一方、A帝国では(終)
此処から先は、ちょっとした歴史に刻まれる事件と裏舞台の話。
☆
A帝国の政策は、結論から明かすと失敗した。
確かに、魔道具の技術は素晴らしいのだが、それをダンジョン調査で活かすのが間違っていた。
低ランクのダンジョンならば、魔道具のみで調査は可能。
Cランク、Bランクダンジョンの調査となると、なかなかどうして、素材確保だけでなくモンスター討伐すら上手く成功できずに終わった。
魔道具だろうがなんだろうが、モンスターは攻撃する物体には攻撃し返す。
極めつけで、圧倒的にモンスターの出現数が増すのだ。呑気に攻撃する前にCランク、Bランクでは魔道具が数で押しつぶされる。
……さらに言えば、調査と称しているのは素材確保とモンスターの討伐のみ。
ダンジョン内が活性化しているかの判断を魔道具で測る事が、未だ技術が追い付いていなかった。
A帝国周辺にあったDランクのダンジョンの一か所が、活性化を始めたのだ。
まだ、このランクのダンジョン活性化なら良かった。
魔道具がここぞとばかりに前線へ出撃、当初は快勝ムードが漂っていたにもかかわらず。
そちらにばかり気を向けたばかりに、他のダンジョンから溢れ野良化したモンスターの対処に遅れてしまう。
悪循環を解消する為に、政府は騎士団を動かしたが、それが仇となったのだ。
所謂、冒険者のスキル持ちではない平民たちの暴動の機会を与えてしまった訳である。
魔道具も活性化のダンジョンの対処で派遣され。騎士団がモンスターの対処に追われている。今しかない。
皮肉にもジョサイアの知恵で、毒雨などの厄災を凌ぎ耐え、魔法の技術を身に着けた平民たちは雪崩れるように進行し、手際よさと迅速な判断は誰の請負だろうか――僅か数日で中級、上級階級の土地まで攻め入り、城を攻略。上層部含め、王族の首を取ったと言われる。
これにてA帝国は崩壊。
新生A国として成立するのだが、それまでに内乱が長く続く事になる。
☆
「飽きないねぇー、おっさんのやる事。エグいぜ~……あ、間接的に。だけど」
W国にて。
新聞記事に目を通していた黒髪の青年・ランディーが言う。
彼の対面にはもう一人、堅物な雰囲気の仏頂面をした男性がおり。魔導書で作られたメイドの使い魔が彼に紅茶と菓子を用意していた。
堅物な男性は「ふん」と鼻を鳴らしながら述べる。
「結果論とやらだな。案外、ジョサイアはお人好しだ。内面は心底どうでもいいと思っちゃいるが、社交辞令的な立ち回りが後々効いてくる……この国もそうだろう。俺が以前、潜入調査した際は、ギルドの立ち回りも冒険者も腑抜けて貴族の泥船状態だった筈だが」
「え。潜入調査? してたの??」
「俺は闇属性だからな魔法陣崩しは得意分野だ。W国に張ってたE王国の結界を破るのには時間を要したが、バレちゃいまい」
その実、堅物な男は潜入調査及び暗殺を主に活動していた冒険者の一人。
職業は暗殺者。
そして――例の冒険者の暴動で脱国に成功した数少ない元A帝国冒険者の一人である。
彼からジョサイアの話を聞いて、どことなく楽しそうなランディー。
「おっさんが関わったところは、多かれ少なかれ面白くなるって訳ねー。っつっても、おっさんがW国に戻る事はないだろーし。……I連合国も、そうなると思う? えーと」
「俺の名はガルダだ。……I連合国は色々と面倒な国ではあるな。なんせ国の集合体国家。地域で文化も違うし、法律も異なる。無法地帯も多い」
「ふーん。成程ね~」
「……奴の話を聞いてどうするつもりだ」
「今更聞く? まあ、おっさんって自分の事、全然喋ってくれなかったからさぁ。実は俺と同い年だったとかビックリしたぜ。あ、で~……ちょっと教えて欲しい事あるんだけど」
「内容次第では金を要求する」
「じゃあ、授業料として金払うわ。俺に魔法陣崩しのやり方、教えてくれね?」
☆
それからしばらくしてからだ。
ランディー・ライムバッハーがW国を無断出国し、行方を眩ませたのは。
なんせ、彼は以前、冒険者の権利を剥奪された貴族らと同じ、ほぼ廃嫡組の立場だった。
冒険者を止めれば平民往き。最悪、炭鉱送りされる事くらい分かって無断出国したのだろう。
その際、E王国が張っていたW国の結界を魔法陣崩しした事や、彼が『ナナトロワの杖』を使っていた事もあってか。
魔法陣崩しの再来とまで言われる有り様。
その通りに、ランディー・ライムバッハー……否、ランディーは世界各地で様々な騒動を巻き起こすのだった。
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これにて前編であり、物語の折り返し地点に到達しました。
連載と言っても長期レベルまで連載する予定はありません……是非、完結まで目指したいと思います。
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