初めての犯罪は なんてことなかった
俺とミディアが緊急クエストに向かったら、案の定、ウェスカー地区の大型商業施設の建築現場だ。
何でも、植物のほとんど枯れ果てたり、木製の素材に放火が発生したりで。
商売妨害が起きている。何とかして欲しいとの依頼だ。
……最初から嫌な予感はしてたんだがな。
建築現場でミディアに『ヒートセンサー』の熱感知魔法をして貰うと、やはりここにも火属性の魔石が幾つも地中に埋まっている。
現場監督に事実を告げても中々信用されず、仕方なく俺が強引に地中を掘り起こして見せたら、向こうは納得する他なかったようだ。
俺は淡々と告げる。
「キャメロン地区でも似たような事例がありました。これは地熱……地中で火属性の魔素が発生する現象です。I連合国は、ここ最近、地熱問題が多く発生しているのはご存知でしょうか」
むしろ、建築する前に地質調査くらいして欲しいところなんだが。
一応、ここらを商業施設にしたいなら、専門家の監修の元、地質調査して温泉リゾート地とか、地熱エネルギーを活用した工業地帯にも出来る筈だ。
と、アドバイスをした。
俺も可能な限りは口出しするが、あくまで冒険者の身分。
最低限に留めておいた。
現場監督は頭抱えながらも「観光リゾート地に、いや、それではキャメロン地区に出遅れているし……だが、こちらはこちらで」と模索しているようだった。
別に無駄な資源ではない。
活用できるなら、観光でも、工業でも、異世界のここじゃ火属性の農作物にも。なんだって活用できる。
問題は、人種がそれらを上手く活用できるか、否か。
そして、活用するに至れば問題も浮上する訳で――俺とミディアが帰路につこうとした矢先。
周囲の連中がどよめいた。
「なんだ、あれ……向こうから何か来るぞ!」
「どっ……ドラゴンだ―――ッ!!!」
やっぱりな……予定調和。
ドラゴンの群れが俺達の頭上を通り過ぎて、商業建造物に貼られていたガラスを風圧の振動で次々と破損していく。
ガラス片は厄介なので、俺が即座に修復魔法『リペア』で元通りにする。
野生の勘なのか。
時稀に、ドラゴンの群れがI連合国の周辺を巡回するらしい。
奴らの目当ては紛れもなく、火属性の農作物。
以前、クリストフ達にも伝えた『クリムゾンベリー』辺りの、モンスターを引き寄せる匂いを漂わせる類だな。
あぁ……地熱エネルギーで『クリムゾンベリー』などの育成に最適だと俺が助言した、あそこら一帯が狙われて、冒険者共がドラゴン退治に招集され……そんな台本だ。
I連合国がダンジョンだけが取り柄でなくなり、ドラゴンなどの脅威に対し隣国から冒険者を、あるいは冒険者共の育成に力を注いで活気づくんだろうか。
「先輩」
ミディアに声かけられて、俺も我に返って「ギルドに戻って、報告するか」と言う。
だが、表情筋を動かさない顔のミディアから指摘された。
「ドラゴン、倒すの楽しみにしてるの」
「……は?」
「さっき笑ってた」
……。
「見間違えだろ」
俺は口元を手で覆い、何事もなかったかのように立ち去る。
個人的に、他国からの冒険者や観光客を呼び寄せる為には地熱エネルギーを利用した鉄道――異世界的な陸上交通機関を構想する。
大陸横断ってのもアリだな。
ほぼ俺の元居た世界であり、前世世界のアメリカのパクリだが。
しかし、実際に構想するには悪くない話じゃないか。
国家配達員を導入しないなら、陸上交通機関を敷いて、地熱エネルギーで作った農作物、工業生産品、それらの為の原料や必要物資を運ぶ。
そう。運ぶのは人だけじゃない。物を運ぶってのも、この異世界じゃ中々難しい。
……俺が学園に派遣されるまでに、誰かにこの計画を吹き込んでおかねぇとな。
俺とミディアがギルドへ帰還する間際。
俺達が自宅にしている共同住宅前を通り過ぎようとした矢先、ミディアが突如、身構える。
「先輩! アイツ」
ふと俺がミディアの視線を追うと、その先には一人の男が。
漆黒の衣に、その下に纏っている軽装も黒と、夜闇に紛れる恰好をした堅物で長身の――
そいつが俺の部屋の前で、何やらジロジロ眺めている。
いや、俺達はソイツが何者か分かっているから、俺の部屋にしかれた防犯魔法陣を品定めしているのが直ぐに分かった。
「ガルダ。お前、生きてたのかよ」
そこにいるのは元A帝国冒険者の一人、暗殺者のガルダ。
A帝国で暴動が発生。精鋭の冒険者は騎士団と同士討ちしまくり、ほぼ死亡した。と、新A国を調査したB共和国が発表していたが……
何故、コイツを覚えていたかと言うと、コイツだけは俺の話に耳を傾け知恵をつけ。
ミディアと同じく優秀なAランク冒険者入りを果たしていたからだ。
しかも、闇属性だから魔法陣崩しが得意。
俺の部屋に侵入しようとしやがったのか。現金以外、大した代物はねえけどな。
愛想悪くガルダが鼻を鳴らして、俺に何かを差し出す。
……ただの手紙。一応、解析魔法をかけておくが変な仕掛けはないようだった。
ガルダは俺とミディアの様子を観察し、仏頂面のまま口を開く。
「こいつをお前に届けろとの依頼を受けただけだ。そう身構えるな。相変わらず気色の悪い魔法陣を使う。E王国のエルフ共よりもタチが悪い」
「……誉め言葉として受け取っておくが」
差出人は……Rとだけ書かれてあった。
な……おい、まさか。
全てが線で繋がった俺はガルダに問いただす。
「奴に魔法陣崩しを教えやがったのはテメェだな」
「さあ、なんのことか。俺は金さえあれば従う方でな。紙切れ一枚届ける今回の依頼も正当な取引が成立してやったまでだ」
俺は、奴に……ランディーに魔法陣崩しは教えてない。
むしろ、ランディーに拍車をかけた要因こそコイツじゃないか。
ガルダが睨みを利かせる俺へ、意外な言葉を吹っ掛けて来る。
「ただ。この依頼主はW国からお前が消え去って、退屈になったと嘆いていたぞ」
「……は?」
退屈。
俺が動揺した隙に、ガルダはもう俺達の眼前から消え去った。
……元々、愉快犯的だと思っていたが、ランディーが凶行に走ったのは俺が要因でもあると?
ミディアが「中に入られてるかも」と自分の部屋を確認しにいく間。
俺は中身を見る。
文章はシンプル極まりない内容で、たった一文だけだった。
『今度、そっち遊びに行った時はよろしく』
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