一方、A帝国では(7)
そして、時は『ウェストデリア国際博覧会』に戻る。
開幕を今か今かと待ち構えて暇を持て余している来賓の方々に、例の最新鋭の使い魔が対応してきたのだ。
魔術に疎い者は、最初は何とも反応しなかったが。
気配が人ではないと察知する者。魔術に精通した者。職業が屍術師の者は彼らに魂がないと見抜いた。
一次、騒然となった現場を落ち着かせる為、主催側が使い魔たちの概要を説明したが、それもそれで更に騒然とさせてしまった。
結果として、彼らはまだ会場の出入り口付近に留まっており。
魔術師などは、どういう原理なのかと主催側などに問いただしている。
とにかく、新たな術式による画期的な魔力処理で、個人の判別から記憶まで正確にインプットできるようになったのを伝える以上、彼らには説明できなかった。
最早、太古で欠陥ありきの魔法陣の原理を、現代の彼らが解説できる筈ないのだから。
「ま、魔法陣だと……!? ならば『魔法陣崩し』で無になってしまうではないか!」
現実主義者のA帝国側から反論が飛び交うと、一瞬、熱が冷めたが。
一人、落ち着いた鬼人の魔術師――セイメイが言う。
「ならば、実際に『魔法陣崩し』をやって下さればいい。私には分かりますが、アレには『魔法陣崩し』の対策術式も組んであります」
「ま、魔術師ではない私にいうな! 貴様がやってみせろ」
「無理でしょうな。そもそも『魔法陣崩し』自体が繊細な技法である事をご存知ではない?」
「な……なんだとぉ?」
ざわざわ、どよめく人々の中、数多の魔術師が口々に言う。
「確かに、安易にできるものではないよ」
「『魔法陣崩し』は術式の形状を崩すものではなく、術式に流れている魔力の波長とを相殺し合う技法なのだ」
「一つや二つの術式を崩す程度でも繊細な技術だというのに……」
「先程、術式の詳細を拝見させて貰ったが『魔法陣崩し』の対策を怠っていなかったぞ」
「エルフ族も『魔法陣崩し』対策を幾つも考案し、『ウェストデリア国際博覧会』で公表している。それすら知らぬとは……」
ここぞとばかりに、魔術師たちが魔法陣の術式を押し始めたのも、ジョサイアの産み出した使い魔あってもあるが、影ながら魔法陣の術式を勉学していたからこそ、己の知識の高さを示そうとしているのだ。
目的は何であれ。
「この使い魔が評価されているのは、何も使い魔の完成度だけではない! 『国際博覧会』に相応しい、新たな人類種の技術が素晴らしいのだ」
「これらを出展したW国は、これらを冒険者の調査記録として利用しているらしいぞ」
「記録も正確で、どの素材を幾つ確保したか、どのモンスターを討伐したかまで網羅するとか!」
「冒険者がコレらを同行するようになれば、倒したモンスターを野犬とか野生動物など勘違いする冒険者もいなくなる訳だな! ハハハハ!!」
異世界ではよくある勘違いを、たとえ話に持ち上げ笑う者たち。
少なくとも、ただの人材派遣枠で使い魔を出展したというW国は、全ての来賓の目にとまり、更には出展している国々はこれらより、高度で興味深い物を出展していると人々にアピールしなければならない。
比較対象が、既に規格外なのだから。
自国の技術をアピールしようとした国々――A帝国も含めた――は焦りを隠せなかった。
A帝国に限っては、いざ人々が介護用の魔道具を見物に来ると。
案の定、使い魔との比較をされてしまった。
「このくらいなら、あの使い魔にも出来るんじゃないか?」
「自衛で持ち主と同じ魔法を使用できるらしいぞ、あの使い魔って」
A帝国側も黙ってはおらず、アピールをする。
「魔道具は魔法陣などの術式は使用しておらず、安全で、何より――将来的には魔力ではない、別の資源を用いて起動するよう進化するのです!」
「魔力ではない……?」
「どうやって動かすというのだね」
占めたとばかりに、あれこれと人々にアピールするA帝国の出展者たち。
しかし、聞けば聞くほど人々は首を傾げている。
「資源を確保するだけでも人材などが必要では……」
「だったら自分の魔力を使った方がいいわよ」
「冒険者が不要になる? なら、冒険者をやっていた者はどこで自身の能力を生かせばいいのだ」
「これを作るより、冒険者の育成に励んた方がいいだろう。だからこの前に、アンタらの国があんな大失態を……」
などと話題が逸れてしまう。
これは別にA帝国に限った話ではなかった。
各々の国々も、アピールに必死な中。W国はW国で別のアピールを始めている。
「近年、周辺にダンジョンの発生が多く。先月にはAランクダンジョンが一か所、発生してしまいました。是非、冒険者の方々を派遣して頂きたい!」
(小国風情で舐めた態度を……! 折角の魔道具の評価どころか、冒険者の撲滅から遠ざかるような真似を!!)
A帝国側にW国へ対する、静かな苛立ちと不満が募り始めたのだった。
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