チート魔法を手に入れたと思ったら、大した魔法じゃありませんでした
俺はCランクダンジョンの周回で経験値を稼ぎまくった。
週二回は休みを取って。
休暇中、使い魔の術式の最適化を研究したり、裏手の菜園を開拓してポーションなどの収穫量を増やす作業をしたり……
その間に、セドオアとハインツも周回に加われるレベルになって、とくにアイテムボックスを持っているセドオアは素材回収で重宝した。
近頃の噂で聞いてか、他国からの冒険者が来訪したり、国内の住人が冒険者としてギルドに所属するようになった。
逆に貴族冒険者は、自然と立ち退いている現状にある。
ただ、W国を別荘地として売りに出す方針転換をしたようで、貴族自体は冒険者目的ではない者が、新築の豪邸に住み着くようになって。長閑な観光名所として成功しているようだ。
中々、上手いやり口だ。
『ウェストデリア国際博覧会』まで一か月とちょっとを過ぎた頃。
噂のM国からの来賓が、国家総出で歓迎された。
つい最近まで国家の主導権争いをしていたM国だが、ようやく情勢が落ち着き、海外貿易に力を注ぐようになった。
W国から離れた位置にあるY合衆国の港より、大都市の渡ってこのW国に留まり。
これから先は、小国の国境を幾つか渡ってI連合国に至るという。
地図上で見ると、少々遠回りなルートなのだが、これはM国と友好関係にない国を避けた結果、こうなった訳らしい。
俺も遠目から観察していたが、どこか日本を彷彿させる豪華な着物を着こなす連中こそM国の王族だろう。彼らはW国の城内へと案内される。
ギルド内に登場したM国の鬼人冒険者らは、野郎ばかりなのはともかく、ソイツらはどいつもこいつも某海賊漫画クラスの高身長に図体。
着くなり、喉が渇いたから酒を頼むなどの豪勢っぷり。
長旅の疲れもあってか、夕食の場は宴会状態だった。
連中は見かけに迫力あるがフレンドリーな奴ら。ゼムなどの酒飲みとは意気投合している。
さてと、俺は俺で使い魔の最終調整を始めないとな。
ふと天の声から
―――光魔法のレベルが35になりました。
―――『サイクル』を取得しました。
と言われた。
なんだその魔法? 取り敢えず、ステータスを確認した。
ジョサイア
職業:魔術師 Lv.64
属性:光魔法 Lv.35
HP:8200/8200
MP:152000/152000
物理攻撃:2500
魔法攻撃:5130
防御:550
筋力:550
俊敏:2100
Cランクダンジョン周回あって、レベルはいい具合に上昇してる。まあ、この世界だとレベルは100どころか1000単位まで伸ばせる。それと比較したら大したもんじゃない。
それよりも『サイクル』という魔法だが……
サイクル:変化魔法
浄化などで除去した異常を光魔力に変換する
……は? おいおい、なんだぁ。こいつはチート魔法かよ??
疲労で使った分、魔力としてリサイクルできるってとんでもねーチートじゃねえか!
攻撃して、治癒して、それでもってリサイクルして~~……永久機関か!!
いや、待て待て。あくまで異常だけ?
俺は試しに『クリーンウォーター』での清掃や、自傷してヒールをかけたり……色々やって『サイクル』の魔法を試したが、どうやらこの魔法。
呪いや状態異常、所謂病気を解いた際にしか有効じゃない。
使いどころか微妙すぎる!
医療現場なら便利なんだろうが、くそ……『ホーリー』と組み合わせて有効活用できそうな雰囲気もねえ。
事実上、光属性は『ホーリー』だけが攻撃手段って事か……?
なんだか悔しいので使い魔の術式考案の息抜きで『サイクル』の術式をあれこれ試してみるのだった。
☆
一晩明け……
完成したのは『サイクル』を利用した新薬だけだった。
術式の方は……まだ何とも。使い魔の術式に利用できても、俺だけしか使えない類になっちまう。
『ウェストデリア国際博覧会』の出展条件の一つに、どの種族にも利用できるが含まれている以上は下手な真似はしないでおく。
朝食と清掃を終えた所で、何だか静かで宿舎に人の気配がないのに気づく俺。
「なんだ? 誰もいないのか」
裏手の菜園には薬剤師のリーナと、土属性の治療師が作業しているのが見え。
訓練場になってる場所では、ミディアとポートが朝練の如く、訓練用魔導書を起動させて体を動かしていた。
他には……
「あー、おっさん! 良かった~。おっさんは残ってたんだな」
ランディーくらいだった。
何故かランディーは安心したように、俺の肩を叩いてくる。
俺が尋ねる前に、ベラベラとランディーが状況を説明してくれた。
「み~んな、Cランクダンジョンに行っちまったぜ? あの鬼人族の連中と一緒にな」
「……彼らと?」
「あー。ウェンディちゃんだっけ、あの子はモンスター食の研究施設の方に行ってるみたいだけど。それ以外の、ここに残ってる奴ら以外は皆、気が合ったとか何とかでさぁ。な~んか嫌な感じだよな」
「そうですか……」
別に悪くない話だ。
実際、鬼人族は強い連中ばかり。彼らと同行するなら、俺が気にかけなくてもW国の冒険者たちは大丈夫だろう……だが、嫌な感じ。
ランディーの意見は分からなくもなかった。
「なんじゃ、それは! 妾にもさせろ!!」
そしたら、訓練場から少女の声が響き渡った。




