミディアからのものかと思えば――予想外な事に、俺の両親からの手紙だった。
俺が出世目的で入国したA帝国が散々な有り様になったんだ。
向こうは勝手に死んだものと扱ってくれていいものを、エカチェリーナの手配で俺の存命を知らせたらしい。
……一体、何がしたいんだか。俺は溜息ついて、中身を確認した手紙をゴミ箱へ放った。
騒がしい生徒たちがいる食堂で、適当な食事を済ました俺は、エカチェリーナの元へ向かう。
社交辞令のノックをし「失礼します」と俺が入室すれば。
エカチェリーナは、すました顔で手元の資料に目を通している。
何用か、を問いただす前に。……これも引っ掛けか、俺は両親の手紙の件から礼を告げた。
「学園長。その……私の両親に存命を知らせて頂き、ありがとうございます」
「……いいえ。大した事ではありません。むしろ、I連合国に留まり、落ち着いた頃にジョサイア先生はご両親へ一報をされていらしてるかと思っておりました」
ああ。心底どうでもいいから、しませんでしたよ。
俺は嫌味を胸の内に秘めた。
エカチェリーナは資料を俺に差し出して「おめでとうございます」と唐突に告げる。
咄嗟に「は?」と俺は言葉を溢してしまう。
資料を軽く目を通すと、以前あった政府に各分野からの意見を徴収する旨の話で、面白半分に色々とアイディアを定期的に提出していたが……
エカチェリーナは微笑を崩さぬまま、ありのままを告げた。
「ジョサイア先生の案が一部採用されたそうです」
………なんだ、一部か。紛らわしい。
俺の場合、採用されて嬉しいとかじゃあなく、根本的にエカチェリーナが好きじゃない。この女に褒められようが嬉しくないし、逆に蔑まれようなら腹立っていた所だ。
にしても一部ね。
俺が資料を確認すると、以前、ゼッキロの魔法陣をフォローする為に考案したドワーフ式魔法陣から、幅広く地熱エネルギーを伝達させる為の術式。あれが採用されたらしい。ああ、無論。これの魔法陣崩し対策も考案してあるが……
「あれ、魔法陣崩し対策の方は採用されなかったのですか」
「ええ。そちらはバジーリ先生の案を採用される事になりました」
「………成程」
所詮、エルフの知恵には俺も劣るか。
あちらは長寿で、物心ある頃から魔法陣と共に生きる種族だ。知識量が豊富なのは言うまでもない。
下手なチヤホヤをされる方が鬱陶しい。
俺が資料を流し見していると、その手元にエカチェリーナが触れてきたのだ。
思わずギョッとしてしまった。
今、俺は最悪な表情をしたんじゃないかと別の意味で焦りを覚える。
エカチェリーナは微笑のまま俺の手元に視線を向けていたので、少しばかり安堵した。
奴は両手で俺の手元を包み込んで言う。
「こちらの生活には慣れたでしょうか? ジョサイア先生」
「……ええ。多少は。今度、四年生の校外学習でダンジョン調査する際に、冒険者の感覚を思い出さないと……と注意するくらいに」
「冒険者、ですか。……やはり、冒険者を継続なさるおつもりでしょうか」
「生涯、冒険者として身を置くと両親にも誓いましたからね」
とはいえ、『趣味』を考えれば別に冒険者を継続しなくても、冒険者の新入り育成を励めばいいだけだ。
俺が三年ほど箱庭に閉じこもっている間。
新たな冒険者が現れているだろうし、実績を糧に他国へ移動するのもアリだ。
しかし……今はランディーの件だ。
エカチェリーナやバジーリ辺りのエルフ連中に、情報が知れ渡っていると、奴の件が解決しないと『趣味』も満足にできそうもない。
残念そうに「そうですか」とエカチェリーナは言う。
「ジョサイア先生もまだお若いのですから、別の将来を考えてはいかがでしょうか」
「別の? たとえば……なんでしょうね」
「ご結婚、とか」
は?
結婚……?
子供の育成……は、どうでもいいが。その。なんだ。
家系的にどうなるんだ? 俺の餓鬼も、あの糞神の影響を受けるんじゃないのか? ……俺の子供だからな。多分。しない方がマシだろ。途中で餓鬼の育成も終わって、飽きるだろうし。
内心色々と考えたせいか「しない方がいいですね」と口走ってしまった。
俺の手に触れてたエカチェリーナも不思議そうな顔をしている。
誤魔化すように「そろそろ授業の準備があるので、失礼します」と俺は足早に部屋から退出した。
そしたら、俺の背後の方から誰かが学園長室の方へ向かう足音が聞こえ。
「エカチェリーナ。私だ。開けてくれ」とバジーリの声が耳に入る。
少し振り返ると、学園内にある植物室にあるもので構成した花束なんだろうか、それを抱えたバジーリの姿があった。
どうも様子が変だ。
バジーリは何かと不満気なのが常だが……
そしたら、物陰から「ジョサイア先生っ」と呼び掛ける声が。
現代社会科担当のニャンナだ。
奴が俺を物陰に呼び込んで、花束を渡すバジーリとそれを受け取るエカチェリーナの姿を覗き見る。
ニャンナは羨ましそうに溜息漏らす。
「やはり、お二人共。エルフ同士で熱々らしいニャ~」
「……ああ。恋愛関係があったんですか」
「ええ!? ジョサイア先生、お気づきなりませんでした!!? サロンの時とか色々あったと思いますけど~……」
そうだったか……? 興味がないので気づく努力もしなかったが。
ああ、いや待てよ。
政府に魔法陣の案を提出する際とか、そんな節があった気も……しなくもない。
「わかりました。お二人の邪魔にならないよう、私も気を使います」
「いえいえ。別にお気使わなくても……ほら~。エルフの方々って長寿じゃないですか、ジョサイア先生のような人間の御方はぶっちゃけ論外? あ、悪い意味じゃにゃいですよ!?」
「ああ、確かに……」
はあ、面倒くさい。
揉め事を減らす為にも最低限、触れないでおくか……これだから閉鎖された場所の関係性や話題というのは恋愛に発展しがちだ。
……生憎、俺は今世どころか前世でも恋愛とは無縁だ。
むしろ、恋愛ゲームを楽しむ為に、来た訳じゃあない。ついでだ。俺はニャンナに現在進行形の政治の話題――とくにI連合国関連の話題を立ち話するのだった。
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