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武器が擬人化する必要なんて、あるんですか?


ここはI連合国ではない、某国某所。

古びた廃墟にて、二人の男がテーブル席で対面し、蝋燭……ではなく杖の花が赤く灯って、照明代わりになっている。

その杖の花の主こそ、巷を騒がせている怪盗R……ランディーだ。

彼はガルダに渡された資料を適当にパラパラめくっている。

ガルダの話を聞いているか定かじゃないが、ガルダ自身は淡々と報告を述べていく。


「……I連合国の情勢は以上だ。地熱エネルギーを活用した発展へ方針を固めると政府上層部では話し合われている。それとジョサイアに例のカードを渡してきた。奴は近い内に『サックウィル魔術学園』で三年間、臨時教員として配属される」


「サック……? どこそこ??」


ランディーが興味示したのは、ジョサイアが配属される学園だった。

呆れながらも、ガルダはランディーに渡した資料の一つを指さして言う。


「一応、調べた。今年で設立五十周年の全寮制の寄宿学校。職業適性があれば貴族も平民も所属できるせいか、一昔前の婚約破棄流行でその年代の卒業式は散々だった程度の事件しかない。大した事ない場所だ」


「婚約破棄かぁ~、なっつかしい」


「……ところで、この間のメイドはどうした」


「え? アレ。ジョサイアが作った使い魔だよ。分からなかった?」


「そうじゃない。その使い魔をどうしたと聞いている。こんな廃屋程度、清掃する知識はあった筈だろう」


気まずそうに資料から顔あげたランディーは述べる。


「あー……うん。なんかなぁ。やっぱ生身の人間と違うんだよねー。こーいう対話しててもさ、面白いこと喋ってくれないし?」


「なら、あそこで拗ねてる()はなんだ?」


ガルダが顎でしゃくる先には、衣一枚纏った美少女がいる。

だが、不思議にも黄緑がかった金髪はフワフワと揺らめいて、時折パチパチと電流が音を鳴らし光る。

体育座りして拗ねた顔……風船の如く、頬を膨らませた姿は廃屋に居座る浮浪者じゃなかった。

面倒くさくランディーが溜息混じりで答える。


「あれだよ、あれ。この間、盗んだ……えーとスリルゲロランド?」


()()()()()()()()じゃ!」


と、美少女――スリンゲルラントが叫んだ。

同時に彼女の周囲に電流が走り回り、咄嗟にガルダは闇属性の防御魔法を使う。

彼らのいる場所まで被害は及ばなかったが、電流が走った箇所はそこかしこ焼き焦げていた。

そして「ワシの事は『ルラ』と呼べと言ったじゃろう!」とスリンゲ()()ント――以下、ルラがランディーに指さす。


眉をひそめガルダが問う。


「あれが災害指定武器……? 何故、人間の姿なんだ。しかも女」


「かつてのワシの使い主のユニークスキル『()()()』の効力じゃ! あらゆる物を人の形に留める唯一無二のスキルよ」


擬人化、という単語に「ああ」とガルダは納得する。


「大昔に面倒なスキルを使いまくったって伝説の擬人化師がいたな。そいつが擬人化とやらをしたもんは大体が災害指定だの、危険因子だので封印されまくった……スリンゲルラントも『擬人化』されてたのか? 元は人魚族の代物だった筈だぞ」


ランディーも悩ましい表情で唸る。


「俺もそう聞いてたんだけど、魔法陣崩しする前に内部分析して、擬人化されてんのは分かってたんだけどさぁ」


「分かって解いたのか、お前……」


「いや、分かって解いた割には想像と違くて。擬人化師が擬人化したのは大体、性格が良くて美人な女の子になったらしいじゃん? そーいうの期待してたんだけどさぁ~」


ランディーが再び溜息をついた。

ルラは美人に分類されるが、性格の方は……芳しくない。

ただ、ルラは反抗的な態度ながらも、何か思うところあるような意味深な雰囲気で話す。


「ワシはメイドの代わりにはならん! ……じゃが、協力しないとは言っておらん。一応は、仲間になっておるぞ」


曖昧な立ち位置に呆れたガルダは「それで」とランディーに確認する。


「次の依頼がないなら、俺はもう行くぞ」


「辛辣だなぁ、ガルダのおっさん。次の依頼出すから、世間話くらい聞かせてよ」


「依頼だけ聞かせろ。報酬金も前払いで幾らか出せ」


「わーったって。ジョサイアも、ガルダのおっさんも、A帝国出身者ってせっかちなの?」


ランディーが廃墟のテーブルに敷いた地図を眺め、I連合国の()()に注目する。


「水辺から攻めるかぁ。周辺の人魚族の動向、調べて欲しいんだけど」


そしたら、ルラが不安げな表情をする。

ガルダが具体的な調査範囲などをランディーに確認し、他幾つかの確認の後、前払いをランディーが差し出し。中身を確認したガルダは立ち去った。

ルラに対し、ランディーが言う。


「地熱エネルギーに目がいきがちだけど、案外、水もあるんだよなぁ。えーと、ほら山の原理とか知ってる? 君」


「ワシは……人魚族に合わせる顔がない」


少々、間を置いて深刻なルラに対して吹き出すランディー。


「あのさぁ、だ~れも気にしちゃいないって! どんだけ昔の話よ。君が引きずってる奴って」


「ワシは! 擬人化の影響か分からぬが、舞い上がっておったのじゃ!! 元々は人魚族に使われていた道具に過ぎなかったというのに……それで……」


「俺も後気味悪くなるオチは萎えるから、変な想像しなくていいって」


「……うむ」


複雑な表情でルラが頷く。

ランディーは地図上を眺め続け、何かを模索していた。

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