ただの生徒には興味ありません
俺には三つの空間が与えられた、
一つはプライベート用の自室。風呂場、水回りが完備された場所。
トランクに詰めてきた俺の『趣味』用の資料を、整理できるだけのスペースが完備されてる空間だ。
広さは十分。
備え付けのベッドは柔らか過ぎて、逆に寝付けるか怪しい奴だ。
次は教員室。
授業以外での俺の仕事部屋みたいなもんだが、実のところは別の用途がある。
就寝時間まで生徒には自由時間が設けられていて、その間に、生徒が授業内容などの質問をしに尋ねてくるらしい。
そんな勉強熱心な生徒が、どれほどいる事か。
因みに、俺の教員室と自室は隣同士で繋がっている。
最後に教室。
本格的な授業はここで行われる。
教員用の机……資料スペースには冒険者関連の書物が一通り揃っている。
大体、俺が暗記しきったメジャー書物ばかりだが……他にも、机の上には俺が目を通さなければならない資料が山のようにあった。
前任の冒険者から引き継がれた各学年の授業内容と、生徒の成績態度の報告書だ。
俺は逆に感心した。
俺の前任者は真面目な奴だったらしく、事細かに記載してくれている。
冒険者故に適当なまとめ方をしているんじゃないか、と期待していなかったんだが……
俄然、やる気が出る――俺の『趣味』の意味で。
「さて、と。まともな奴はどれほどいるか」
ある種の選定作業が始まる。
俺のやり方は変わらない。話の聞かない奴は論外。それ以外は途中まで育成してみる。
……フム。中には冒険者を目指す奴がいる。全学年合わせて三十二名だけ。
それと、今期の新入生にも数名。冒険者を志す奴がいると聞いているが……本当の意味で冒険者を志している奴を更に、篩い分けねぇと……
しかし、これだけじゃあない。
俺の雑学で伸びる本命は、魔術科本命の優等生にもいる。あと薬学科の方も。
魔術師に薬学が必要なのかと問われると、案外、魔法ありきで完成する薬品がいくつか存在する。
その際、魔力の正確なコントロールが必要になる。
最後に魔法陣科。
こっちもこっちの分野の優等生や、それ以外で候補がいる。
更には最新鋭の使い魔の件で、魔法陣科は注目される事、間違いない。
他は現代社会科、歴史科、芸術科。……一応、全部の成績も把握していく。
以上、合計で必須科目は七つ。
寮は六つに分かれていて、寮の担任教員――寮監はそれぞれの科目を担当する六人の教師に振り分けられてる。
冒険科の俺は蚊帳の外だな。
エカチェリーナ合わせて七人と三年間、上手くやっていかねえと駄目、と。
「……成程」
俺は前任者がまとめた資料から、数十人ほどピックアップした。
彼らと実際に対面するまで、何とも言えないが教えがいがあって、俺を満たしてくれそうな人材だ。
他に……四年生で校外学習のダンジョン調査を希望する生徒。
コイツらはな……W国で現を抜かしてた貴族冒険者と同じ雰囲気が漂う。宿題のレポートは完璧。なのに実技試験だけ普通。胡散臭さが極まりない。誰かにレポートをやって貰ってるんじゃねえのか?
……エカチェリーナが不正行為を見過ごしている?
まあ、学園もお貴族様の支援あって成立する節があるもんな。多少は――
「!」
突如、誰かが教室に入って来たものだから、俺が身構えると『杖の花』を明かりにするエカチェリーナの姿があった。
本物か? ……疑い過ぎか。
一応、ヘルコヴァーラの杖から遠距離の『スキャン』を発動すると、エカチェリーナが長い溜息をつく。
「熱心なのは感心しますが……就寝時刻の二十二時を過ぎていますよ。ジョサイア先生」
「……そんな時間でしたか」
「それと警戒なさらずとも、私の結界内で異常が検知されれば私が対応いたします。ご心配なさらないでください」
「ああ……すみません。冒険者としての癖みたいなものです」
「……貴方の部屋に運んだ夕食も冷めてしまっております。給仕の方に温めなおして貰うので、夕食を取って、速やかに就寝して下さい。これからは、貴方も生徒の鑑になるのですから、過度な夜更かしはお控えください」
「……はい」
まあ、今日はここまでにしておくか。
それに――ピックアップした生徒以外にも有望な生徒はいるかもしれない。これはあくまで前任の冒険者の資料を参考にしたものだからな。
あと……
俺がエカチェリーナの指示通り、夕食を済ませた後。
鏡に映る自分の姿を改めて確認した。
老け顔なのは、親譲りの皺が遺伝してものだが……髪。黒く戻った方だが灰色がかっているし、若白髪も要所要所に生えている。
老眼……老化……そういうことか……?
俺も薄々気づきながら、気色悪い程に柔らかなベッドに体を沈めて、眠りについた。
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