ざまぁされた奴は、ざまぁし返せない。それは何故か?
俺が『趣味』を楽しみ始めて、およそ半年後。
I連合国には治安の悪い地区が多々あった。
そこらは元々宗教国家の合間にあった土地で、国らしい国もなく、はぐれ者が集って開拓。
結果、荒れ放題になった地区だ。
中でも最も治安が最悪と称されたイシャーウッド地区。
『杖の花』を盗聴器代わりに潜入させ、内部の様子を伺えば呆れてしまった俺。
「……なんだよ。もう少し時間がかかると思ったが、そんなもんか」
どうやらイシャーウッド地区は攻略寸前のようだ。
俺がやった事と言えば、イシャーウッド地区でもマシな組織の医療活動と罪ない一般市民に魔法を教え回った事だけ。
噂が広まる前に、無法地帯でマシな連中に真っ当な知識を与えただけ。
これで一般人被害の死傷者は大分抑えられ、子供ですら自衛の技術を身に着け、非合法組織の邪魔を裏でやっておいた。衛生面も改善されたのは、俺が町中を清掃しまくってるお陰だろう。
荒くれ者は気に入らずに、嫌がらせでわざと町を汚し、建造物を燃やし、馬鹿騒ぎを起こす。
それも俺が即座に対応し続けると、連中は徐々に萎縮する。
……そんな具合に色々あったイシャーウッド地区も、治安が落ち着き、ようやく周辺地区や政府の介入が行き届くようになった。
しかし、陥落するまで半年近くかかった。
他の地区よりは大分、攻略難易度は高かった方ではある。
俺は『杖の花』の盗聴を止め、居住地であるキャメロン地区のギルドへ足を運ぶ。
ギルド内ではミディアと待ち合わせしている。
奴も、相応の実力者だってのに他の連中は出世したSランクパーティにしか関心を向けていない。
今日は、ハーレム集団を形成したショーシの姿はいないが。
以前、火薬技法を教えた火属性の薬剤師の女を加えたSランクランクパーティ。
クエストの都合でこちらのギルドにいるのか、水と風の魔力を持つ治療師・ミリアと共にするAランクパーティ。
他数名。
尊敬の眼差しを向けられるA・Sランクパーティ達の誰か一人は、俺の教えを与えた奴らがいる。
しかし、連中は俺の存在に気づいていない。
派手なヘルコヴァーラの杖は、布に包んで見えなくしてある。
それに俺の外見も――待ち合わせていたミディアが、俺に気づき「先輩」と呼び掛けながらも不思議そうに眺める。
「先輩、髪の毛……色つけたの」
「ストレスがなくなったから、黒くなったんだろーよ」
「すとれす?」
半年前までは白髪だらけのジジイに見られるほど真っ白だった髪が、半分以上、黒くなっている。
というか、元々、俺の髪は黒だった。
恐らく、魔力の酷使が影響して髪が白くなってたんだろう。多分。心当たりは、それぐらいしかねぇからな。
ミディアは……多少背が伸びて、大人びた方か。
普通、半年で劇的に変化はしないが、過酷労働のA帝国から離れ、ミディアも普通に生活を続けていると多少洒落た服を着るようになったし。雰囲気も丸くなった。
やはり、国柄ってのは大事だな。
おっと、俺もミディアも、のんびり暮らしちゃいるが冒険者として活動はし続けている。
半期が経過し、二人揃ってBランクに到達。
先日、Aランク昇格ラインに到達したばかりだ。
……時期的にちょうどいいな。イシャーウッド地区も陥落。いよいよ、教員として生徒の育成ゲームが始まるって訳だ。
さて、と。
まずは、緊急クエストがないか確認しようとした所――……
「ミリア! 頼む。俺達のパーティに戻って来てくれないか!!」
追放。
勧誘。
次は謝罪かよ。
ものの見事な話の流れに、俺は溜息を漏らしてしまった。
出世したミリア達を追放したパーティ連中が詰め寄って、懇願する光景が繰り広げられていた。
俺は淡々と緊急クエストの一つを受注する。
ミディアが、ふと俺に尋ねた。
「先輩。ああいう人達に構ったりしないのは、どうして?」
ああいう。
追放パーティ連中の事か。
俺達の背後で起きているトラブルに困惑気味な受付嬢相手に、俺が淡々とクエスト受注の処理をしながらミディアの質問に答えた。
「ああいう連中は人の話を聞かない。自分達が間違ってると思わない。全部他人のせいにする。それの三点セットが大概だ」
最初は、追放してせいせいした。
次に、活躍している奴が追放した奴と同名? 気のせいだろう。
最後に、自分達がアイツを追放したと噂になれば、自分達に見る目がないと世間体から判断される。
結局は保身だ。
つまるところはプライドだ。
「俺が世話してやっても育たない、中身の腐った種だ」
ミリア達はそれぞれの立場からパーティの勧誘を「もう遅い」と突き放し。
改めて、現在のパーティと共に冒険者の道を志す。
一方、ミリア達は横をすれ違う俺の存在に気づくことがなかった。
順風満帆な生活を送っていたジョサイアの前に、ある人物が現れる。
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