好きの反対は無関心
河原での一件は、他の冒険者たちに冷や水かけられたほどのインパクトがあったのだろう。
翌日からは、俺が当初受注していたDランクダンジョンの調査をゼム達、別の冒険者たちがやると率先し始めた。
まあ、リハビリがてらに丁度いいだろう。
鬼人らにCランクダンジョンを任せる間に、俺は使い魔の最終調整に入った。
珍しく我儘お嬢様『キチョウ』がいなかったが、前回の件が仇になったのか両親のところで大人しくしているんだろうか。
ほぼほぼ完成した使い魔の魔導書一号を、ある人物に届ける俺。
「おお! スゲー、おっさん!! マジで完成したんだ!」
「ちょうど、ライムバッハー様も『ファミリアー』を取得しましたし、是非お使い下さい」
それはランディーだった。
使い魔の形状も、ランディー希望のかわいいメイドだ。
一応、奴に術式の説明もしておいたが、理解できているかは……できてないだろうな。
ランディーがメイド、というか使用人使い魔を求めていたのは「使用人いないと部屋の整理が面倒でさー」という貴族特有の問題だった。
全くコイツは……まだ、クリストフ達の方が自分で色々とやっているのにな。
クリストフ達は和解できたんだろうか……今日は、その辺りを探る余裕がないので分からない。
それよりも、俺は役所の方に呼ばれていた。
ルーティーンの雑務をこなしてから向かう。
呼ばれた理由は、例の人材派遣で使用する使い魔の件だ。
めでたく『ウェストデリア国際博覧会』に人材派遣兼、W国からの出展として枠組みされたらしく。
更に言えば、『ファミリアー』を取得している闇属性の助っ人を確保できたと云う。
一体、どこの誰が。
って聞くのは野暮だろうか。この異世界は個人情報ガバガバだから一つ二つ聞いても問題ないかもしれない……俺が思案していると役人が「それでですね」と小声で俺に告げる。
「今回の『博覧会』が成功した暁には、是非ジョサイアさんを名誉国民に任命したいと話があります」
「………名誉?」
あぁ、そんな制度あったような。
俺に適応されるとは……いや、俺は移民だからこそ名誉国民に任命させて、国の手柄にしようって算段か。
政治の汚い事情が垣間見える。
「ちなみに」と俺が一つ尋ねてみた。
「闇属性の協力者って、どなたか教えて頂いても」
「とんでもないですよ! E王国の騎士団長、フェッルッチョ……え、ええーと……なんだっけ。ガヴィーノ! ガヴィーノ騎士団長です!!」
エルフ特有の面倒な名前を省いた名称をあげる役人。
騎士団長か……また大物が、王族の次に顔合わせしないだろう奴と関わるハメになるとはな。
そんでもって、当日は俺も『ウェストデリア国際博覧会』に出向く事になる。
使い魔を作製した俺自身と、協力者のジャン。あとガヴィーノを含めた使い魔の魔導書を起動させられる者が同行する。
話を聞いて護衛で「私も行く」と拗ね始めたのがミディアだった。
役場に向かった際も、我儘なお嬢様ほどじゃねえが、駄々こねて付いてきた。
俺が役人と話を終えて「先輩」とミディアが聞く。
「どうして使い魔なんて」
「ただの暇潰しだ」
それに……
次はジャンの研究所に向かいながら言う。
「名誉国民にならねえよ。功績はジャンのもんにして、俺は光属性の協力者って事にする」
「どうして?」
「どうもこうも、俺がソロ活動出来ねえギルドに居続けると思ってんのか」
「……ソロじゃなくても私と二人でパーティ組めない。確かに嫌」
「俺がここにいんのは情勢が落ち着くまでだ。……最も『博覧会』のついでに別の国に移民できない前提の話だけどな」
「他にあるの。ここ以外に元A帝国の人を受け入れる所って」
「例の『博覧会』の会場国――I連合国だ」
☆
普通、どの国だってA帝国を受け入れがたい状況で、平然と『博覧会』出展を容認したI連合国。
連合国の名の通り、元は様々な宗派のモットーにした国々が戦乱の情勢に合わせ同盟、結成した大国家の一つである。
故に、彼等のモットーは『自由』。
あらゆる宗派や文化を受け入れ、謳歌する自由の国だとアピールしている。
無論、ダンジョンもギルドもある。極めつけると、大都市から離れた辺境地に数少ないSランクダンジョンがある国家だ。
「君も大胆に出るなぁ。これを機に出国して、I連合国に移住……本気なのかい?」
魔法レベルの経験値稼ぎにジャンの研究室を清掃しながら、俺は「ええ」と肯定した。
ミディアは、完成された使い魔たちの最終チェックで色々と命令をしたり、質問を投げかけたりしている。
俺は念の為、ジャンに確認した。
「ジャンさんは一応、W国の国籍はあるんですよね」
「ああ、うん。あるにはあるけど……」
「でしたら。ジャンさんが表向きの考案者ってことにして――」
「ええと、ジョサイア君。それでいいのかい? この使い魔の術式は今世紀……いや。魔法陣の歴史を覆すレベルに高度じゃないか。それを――」
「残念ながら俺は研究者側の魔術師ではありません。あくまで冒険者側。ソロ活動を解禁してくれない現状、このW国のギルドに所属し続けるのはちょっと……今回、鬼人族の方々とI連合国まで安全に遠征できるのは絶好の機会です」
「うーん。今後、使い魔の術式に関しても僕が受け持つ事になってしまうし」
「ジャンさんも研究して頂いたではありませんか」
「そ、そうだけど~……」
「それに研究資金の援助も貰えると思いますよ。ジャンさんにとっても悪くない話です……俺が後に『自分の研究成果だ~』って名乗り出るのを恐れているのは分かりますが」
気まずそうなジャンだったが、頭をかきむしって「実はね」と身を改めて話す。
「E王国が君を引き抜きたい――と僕は考えている。W国の名誉国民に任命して、その代表として派遣して貰うようにね」
「……E王国が」
「ガヴィーノ騎士団長が使い魔の魔導書の起動候補に進んで出たのも、それだ。E王国は君の才能を認めているんじゃないかな。僕も、これだけは間違いないと思うよ」
「E王国は勘弁ですね。俺の能力を買っているかは存じませんが、恐らくA帝国の内情も把握したいが為に俺を確保したいのでしょう」
「あぁ、ジョサイア君。そこは大丈夫、と思うよ。うん。なんせA帝国国内が、それどころじゃない。内乱が酷いったらありゃしない……君も新聞は目を通してるだろう」
「……ええ」
ちょくちょくA帝国の話題の記事を見かけたが、とんでもない内容に度肝を抜かされそうだ。
かつて冒険者の精鋭が集ったとされるA帝国の栄光の欠片もない。
ジャンも流石に「自滅に向かっている様なものだ」と呟く。
「E王国だけじゃなく、最早、他の国々もA帝国に興味を示さないだろう。強いていうなら、最終的にどのような結末を迎えるか……それを見届けるだけさ」
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そろそろ第一章?と呼べる区切りの終盤まで来ました。
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