ステータスなんてあてにしちゃ駄目
帰宅した俺は、使い魔が用意した夕食、肉詰めソーセージもどきと野菜をざく切りし、香味スープで煮込んだ異世界ポトフを食べながら思う。
俺は元々、冒険者として出世する為に田舎村から旅立った。
出世。
俺の元居た世界でたとえるなら、上京して企業のサラリーマンを務め、そこそこの年収を稼ぎつつ……な生活だ。
前世では実際、そういう暮らしをしていた。
そう……前世じゃ別に大した事は――と思い込んでいたが、今と似たような事はしていた。
所謂、新入社員の育成だ。
自分の仕事をこなす傍らで、右も左も分からない新人にあれこれ指導し続け。
俺は俺で自分の仕事だけ集中したいのに、新人のミスを補ったり、俺が代理で引き受けたりで、ウンザリだった。
むしろ、新人に任せるよりも自分でやった方が良いまであったから、俺がやり続けたら上司に注意された。人の仕事を奪うんじゃない、と。
だが、いつまで経っても、その新人は出来が悪かった。
そいつの覚えが悪いのか。
俺の教えが悪いのか。
単に相性が悪かったのか。
不運にも、死んでしまった俺には分からず仕舞い。
……何となく理解した気がする。
散々と注意してきたA帝国を本格的に見限ったのは、俺の呼び掛けに誰も彼もが関心を示さなかったから。
否、何もかも上手くいかなかった。
冒険者より上手く行ったのは副業の方だった。仕事を奪っても文句一つ言われやしない。副業を如何に効率的に、多数掛け持ち出来るかを楽しんでた節がある。
休眠状態の使い魔を見ても思う。
ジャンが称賛するほど、上出来な使い魔を完成させたが、それきりどうでも良くなった。
世界七大偉業に至れるとか色々追求されてるが、サッパリ関心がない。
熱が冷めたという奴だ。
俺は、俺の術式を完璧に構築し、達成すればいいだけだ。
……そりゃ、何事も綺麗に上手くいけば気持ちが良いだろうよ。
無意識でも、前世の事は引きずっちゃいないんだろう。
なんせ、今日ふと思い出した位の記憶だったからな。
別に潔癖症でもないし、心配性でも、お人好しでもない俺は――あのクソ神と根本が同じだったって訳だ。
俺が教えを与えた奴らがどうなろうと、知った事じゃない。
興味も湧かない。
心底どうでもいい。
なんたって――趣味だからな。
蛙の子は蛙、か。
☆
I連合国の土地は広い。
なんせ様々な宗派の国々の集合体国家だからな。それにあわせた、それぞれの地区の法律もある。
だから、俺の住むキャメロン地区のギルドとは別に、それぞれの地区にもギルドがある。
今日は無難にキャメロン地区の隣の隣、オールストン地区のギルドへ飛んだ。
手短に受付でダンジョン調査を受注すると、受付嬢が不思議そうな反応をする。
「えっと、キャメロン地区のギルドに所属されて……いえ、されてたんですか? こちらの地区に移住されたなら手続きを――」
「いえ。受注したいDランクダンジョン調査の場所が、こちらの地区が近いんです。ここでサポーターを招集した方が良いかと思いまして」
「成程……? ええっと、サポーターの方でしたら、あちらで待機されております。ご自由にお声掛けください」
サポーターの待機エリアを一瞥した俺。
……ああ。いるな。
如何にも辛気臭い雰囲気を漂わせている女サポーターに俺は声をかける。
「すみません。サポーターの方でよろしいでしょうか」
「え!? はっ、はい。私、ミリアと申します! 職業は治療師なんですが……」
「……治療師? 珍しいですね。治療師なのに他パーティから勧誘がないのは」
「その………実は……治癒が下手なんです。魔法が使えない訳ではないんですが、魔法をかけても回復に時間がかかったり、魔力を沢山消耗してしまったりで……」
「ふうん……貴方の属性は?」
「水属性です。なので『ミネラル』という水属性の治療師特有の魔法が使えます。他にも状態異常を回復させる『キュア』とか防御魔法の『ベール』が使え、ます。一応」
……この段階じゃ何とも言えないが。
幾つか原因の候補はあるな。さっさとダンジョン内で検証するか。
☆
「驚きました。私……風属性の魔力があったなんて」
実を言うと、ステータスなんてアテにならない。
いい具合の比率だと、二属性・三属性を持ち、扱える才能の奴がいてステータスに表記されるが。
ミリアのように、魔法を形成できないほど微弱な割合で混ざっているとステータスに表記されないし、魔法も取得できない。強いて、魔力を組み合わせるぐらいはできる。
伊達に多くの冒険者と会った訳じゃない。
A帝国や俺の田舎村、光属性の専門学校でも、ミリアと同じ微弱に別の魔力を持つ奴がいて、そいつらは落ちこぼれ扱いされていた。
……ソイツらにも、ミリアと同じような教えをしたな。
「残念ながら、風の魔力をコントロールしなければ水の治癒魔法は上手くいきません。感覚でコントロールできるまで魔法陣で発動すれば、一先ず、ちゃんと治癒魔法は成功しますよ」
「はぁ……そういうことですね。分かりました。今回はありがとうございます。ジョサイアさん」
礼なんてどうでもいい。
俺の予想通り、俺が考えた通り、全て証明できた。もうコイツに興味は――ない。
こんな調子で俺は各地のギルドを巡る事にした。
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