冒険者なのにマナー研修をする事になった件(ついでにファッションも)
早速だが、俺は俺でサックウィル学園の概要を把握し、必要なものをトランクにぶち込んで、ヘルコヴァーラの杖に乗って向かう。
無論、サックウィル学園にだ。
入学式、新学期の当日でもない。それらの一週間前に俺は学園から呼び出された。
共同住宅の大家にも事情を説明し終えて、ミディアにもこれからは学園住まいになると報告した。
ミディアは、自分が配属される学園と俺が配属される学園とて距離があるのに不満らしく。
いつもの拗ね顔を披露する。
ミディアに「その拗ね顔は餓鬼っぽいから気を付けろ」と俺が注意し、ついでにランディー関連で、否、些細な事でもいいから何か異常があれば俺に連絡するよう伝えた。
それで、だ。
臨時教員とはいえ、学園内での云々だったり、他教員との顔合わせだったり……あと講義用とかの服を仕立てる為。
以上が、俺が早めに学園へ呼び出させられた理由だ。
他にも、俺は平民あがりだからご貴族様の機嫌を損ねないよう、マナー研修をするんだとか。
マナー……今回の場合、言葉使いじゃなく、テーブルマナーの類だった。
生徒がサロン――所謂、ちょっとした茶会兼社交場を設けるのは資料にもあったが。
どうやら、教員同士でもサロンを通して職員会議を開くらしく。
あぁ~~~~~、マジクソ面倒くせぇ~~~~……
まだ、A帝国でのサービス残業やってる方が楽なほど面倒くさい。
サロンの職員会議が、恐らく俺の学園生活において最大のストレスを与える場になりそうだな。
苛立ちを抱えながら俺は、居住区のキャメロン地区から光速で飛んで、I連合国内の地区を五つほど挟んだ先にあるポッティンジャー地区のサックウィル学園へ。
学園周辺は寮学生と、学園行事に伴って活気溢れる観光向け商店街と、居住区になっている。
学園周辺以降は、豊かな自然が広がっており、ここらは地熱エネルギーがないものの。山からの源流で生み出された川が隣に流れて、野生動物を狩猟したり、無難な農作物を作ったりという田舎だ。
まぁ、寄宿学校周辺の町や場所が大体こーいう田舎なんだけどな。
さて――問題の学園だが、杖の花で周辺を索敵してみると、色々出入りがある。
顔や体格を隠す仮面や衣を纏った奴らを、門番が普通にやり取りし、通しているのは彼らが『影』……この学園に新入生として入る坊ちゃん・お嬢様の警護として裏に配備する用心棒だからだ。
彼らは、学園の視察をしに来ているのだろう。
そして――学園の警備、もとい結界が厳重に張られている。
堅物な術式。
成程。こりゃアレだ。十数年前に赴任したエルフの学園長の結界か。もう術式の構図でエルフのもんだと分かる。
俺も行くとするか。
門番に事情を説明すると、奴らは俺の杖が独特だから直ぐ分かったようで、用心棒の『影』よりも潔く学園に通してくれた。そして「到着され次第、まずは学園長室にいらすようとの言付けです」と門番が俺に伝えた。
学園内は……成程。
どうやら、学園内にも厳重な警備……監視システムがあるな。
『杖の花』らしい翡翠色のクリスタルが要所に鎮座してあったり、巡回している。
間違いなく、学園長の『杖の花』。俺と似たような真似をしてる訳か。そういう意味じゃ魔術関連の世間話くらいは出来そうだ。
学園長室の扉に到着し、俺はトランクをヘルコヴァーラの杖の先端に、上手い具合に引っ掛け。
杖自体、俺の背後に浮かせ。
杖の派手な見た目を隠す為に布で覆ってから、扉をノック。中から低いトーンの女性の声が聞こえた。
『どうぞ』
「……失礼します」
学園長室……というが、来客用なんかじゃない。
ジャンと似たような研究所に近い内装だ。所狭しと資料が詰まれ、重要な物品類には防犯結界が張られ。
しかし、整理はされている。
学園長が座るべき机と椅子から、来客用のテーブル席まで、一切のホコリすらない綺麗よう。
そして、学園長の座にいる女性エルフはスラッとした細見で、ロングブロンドヘア。エメラルドの瞳。
これでも歳は200越えの魔術師。
名はエカチェリーナ……
「私は『エカチェリーナ・エテラヴオリ・ヴィ・パイヴァリンタ・トゥッカーネン』……以降、エカチェリーナと短く呼んで下さい」
「はっ。では……エカチェリーナ学園長。私は今期より冒険科に配属される事になりましたジョサイアと申します。三年間という短い期間ですが、よろしくお願いします」
エカチェリーナは何故か眉をひそめて、俺をジロジロつま先まで観察し。
彼女の『杖の花』である翡翠色のクリスタルが俺の周囲を巡る。
不穏な動向を見せたうえで、いきなり俺の腕を掴んで来た。ブツブツと何か呟いた後、エカチェリーナは手を放して資料を渡す。
「……早速ですが、本学園の根本を説明します。本学園は貴族と平民が混在する魔術師専門学校ですが、ここへ入学される平民の生徒は平民でも富裕層の平民です]
ああ、そういう……俺は察した。
「生徒主催のサロンを許可しているのは、貴族との繋がりを設ける意味もあると」
「察しが良くて助かります。ジョサイア先生にはサロンのマナー講座を受けて頂き、後に平民の生徒向けのマナー講座の講師も担当して貰います。やはり、身分の弊害がある為、平民同士……ジョサイア先生。視力が悪いのですか?」
視界が霞んだので資料を遠ざけたり、近づけたりした俺をエカチェリーナが指摘してきて。
「すみません」と目をこすった。
近頃、目の疲労でも溜まっているのか――と思ったが、視力の低下かもしれない。
前世じゃ、視力の低下なんて経験したことない。
これでも俺自身で検査をしているんだが、健康体だ。身体的な異常は、ないんだが……
「老眼かもしれませんね」
エカチェリーナの呟きに俺は顔を上げた。
彼女は素知らぬ顔で「眼鏡の方もこちらで用意いたします」と加えて言う。
老眼? ………。
俺の不安を他所にエカチェリーナが語るに語る。
「一先ず、お疲れでしょう。今日のところは、ジョサイア先生は自室でゆっくりお休みになって下さい。明日から午前にマナー講座。午後に専属の仕立て屋が夏服、冬服、その他行事用の服を仕立てて下さいます。それと、始業式までの一週間までに他の担当教員が順次、到着されるのでご挨拶を」
資料をめくると、どうやらこの学園。
毎年、貴族連中と平民と平等にする為に制服を設けておきながら、奴らを飽きさせない為に毎年制服を変えているとか。教員の服も毎年変わるって……逆に気が狂うだろ。こんなん。
様々な不穏要素を抱えたまま、俺の教員生活が始まるのだった。
これより、ジョサイアなりの学園生活が強制的に始まる……
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