正しい行いをしたから評価される……とでも思ったのかぁ?
一先ず、河原一帯はメイセイの結界で閉鎖。
全員はギルドの方へ撤退した。
病院へ運ぶ前に、キチョウは覚醒したらしく鬼人共から歓声が上がる。
「お嬢が! お嬢が目を醒ましたぞ!!」
「おお! 良かった!!」
キチョウは何事もなかったかのようだったが「皆の者、心配かけてすまぬ」と謝罪を述べていた。
我儘お嬢様とて、流石にそこまで酷い性格ではないらしい。
そして、ギルドに撤退した全員の雰囲気は様々だ。
「流石はメイセイ殿! 獣共に破られぬ見事な結界……流石は、ノナガ様に仕えし陰陽師!」
鬼人共は揃いも揃ってメイセイの方を讃えていた。
俺はこっそりとキチョウに薬を飲ませ、河原から退避。杖の花の遠隔操作で海魔を倒しただけ。
パッとしない活躍だったから、誰の目にも届かない。
唯一、メイセイは俺の活躍を理解していたようで「キチョウ様をお救い頂きありがとうございます」と影で頭を下げられた。
「当然の事をしただけですので……」と俺は足早に立ち去った。
それ以上に、鬼人共の向こう側で怒声が飛び交ってて、その声の主がハインツだと分かって俺は嫌な予感がしたんだ。
「昼間っから酒飲んでて、モンスターの襲撃に対応できなかった!? ふざけるんじゃねえ!」
ハインツが相手しているのは、鬼人共と一緒にいた冒険者たち。
というより、クリストフだった。
当のクリストフも、酒を飲んだ色を隠せずにいるが、反省の様子であるし、傍らでオロオロしているセドオアの姿も見られた。
畑仕事から抜け出したであろう汗だくのハインツは、クリストフを含めた冒険者たちを睨む。
「農民の俺とは違って、戦闘スキルも優れているから――冒険者に相応しい職業だからってだけで、冒険者やってんのか! テメェら!!」
「ハインツ! ……今回の件は、色々と要因が……」
「言い訳なんか聞きたくねぇ! 剣士なら剣士らしくするもんだろうが!! 職業信奉者の癖して……! 火属性の農民だからって俺を特別扱い!! 事情が知らなかったからなんだ!? じゃあ、事情を知る前は俺の事、どう思ってたんだよ!!」
「落ち着け! 冷静になってくれハインツ!! 俺は――」
「もういい! テメェらといると馬鹿が移る!!」
ハインツが自棄になって立ち去ろうとしたが、ふと俺と視線が合わさる。
俺に詰め寄り「特訓をしたいんだが……」と別人のように低いトーンで頼んでくる。
先程のやり取りで、何となく事情を理解した俺は持ち掛ける。
「これから軽くDランクのダンジョン調査を二か所行う予定でして……ハンクシュタイン様も同行なされますか」
「……準備をするから、待っててくれ」
ハインツが人々をかき分けて、荷物を取りに宿泊部屋へ向かっていく。
セドオアは「あの」と申し訳なさそうに声をかけた。
「ハインツ君は……」
「ハンクシュタイン様は恐らく……まだ自身の職業に納得していらっしゃらないのでしょう。そういった方を、私も多く見ております」
異世界あるあるの一つ。自身の望んでいない職業。
珍しい火属性の農民という特別性があっても、所詮は農民。
俺の調べじゃ、ハインツの一族の当主は代々『剣士』だったのだ。もし、特別な火属性の農民でなければセドオアと同じく……。
そうじゃなくても、ハインツ自身、農民ではなく剣士を望んでいたのかもしれない。
代々そうだったのだ。
自分だけ違う。農民というだけで周囲からの反応も変わる。何もかもに嫌気が差したんだ。
「私も魔術師ではなく治療師であれば、と幾度となく思いましたからね」
俺が皮肉込めて言う。
実際、光属性なら治療師の方が良かったというのは本望もあった。
しかし、理想の杖も手に入り、趣味の使い魔の術式研究に時間をかけられる。現状に不満はない。
俺の言葉を聞き、クリストフが「それは」と察した風に項垂れる。
奴もハンクシュタイン伯爵の家系は知っていたようだ。
にしても河原に。
まさか、水中にダンジョンがあって、海魔クラスとなると……最低でもBランク、あわよくばAランクのダンジョンが?
流石に勘弁しろよ……こんな小国の周辺にAランクダンジョンなんざ。
対応できるのはミディアと、俺がサポートについてギリギリじゃねーか。
ここの冒険者共のレベルじゃ対応できねぇ……
受付嬢がE王国に現場の調査依頼をかけたらしく、その結果次第という訳になるな。




