さらば、W国
長かったような、短かったような。
俺はBランクダンジョン攻略成功を祝うギルドの宴会場から離れ、清掃用においていた『杖の花』の魔法陣を解除する。他にも、宿舎内にあった『杖の花』も、菜園に設置していた『杖の花』も、何もかも取っ払う。
あぁ、でもついでに……ポーションなどの薬品調合に関するリストの引継ぎなどは、薬剤師のリーナの部屋に置手紙を差し込んでおくつもりだ。
受付嬢には、俺が作っていた料理の調理法のリストを渡す。使い魔で問題が生じた場合はジャンに聞くよう伝えておいて……立つ鳥跡を濁さずって奴だな。
役所にはもう、俺……ついでにミディアの出国手続きも済ませてあるし、M国の王族・冒険者共々、I連合国へ目指す旨は伝えてある。
まあ、I連合国まではジャンとかW国の派遣員が同行するからな。
受付嬢は重い溜息をつく。
「本当に行ってしまわれるんですか……」
「仕方ありませんよ。だって、ここじゃソロでダンジョン調査ができませんから」
「……それが理由ですか?」
「一番の理由ですね」
無論、I連合国に行けば魔法陣を使ってる事であれこれ陰口叩かれるだろうし……妙に面倒くさい制度があるんだった。
確か……Aランク以上の冒険者は、三年以上の教員制度が義務化される。
教員としての態度が散漫だったり、生徒に問題が起きれば教員ないし冒険者として処分も受けなければならない。教員期間の延長。最悪、ランク降格。……くっっっっっっっっっっそ面倒くさい制度だ。
建前は『次世代の冒険者の育成の為』らしいが、無茶苦茶最悪だ。
俺の場合、どこの配属される? 光属性専門学校だけは勘弁してくれよ。
俺の内心とは裏腹に、受付嬢は「そうですか」と言う。
「実は……例の河原のダンジョン。どうやらB~Aランク相当のものらしいのですが」
「Aランクの可能性ですか……しかし、大丈夫ですよ。今の彼らなら」
なんせ。
特訓も精神面も、冒険者としての心構え、当然の知識は叩き込んだ。
基礎中の基礎ではあるが、そこからどう伸びるかは冒険者自身に委ねられる。
そして、この腑抜けたギルドも……頑なにソロ禁止を譲らなかったが、それはそれとしよう。
前よりは改善されたと俺は信じて、そんでもって俺がいなきゃ駄目ですなんて弱音も吐かないように、あれこれ努力はしたつもりだ。
冒険者を志したポート。もう少しだけ成長すれば冒険者として十分やっていけるだろう。
クリストフ達。ハインツとのいざこざは、俺が介入してどうする話じゃない。奴らは奴らだけで解決するべきだ。生憎、俺はお人好しじゃないんでね。何もしない。
ウェンディ。モンスター食の発展に貢献できたか知らないが、A帝国でも周知されていたモンスターの最短討伐手順などの資料を渡して置いた。生憎、そっちには興味がないからな。
日和っていた受付嬢も、以前とは違って名残惜しそうに俺へ告げた。
「短い間でしたが、ありがとうございました。ジョサイアさん。向こうでのご活躍を祈念いたします」
☆
「ええ!? 今朝、出国した!!?」
翌日、ギルド内は一時期騒然となっていた。
受付嬢や所長は把握していたが、ジョサイアとミディアはそれ以外の冒険者たちには何一つ伝えてなかったのだ。
あまりの唐突さに、ポートやウェンディは涙が零れてしまったし。
クリストフは「ハインツの件で礼が言いたかったのに」と項垂れていて。
世話になったと自覚あるハインツも、浮かばれない様子。
中でも一番複雑だったのは――ランディーだった。
ナナトロワの『杖の花』を弄びながら、退屈そうに「腹減ったなぁ」とぼやく。
魔導書の使い魔であるメイドが「お食事をご用意いたしましょうか」と尋ねたが、彼は「そうじゃないから」と溜息混じりに返事する。
メイドは訳も分からず首を傾げた。
さらばW国。そして――……
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