え!?勝手に直してもいいんですか!!?
一通り、説明を終えてから早速、クエストを受注した。
俺のように固定パーティがない奴らは、他パーティのお荷物……もとい、補助として参加する。
次にギルド内を案内された。
食堂に、書物庫、訓練場、気分転換の為の遊技場まで。どっかの高級ホテルか? ここは。
内装も比較的新しいし、高級なもん。食堂はバイキング形式で料理が並べられるほど。
だが、冒険者の面々を見て納得する。
明らかに値打ちのドレスコードを着て優雅に食事する奴。
国の要人と思しき子息と、そいつを護衛する強面のボディーガード。
成程。
国だけじゃない、他国からの王族・貴族から支援金を貰って運用している奴か。
とは言え、全員が全員ボンボン共ではなく、実力者らしい雰囲気の冒険者もチラホラいる。
だが、本物の冒険者共は食堂や遊技場に出入りしておらず、書物庫のみいる。
どうせボンボン共に阻害され、食事も出来ないんだろう。
最後に、俺は高級な宿舎を横目に隣の古い宿舎へ案内された。
その外では本物の冒険者共が宴会を開いており、貧民層らしい傷のなめ合いのようなどんちゃん騒ぎを起こしていた。
職員は「うるさくてすみません」と俺に謝罪し、冒険者共にも注意している。
どうせ、隣の貴族連中から苦情が来てるとかそんな話だろうな。
俺はそそくさと自分の部屋を確認すると、中はホコリ塗れでボロボロ。
どうせこんな事だろうと、俺は清掃用と修復用の魔法陣を展開。
風呂とトイレも完備してあったが、水が出ない。解析魔法の『スキャン』で構造を確かめると水回りどころか水道設備全体の不具合で、他の部屋も駄目になっている。
水回りを完全修復すると自動的に俺以外のところも直ってしまうが、まあいい。
そしたら、職員が俺の部屋に入って来て――
「ちょ、ちょっと、先に入らないで下さい! ……って、ええ!?」
「あ、すみません。魔法で部屋と水回りの修復、勝手にしてしまいました」
「ちょ。え、直ったんですか……?」
「ええ。ご覧の通り。勝手に直してしまったので、修理費とかはいりません。むしろ、魔法を鍛える為にこういう副業が必要なんで……ついでに宿舎全体も可能な限り修復しましょう」
「え……っと。できるんですか?」
「まあ、帝都にいた頃はこの宿舎よりも大きな建造物を一日で一つや二つ、直してきましたから。無断修理や無断治療が禁止されていると法律にはありませんでしたので。勝手に直しますね」
「うえぇえぇぇぇぇ!?」
帝都を出国した一番の理由は無断治療を禁止されたからだ。
無断修理は禁止されちゃいないが、法律で通されるのも時間の問題だったろうな。
ちなみに、B共和国だと無断修理も無断治療も禁止。どちらにしろ、あそこへの亡命は選択肢になかった。
他の冒険者共が変な顔をして俺を観察してたが、今はカーテンとシーツの洗濯で忙しいんだよ。
さてと。
酷い惨状だったが、大分スッキリした。
一段落済んだところで、食堂からくすねてきたパンを食いながら明日のクエストを確認する。
同行するメンバーのリーダー……『クリストフ・ル・クレジオ』。
おい、コイツ確か。B共和国の派手な貿易商『クレジオ商会』の息子だったか?
お遊びで冒険者やりに来た感が否めないな。
同行者も商会と繋がりありそうな貴族ネームの同年代が三名。
んで、クエスト内容は『しびれフォックス退治』。……これがBランクだぁ?
『しびれフォックス』はⅮランクのモンスターじゃねえか。
何々、確認された数が三十から四十を超えるのと、周辺で上級モンスターが確認されてるから高ランクに設定って……
馬鹿か!?
『しびれフォックス』なんざ罠使って楽勝だぞ、くだらねぇ!
あーあ、何もかも貴族基準で判定されちまってる訳か。アホらしい。
とは言え、今の情勢で別の国に向かってもだ。
それこそW国からE王国を抜けて、大陸自体から脱出するしかないんだが……
一応、前と同じ金稼ぎでもやっておくか。