ジョサイアと奇妙な寮監たち
服を仕立てる際、仕立て屋に「若い方だと聞いたのに」「明るめの色を合わせようかと思ってたけど」「全然、色が合わないわぁ。でも年寄り臭い配色が似合ってても流石に」などと、服の色合わせであれこれ言われた。
一先ず、入学式までに服は完成すると今日は立ち去った。
俺の手元には眼鏡だけある。
度数的にも老眼もので、シンプルな銀縁の眼鏡が早急に完成。
視界が霞んだ際、ちょっとだけかける為、眼鏡にはチェーンがつけられる。
普段はかけないでチェーンで吊るすか、胸元のポケットとかに入れる感じだな。
……やはり、そうなのか。
未だ、この世界のおける経験値の原理……魔法やスキルのレベルに関して謎多い部分がある。
解明しようとする人間が、ごく少数の為、話が進んでいないのが原因だが。
少なくとも俺の場合、A帝国での過酷な魔力消費で老化が進んでしまったと推測される。
裏を返せば、それほどの摩耗をしなければ若くして『ホーリー』は取得できない訳だ。
寿命も縮まっている――なんてあるかもな。
ああ、でも待てよ。
確か……魔法陣科の寮監は屍術師だったな。
普通、魔術師が担当するべき部門だが、時代遅れ扱いされたマイナー学問に精通している魔術師の方が少なくなっている現状だ。
どうせだったら、知識が精通している奴を雇う。
薬学科の寮監も薬剤師だし、他の――とくに魔術とは無縁の現代社会科、歴史科の寮監も魔術師じゃない。
話は逸れたが、魔法陣科の寮監――ゼッキロに寿命の確認をして貰うのは、どうか。
上位の屍術師は相手の寿命を見る事ができると聞く。
寿命と言っても、一個体の生命活動限界年数……老衰に至った場合の寿命である。
まあ、俺の老化云々以前に、将来の計画を立てる為、聞けるものなら聞きたいくらいだ。
入学式が近づくにつれ、続々と寮監が学園に現れた。
翌日、俺が毎度お馴染みの自己紹介をしたのは二人。
一人は現代社会科担当のニャンナ。女の獣人族だった。
俺の前世じゃ、コイツみたいにピンク髪でケツから尻尾生やして、ピクピクする獣耳に巨乳。こーいうのが好きな奴が多い……って偏見もあれだが。オタクとやらが好みそうな外見だなぁと思ってしまう。
「初めましてにゃ……です! 私、現代社会科担当でモンテヴェル寮の寮監・ニャンナです。これから三年間、よろしくお願いしますに……よろしくお願いします!」
帰省したせいか、獣人特有の語尾が時折混じりながら笑顔で挨拶してくれる。
ああ、こういう女って心開いた相手なら気安くなりそうで。
基本的に、誰相手でも笑顔で接するとか。
そんな感じだな……
もう一人が眉間にしわ寄せて俺を終始睨んでいた薬学科担当のバジーリ・ボナヴェントゥーラ……以下略。そう、癖ある長い名前で有名なエルフ族だ。
短髪のブロンド髪で歳は……分からない。老けてないから、ジャンより年下とは思われる。
バジーリは、俺の見るなり「なんだ! その腑抜けた格好は!!」と容姿に突っ込んで来た。
俺は渋々事情を説明する。
「すみません。先日、仕立て屋の方に採寸されたばかりで、服は支給されてないのです」
「はぁ……これから平民あがりは。その眼鏡は! ……フン。それは支給されたものか、ならいい。これからは身につけるもの全てに気を使うのだぞ。貴様が相手するのは富裕層・貴族のご子息だ! であれば教員の貴様も失礼のない恰好でなくてはならない!! 全く……上質なのは杖だけか」
一瞥しただけでヘルコヴァーラの杖をランクを識別したのは、流石は上位の薬剤師だ。
奴らは『スキャン』などの鑑定魔法に補正がかかっている。
鑑定士とは違い、植物系に関する識別だけは薬剤師が担った方が良いとまで言われるからな。
それにしてもバジーリは……エカチェリーナ以上に、口を挟んで来そうだな。色んな意味で。
生憎、ファッションには興味も意識もなかったが……仕方ない。
図書館とかで雑学程度に知識をかじっておくか。
☆
翌日、凄まじい勢いで門を通ったのは芸術科のエドガルだった。
薄い黒髪・ちょび髭・小太り・低身長のドワーフとは言えない速度で、画材などを運搬している荷車と共に、駆け抜け。学園内にある全ての絵を見て回っていた。
中には土属性の防御魔法を薄かけ直しているものまで。拘りようが強いので、俺が協力を呼び掛ければ速攻で断られそうな雰囲気だな。
でもまあ、挨拶はしなくちゃならない。俺が声をかけて自己紹介すると美術品に防御魔法をかけながら「あーはいはい」と鬱陶しいそうに返事をする。
「君が新入りのね。今、忙しいんだ。ちゃんと防御魔法をかけておかないとね! 何百回注意しても触ろうとする馬鹿っ……生徒が毎年いるんだ。本当、嫌になるよ!!」
「確かに……私も芸術には疎いですが、昔の絵具には人体に害を及ぼす鉱物が混じったものがあるんですよね。触れないよう、私が『シールド』で結界などしましょうか――」
「えっ、あ、君! 分かってるじゃないか!! そうだよ、そーなんだよ!! この広間と各寮の応接間に飾られている絵画はほとんど、約百年前の代物で当時、絵具に用途されてた鉱物が危険とされ、今じゃもう再現できない希少な色合いなんだ!」
――と、長々熱弁された。
エドガルは、ドワーフには珍しく魔術師なのだが、魔力で色合いを変えたり、加工する芸術に熱を入れている芸術家でもあるらしい。
この様子だと友好関係上、上手くやっていけそうだな。
☆
次の日。
俺から尋ねるまでもなく、向こうから俺の部屋に訪ねて来た。
如何にも赤髪で体育会系の大柄な男。
こいつが意外な事に魔術科を担当する――
「俺が魔術科担当のダルマツィオだ! よろしく頼む!! ん? 珍しくも若い冒険者が来ると聞いたが、俺の勘違いだったか? はっはっはっはっ! まあいい!!」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「そうだ! ちなみに俺は『デフェルタック』の部活顧問をしている! 興味があれば見学に来てくれたまえ!!」
典型的な熱血系というか。
いや、成績態度の文面からでも薄々そんな気がしてた。普通に交流は……出来そうだし、俺の趣味も邪魔しなさそうだが。正直、絡まれたくないタイプだ。
ちなみに『デフェルタック』というのは、俺の元居た世界でいう『アメフト』的なスポーツだ。
他にも、この学園に部活動が幾つか存在して、ダルマツィオのように寮監たちが部活顧問をしている。
残るは、魔法陣科担当のゼッキロ。
あと、歴史科担当のリッカルダ。
「あ〜!!! クソクソクソ! ふざけるんじゃねえ! なぁ〜にが『怪盗R』だ! クソキザ偽善者野郎!」
!?
耳を疑う単語が聞こえた矢先、くせっ毛激しい藍色髪の男が黒ローブを羽織り、大鎌引きずってイライラしながら、何処かへ向かう姿があった。
ダルマツィオが目を丸くして言う。
「おお?! どうした、ゼッキロ! あんなに怒った奴を見たのは俺も初めてだ!!」
あれがゼッキロ……どころじゃない。
怪盗R、ランディーが何をしでかした?
それを俺が把握するのは、翌日の事だった。
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