飯が不味けりゃ戦はできぬ
飯が不味い。
全ての店がそうではないが、I連合国の飯はぶっちゃけ不味い。
俺も当初は他国から進出した店に通いつめ常連扱いされる位だった。
I連合国は土地の広さを活かして、農作物、魚介類、繊維類の大量生産・大量輸出をモットーとしているが、質が駄目。
その残念品質でも物価の安さから、I連合国と貿易を求める国々は絶えない。
悪循環を変えるには、恐らく輸出物の品質向上。海域の状態や、農作物や繊維類を育てる土地・環境の改善が必須だろう。
……確かにそうだが。それは必須だろうが。
冒険者である俺が積極的に関わる機会もないし、そういう系は全部資格やら許可やら求められる。
仕方ないので、食事に関しては他国料理店や自炊で解決する事にした。
(自由な国だけあって副業は問題なし。無断修理・無断治療・無断清掃も問題なしと)
俺の住んでいる地区――キャメロン地区の法律だけでなく、I連合国全ての地区の法律も念入りに確認。
本当に、飯以外は良い所づくめだ。
副業もだが……役場の掲示板で募集をかける形式もあるようだ。
これはA帝国と同じだな。随分と懐かしい。
当然、俺はここに掲載をする。
(ええーと、光属性による修理・清掃・整理整頓。あと、魔法陣に関する問題解決。博覧会の影響がどの程度か知らねーが、興味もってやり出しそうな奴はいそうだし)
『治療師ではなく魔術師です!』
という、俺の職業を強調する見出しをしっかりつけて、掲示板の一角に掲載。
他にも掲載できる掲示板は、各地にあるのでヘルコヴァーラの杖で飛び、次々と貼っていった。
「さて、と。じゃあ、クエストの方に行くか」
ギルドで受注済みの討伐クエストの場所へ向かう。
ダンジョン調査じゃないのは、これが緊急のクエストだからだ。
なんでも、畑がモンスターに荒らされ、一部が焼死してしまったとか。
ヘルコヴァーラの杖で上空を飛行。そこから現場を確認すると、不自然な炎上箇所が複数点在している。
「……モンスターの仕業じゃねえだろ」
薄々気づいていたが、杖の花を飛ばし、畑全体を『スキャン』で索敵すれば。
地中に何故か火の魔石が要所要所に埋まっている。
埋められた痕跡もない……所謂、自然発生型の地下魔石化現象だな。恐らく、他にも――あるな。火の魔石が。
こういう場合、火属性の魔素が集まる要因がある訳だが。
周辺をみる限り山々に囲われている類じゃない。地熱による火属性の魔素発生か。
全てを解決する為、俺は地上に降りた。
☆
クエストが終了したら、依頼者からサインを貰ったクエスト書類を受付嬢に渡す。
「お疲れ様です。依頼者からのサインも確認しました。これにてクエスト終了です。今回のクエストポイントは500……現在、ジョサイアさんの貢献ポイントは10500。Bランク到達まで残り169500ポイントです」
こんな具合に、I連合国でのギルドは処理する。
ちまちましたポイントの討伐クエストなどよりかは、冒険者は皆、ダンジョン調査で素材納品などでポイントを荒稼ぎ。
そんでもって冒険者全員、不思議とAランクを目指したがる。
意外に教員制度へ不満を言う奴はいない。まあ、Aランクへの向上精神がある奴は、学園でもマウント取って上機嫌なんだろうな。嫌で面倒とか思ってる俺の方が浮いてるってか。
今日は他国料理店で昼食を取って、一休みしてからBランクへの昇格の為、軽くダンジョン調査をしよう。
って時に。
「聞こえなかったのか!? 今日でお前をパーティから追放する!」
食事処で、わざわざ見せしめの如く追放騒動を起こす冒険者パーティが現れた。
こういう場合、実は店側は営業妨害で訴えてもいいんだが、案外そういう法律を知らない奴が多い。店主・従業員は呆然と見物状態だから、後で教えておこう。
追放される側の男は、納得できない様子で訴える。
「なんでだよ!? 今まで荷物持ちとして俺は十分貢献してた筈だろ!」
「逆に言えば、荷物持ち以外活躍してねーんだよ!」
「そうよ! 魔法が使えれば多少はマシなのに、へなちょこな攻撃しかできないじゃない。ちゃんと努力してる訳?」
「大体、『商人』の癖して冒険者を目指そうなんて馬鹿げてる」
ん?
『商人』だと……ってことは、アイテムボックス持ちじゃねーか。
しかも、計算とかの商売事業に関する補正で記憶力が優秀。だから、商人は意外と魔法陣の暗記が得意だ。魔法陣が時代遅れなせいで、あまり知られちゃいないが。
あと、納品する代物のポイントも記憶できる訳だし……マジで追放するのかよ。
「この前のCランクダンジョンでよく分かった。お前は今後、俺達にはついて来れない。お前自身が一番理解しているんじゃないのか」
「……っ」
こりゃ、どっちもどっちだな。
店内でこんな騒動起こして、惜しい人材を手放すパーティも。
Cランクダンジョンで最低限の自衛ができないままでいた商人の男も。
とは言え……
散々、騒動を起こしたパーティは店内で飲み食い始める。追放された男はトボトボ店から立ち去る。
俺は迅速に会計を済ませ、商人の男を追って声をかける。
「すみません。先程の騒動で聞こえたのですが、貴方の職業は『商人』でアイテムボックス持ちですか?」
「え……そうだが」
「それは良かった。これからポイント稼ぎにダンジョン調査へ向かうので、パーティを組んで貰えませんか?」
「いい、けど。俺なんかが……どうして?」
「ソロだと素材納品でのポイント稼ぎが難しいんですよね。あと、ついでに貴方の魔法に関しても、何か協力できるかもしれません。あ、戦闘はほぼほぼ俺に任せて下さい。運よく、ミミックが現れたら貴方に討伐を譲りますので」
「は、はぁ」
☆
Cランクダンジョンの調査は余裕だった。
素材に関しては商人の男に任せればいいからな。
奴はやはり俺と同じ非感覚派の方で、魔法陣を描いて術式を発動させれば問題なかった。
それと――商人の男は素材の貢献ポイントの数値を記憶していて、更には現時点でのポイント総数まで計算してくれる。
本当に、ちゃんと方向性を示せば使える人材だったのにな。
「まさか、魔法陣で発動すればちゃんと魔法が使えたなんて……これを機に色々勉強するよ。今回はありがとう!」
「いえ。こちらこそ。お陰でCランク継続の規定数までポイントを稼げました。あと、次はいいパーティに恵まれるといいですね。彼らとは、元より相性が悪かったと思った方がいいです」
「……そうだな」
こうして俺と商人の男はパーティを解散し、帰路についた。
ソロは気軽だが、偶にアイテムボックス持ちとかのサポーターつきで周回しないとな。
俺が防犯対策の結界を張り終えてから就寝すると、久しぶりに夢を見た。
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普通に過ごしていたジョサイアに、新たな任務が……?
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