権力が足らない!!!
なんつー事を……他にもランディーの協力者がいるって事か?
俺は今朝の新聞でゼッキロが激怒した理由も、何もかも察したのだが、同時に不可解でもあった。
地熱や浸透水の魔素を利用。
簡単に出来る物じゃない。魔法陣を用いたとしても、砂漠地帯に定期的な雨を降らせるなど……この間、盗んだ天変地異を招くと謳われる『スリンゲルラント』なら可能だろうが。
地熱……簡単に言うとマグマなどの地殻変動を、誰にも気づかれずに出来る物か?
「……闇属性なら」
ってことは、ガルダの野郎か。
いや、ガルダは暗殺者で魔力量は少なめだ。ならば――
闇属性は重力関連の効力の魔法があって、それらを活用すれば緩和できる。
それだけに及ばず、魔石を活用すれば『ナナトロワの杖』を持つランディーであれば……
「冗談じゃねえぞ。このまま、政府の野郎は対応なしか?」
今回、ランディーのような愉快犯の犯行だから良かった……いや、砂漠の生態系を無茶苦茶にしているが、世間体が砂漠化を止めた! 凄い!! と称賛しようが、今回の件で実現が可能だと証明されたのだ。
地熱を悪用する事が。
何の対抗策も講じないなど、愚の極まりだろう。
……なら、実際の対抗策はなにか? 魔法陣だ。魔法陣には魔法陣で対抗するしかない。
地熱も浸透水も、元はI連合国産出だ。これ以上、搾取されるような真似を招く訳にはいかない。
………誰に話す?
俺には権力がない。
王族や政府など、国家にメスを入れられるような肝心な力がない。
焼け石に水かも分からないが、俺は魔法陣の術式を書き上げた。ランディーが使用した魔法陣に類似するものと、対抗魔法陣を。
これを……エカチェリーナに見せたところで進展はないかもしれない。彼女は教員歴は長くない方で、政府組織に関与できるか怪しい。
何もしないより……マシでもあるが。
兎にも角にもだ。
今回は、ランディーが愉快犯だったから良かったものの。
奴が今回使った魔法陣を他国に売り渡さないとは限らない。
俺が学園長室に向かったところで、先客が扉前でウロウロしている。
ゼッキロだ。
昨日までの怒り心頭っぷりは、どこへやら、萎縮しきって気弱な様子。
奴の手には……何か書いたであろう資料の束が。
もしかして、俺と同じ?
無難に俺は自己紹介がてらゼッキロに呼びかける。
「すみません。ゼッキロ先生ですか?」
「うぇ!?」
「ああ、私は今期から冒険科に配属される事となりましたジョサイアです」
「えっ、ア……ドモ」
「エカチェリーナ学園長に御用ですか? お先にどうぞ」
「ヤ、チョッ、そのあの、わ、わわ、ワタクシの事など微粒子と思って頂いて……」
と、卑屈気味かつ早口口調で徐々に小声へなっていくゼッキロ。
………。
普通だったら、コイツを優先させるのが常識だが、コイツの動向を見る限り、何で教師やってんだ?と思うほど引っ込み思案タイプだな。
これで教員をやっていける方が謎過ぎる。
授業中だけは気合が入るのか、魔法陣科という古く役立たない分野だから、教員態度にもお叱りがなかったのか。
試しに一つ尋ねてみる。
「やはり、ゼッキロ先生は怪盗Rの件を黙認できませんよね。彼が悪用した魔法陣の対抗策を早急にうたなければと私も思っておりまして。折角ですから、こちらの魔法陣を見て頂きたいのですが」
少し話を持ち掛けてみるとゼッキロはオドオドしくも「え、分かるの?」と聞き返してくる。
まあ、今の時代、魔法陣の知識がある方が珍しいか。
俺が見せた魔法陣を不思議そうに眺めてくれるゼッキロは、しばし眺めた後、度肝抜いたような顔をした。
「え。うわエグ……いや、初見ですけど構図は分かりみあふれるっていうか。これ誰からの入れ知恵? ひょっとして君自身で発明しちゃった奴です?」
「そうですね。術式は大体、俺自身の独学が多いですね。取り合えず、こちらは探知系……所謂、防衛魔法陣が魔法陣崩しされた際に反応する攻勢型の封陣。あとこれは鬼人の魔法陣を利用した封印魔法陣です」
「ず、随分、マイナー所から引っ張ってきましたな。自分とは違うと言いますか、ぶっちゃけ魔法陣崩し出来る奴なんて今時はおりませんでしょ? なんで防御特化の魔法陣。魔力は地熱で補って発動する系ですぞ」
と、ゼッキロが一部見せてくれた魔法陣の形状を見て、俺は意外性を感じた。
「これはドワーフの製鉄魔法陣の応用ですか?」
「うっお! さ、流石、分かってらっしゃる!! 火の魔素を循環が最もいいのは、やはりドワーフ式! 地熱で発生する火の魔素で一定範囲丸ごと、満遍なく防御を行き渡らせる――あ! す、すんません。ベラベラ喋ってしもうて……」
「むしろ私には無い発想でした。流石、魔法陣科の寮監です。……これをエカチェリーナ学園長に渡そうと?」
「あ、ああ、うん。どうでしょうかなぁ。彼女、エルフですしドワーフ式の魔法陣に何と突っ込まれる事か」
「……いえ。私は今回の件で、政府に訴えようと立場がない為、どうしようもなく。無駄足でも、学園長に相談したかったのですが……」
「エカチェリーナ殿、事業家の父上殿がI連合の政治家と繋がりがあるようですぞ。ワンチャンあるのではと、自分は思いましてな」
本当か?
俺も願ったりな話だ。一度でいいから話を持ち掛けてみるべき……いや、あの女。
以前、俺の行動――庭師の仕事を奪おうとしたのを口止めした奴だ。俺の話を……聞くのか。
あまり、期待しないでおくか……
「お二人共。こちらまでお声が響いておりますよ」
早速、釘を打って来たかと思えば、よりにもよって俺とゼッキロの話を聞き終えて、部屋から出てきたエカチェリーナ。
饒舌だったゼッキロが、顔面蒼白になって俺の背後に隠れる始末。
俺が「申し訳ございません。以後、気を付けます」と前口上を述べた所で、彼女に心願する。
「エカチェリーナ学園長。お話をお聞きになられていたなら、早いです。例の怪盗Rの……いえI連合国のエネルギーを悪用されない為、魔法陣による対策をゼッキロ先生と私とで幾つか考案しましたのを目に通して頂けないでしょうか」
背後のゼッキロが「あわわわわわ。拙僧は無関係にござる」と委縮しているが、俺は構うことなく奴と対峙する。
部屋から現れたエカチェリーナは、しばし目を伏せていると「でしたら」と言う。
「サロンの方で話し合いましょうか。参考までにバジーリ先生のご意見もお聞きしましょう」
よりにもよってバジーリ……と思ったが、奴もエルフで魔法陣には理解があるのか。
ゼッキロは「げぇ、サロン……」と憂鬱そうになって、踵返そうとしていたので俺が咄嗟に掴んだ。
俺の行動にゼッキロが叫ぶ。
「ジョサイア殿!? 拙者、サロンだけは勘弁ですぞ! マナーとかじゃなくて雰囲気が、何か嫌でたまらないっ!!」
「そんなに元気でしたら、問題ないでしょう。ゼッキロ先生。エルフの方々と魔法陣の語り合いなんて滅多に出来ませんよ」
「おぁ~……」
何の生物とも言えない悲鳴をゼッキロは漏らしていた。
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