卒業パーティーで婚約破棄宣言して、他人に迷惑をかけないで下さい
俺は最初、やられたと舌打ちした。
メッセージの意図を理解して、周囲を索敵したがガルダを捉える事はできなかった。
潜伏スキルのある暗殺者で、俺と相性最悪の闇属性だ。ガルダの人格を思い返せば恐らく、もう周辺――I連合国の国境付近まで行っているな……畜生。
ガルダはまだランディーに雇われている。
俺がI連合国のどこにいるかまで突き止めて、事あろうか、I連合国内で何か騒動を招く。
それこそ、ランディー……怪盗Rの手口だ。
所謂、このメッセージは犯行予告。
ミディアと同じく、部屋に何か細工されていないか調べ、犯行予告カードも徹底して『スキャン』による分析をしたが、異常は発見されなかったのでカードを『ホーリー』で跡形もなく消す。
俺は思考を巡らせる。
つい最近までは魔法陣の術式の紙で張り巡らせていた壁も、今はI連合国と周辺諸国の詳細な情報を書き込んだ地図を貼り付けている。
統計データから、地熱エネルギーが活発な地域。
農作が進んでいるエリアから、政治的暴動、ダンジョンの活性化……
俺が構想していたI連合国大陸横断の運搬ルートの構図は、別の地図に描いて貼り付けたりと。
……分からない。
実際、ランディーが何をしでかすかは想像つかない。
奴が『面白い』『楽しい』と判断した行為を実行に移す愉快犯だ。
とはいえ。
奴が『ナナトロワの杖』を使いこなせているなら、地熱エネルギーを利用した事を起こせる。
調査すればするほど、I連合国は地熱エネルギーに恵まれた土地。そこをどう付け込まれるか次第になるぞ……
俺が頭を悩ませている最中、誰かが俺の家に訪問してきた。
ミディア……じゃない。
聞き覚えない女性の声が聞こえる。
「す、すみませーん。ジョサイアさん。私、I連合国教育委員会の冒険者教員部門に所属してます。エイベルというものなんですが」
………タイミングが悪い過ぎるんだよ。
俺は使い魔に対応を任せた。
狐型の使い魔が、エイベルを出迎える前に扉越しから異常がないか検知して貰い。
問題なしと判断されれば、扉は開かれ、エイベルが「失礼しまーす……」と小声で恐る恐る入った。
対して俺は、壁に飾られてた地図を取っ払い物置へ。
エイベルは小柄……少女並の、しかしそれでいて、大人びた職場の制服を着こなしている不釣り合いな存在だった。
ああ、ドワーフか。
製鉄が得意で鉱山地帯に住まう人族。大人でも子供程まで成長しない。
キャメロン地区でもドワーフが営む武器工房があるんで、存在自体は珍しくないが、教育関連の職についているのは珍しいかもな。
エイベルが足元に落ちてた一枚の紙に気づいて、手に取る。
あれは――俺の妄想未満に留まってるI連合国の大陸横断運搬ルートの図面。
変に問われるより先に、俺がエイベルから図面を奪い「何の御用ですか」と先に問いただす。
困惑した表情でエイベルが「あの」と口を開く。
「ジョサイアさんはもう間もなくAランクに昇格するとの事で、教員制度に関してご説明を伺いに……」
「すみません。突然の来客だったので、急いで部屋を片付けたんです」
図面を物置へ放り込み。
エイベルの為に茶を淹れて、来客用の席に座って貰い。俺は対面に腰かける。
コイツは新入社員なのか、落ち着きない緊張気味な様子で喋り出す。
「えっと、こちらがジョサイアさんに赴任して頂く学園――『サックウィル魔術学園』の資料です」
「……? 光属性専門学校ではなく。ああ、いえ。私は珍しい光属性ですから、そちらへ派遣されるとばかり」
「あー、はい。光属性専門学校にいらっしゃる方のほとんどが女性で、何より向こうは男禁制。向こうも頑なにそこは譲らず。という事で、ジョサイアさんは魔術師という訳で魔術師専門学校の方へ赴任となりました」
入学はともかく、赴任は別と。
まあ、その方が俺も気楽で助かるけどな。
詳細資料に目を通すと、無難というか、良くも悪くもないパブリックスクール……全寮制の寄宿学校。
学年は四年制。
ただし、四年生になると就職活動を優先するので、学園生活に励むのは大凡三年まで。
俺が赴任するのは、現時点で三年間。担当は冒険科。所謂、冒険者の心得やダンジョンに関する授業をする。
概要を把握すると――どうやら、貴族も平民もごっちゃ混ぜの学園らしい。
嫌な予感を覚えて俺がエイベルに尋ねた。
「この学園、過去に卒業式で婚約破棄騒動がありましたか?」
ブッ!と紅茶を吹き出すエイベル。
ああ……この反応だと、前科が何件かあったみたいだな。
一時期ブームになった貴族の若者による婚約破棄。
真実の愛を宣言する事でよくあるシチュエーションが、卒業式に開かれるプロム――プロムナード、所謂、フォーマルな舞踏会という大衆の面前。
ブームになった小説が、そうだったから。それに便乗して、ってのが多いが。
貴族と平民とが平等に生活を営むこの全寮制の寄宿学校だと、平民の女が貴族の男を誘惑し、玉の輿を狙ったり。
貴族の男が貴族にはない平民らしい奔放さを持つ女に惹かれ、浮気したり……
パターンは幾つかあるが、婚約破棄騒動に警戒して、世界各国の学園が卒業式に警戒する滑稽な有り様だ。
エイベルが吹き出した紅茶を魔法でサッと清掃し、彼女の服の汚れも落とす。
彼女は一瞬、呆然としたが。
慌てて、首を横に振って話を続ける。
「た、確かに! 当時、婚約破棄が流行した時期にはありましたが、ここ最近、近年は一切そのようなトラブルは起きておりません!!」
「……まあ、起きたとしても然るべき対処は可能です」
「いえ! 起きませんから!! 普通、あってはならないんですよ!」
エイベル自身、何か根に持っているかのように熱く否定し終え、一息ついた。
「と、とにかく……ジョサイアさんには申し訳ございませんが、Aランク昇格早々ですが『サックウィル魔術学園』の一学期より臨時教員としてお願いします」
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