俺の話を聞いてくれる生徒だけを育成するだけの世界
具体的な授業風景などはカットしよう。
まず、魔法が上達しない生徒は、以前にもあった微弱に別属性の魔力を持つパターンだったり、個人ごとの魔力の流れが関係して得意・不得意の魔法を理解させたり。
俺が授業中でダンジョンの活性化やモンスターの大量発生に関する質問をかけられた際、存外、人間の歴史と関係あるんじゃないかと個人的な意見を述べた。
実の所、この異世界では戦争が少ない。
絶対的に『ない』訳じゃないが、俺の元居た世界と比較すると圧倒的に少ない。
何故か?
戦争中、あるいは戦争へ発展間近の情勢になるとその辺りでモンスターの大量発生がよく発生するからだ。
タイミングよく、奇跡的なぐらいちょうど境にダンジョンが誕生し、モンスターの大量発生で戦況が有耶無耶に、冷戦へ移行し、最終的にモンスターの大量発生の対処を協力する事で解決し、終戦というのが幾度か。
ああ、A帝国だってそうだ。ダンジョンの活性化と共に、政府を崩壊させる隙が生じた。それによってA帝国はあっけなく崩壊した。
こういうパターンが不気味なほどに多い。
俺がこの話題をしたらホラー映画でも鑑賞したかのような顔をした生徒が多くいたが「今の話を真に受けるのは騙されやすい人間だ」とも教えておいた。
だが、これでダンジョンの活性化、モンスターの大量発生が歴史に関わっているのではないかと、生徒の一人が熱心に研究を始めた。
ソイツは、俺が目につけていた奴の一人だ。
魔法陣科は使い魔――ではなく怪盗Rの件で魔法陣に関心を持つ生徒がいた。
皮肉なものだ。俺が渾身を込めて完成させた使い魔じゃなく、義賊の方に関心を抱かれるなんて。
無論、そういう生徒でも惜しみなく魔法陣の基礎や効率的な魔力循環の術式など、教え込んだ。
薬学科はそれぞれの属性で調合の具合が異なる。
俺が独学で作り上げたコツ的なレシピを、薬学で伸びる生徒に教え込ませた
同じ理屈で、絵具を調合する芸術科の生徒にも魔法陣による魔力調整の技術を叩き込ませると、絵具だけでなく粘土や硝子細工にも活用を始め、素晴らしい進歩が見えた。
現代社会科の方は、I連合国の自然資源の活用法について討論を交わせる生徒がいたので、彼らと幾度かサロンに招かれて議論を交わし合ったり。
他国との貿易関連も、やはり魔法陣ありきの貿易経路などの空想論を繰り広げた。
そうして、生徒たちは各々勝手に巣立っていく。
彼らの成績が目まぐるしく変化しても、俺の教育あって――なんて建前はない。奴らは自分勝手だ。この異世界の奴らは、いつだって自分勝手にご都合よく解釈する。
誰も彼もが自身の可能性に気づけなかっただけで、気づければあっという間に、あらゆる人間に恵まれ、疎まれ、様々な人生模様を描く物語の主役になれる。
そして、俺は日の目を見ることなく退場し、舞台からは立ち去るだけだ。
大体の生徒の育成が終わるまで、半年どころか一月もかからなかった。
それほど、物分かりある生徒がいなかっただけで、後は淡々と授業をこなしていく傍ら。
怪盗Rの動向を見張っている。
奴は一時、I連合国から離れ事を起こしているようだ。表面上は。
動向を観察していくと、恐らく、奴は『光の魔石』『闇の魔石』の回収を行っている。
どれも市場に出回らず希少な属性だ。
ナナトロワの杖で全ての属性を操ろうにも、その二つの属性を補うのは難しく。双方回収し、目論見の下準備を行っているのが分かる。
最後に――寿命だ。
俺は個人的にゼッキロと交流を深めていった。
魔法陣の話題なら、ノリノリで舌が回るゼッキロ。だからこそ、俺も魔法陣関連の話題で話が盛り上がるのは、存外悪くないものだった。
生徒が質問にも来ない俺かゼッキロの部屋で、魔法陣関連の話題を展開していたが。
この日は、自由時間にゼッキロの部屋にて話題を出す。
「ゼッキロ先生ほどの屍術師になると、相手の寿命が分かる。というのは本当ですか?」
「あ、あー……」
センシティブな話題だからか、ゼッキロの様子は浮かない。
気まずい様子で「まあ、うん」と頷くが、俺の持ってきた菓子に手を付けず視線を逸らした。
屍術師特有の境遇なのか……まだ触れてはいけなかったか。
しかし、俺はそろそろ限界だった。
「……私自身、薄々勘付いています。私の寿命は、大分酷いのでは」
「いいいいいいえいえ、そのような事はっ!」
「私はステータスの原理も理屈も研究しておりませんが……魔力や肉体の酷使によって若くして『ホーリー』を取得できたのではと。肉体の老化具合も、関連があるのではと」
「……」
「むしろ、教えて頂けるなら教えて欲しいくらいです。老い先短い人生設計をするのに役立ちますから」
「そ……そー考えなさるのは、ジョサイア殿ぐらいですぞ。皆、あまり知りたがらないものですしおすし」
「意外ですね。興味本位で尋ねる方が多いとばかり」
「将来に夢と希望を馳せるのが人間ですからな。雰囲気的に屍術師ってだけで嫌われるのが、しょっちゅう!」
ああ、如何にもな異世界連中共らしい思想だ。
深い溜息ついたゼッキロに、俺は改めて尋ねる。
「それで――俺の寿命は、どの程度ですか」
「え、聞きたい?」
「ぶっちゃけ、聞きたくて堪りませんね」
「…………………………その……あくまで老衰するまでの寿命ですケド」
ぼそぼそ耳打ちで聞いた数字に、俺は少々意外だった。
「46? 意外と長いですね」
「意外!? い、意外って!? 嘘っしょ、ジョサイア殿!」
「もっと短いもの、二十代……長くても三十代かと想定してましたが、そうですか」
「ジョッ、ジョサイア殿。その~あまり肉体や魔力を酷使しない方がよろしいですぞ。過度な夜更かしとかも。け、健康的な生活になったら、寿命が延びたって話も――」
「考えておきます」
俺の返答に、ゼッキロは何故か蒼白になっていた。
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