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働かなければ生きていけない!


今日も駄目かと思われたハインツとの面談だったが、どういう訳か俺だけは良いと許可が降りた。

全くの謎である。

クリストフ達の代わりに彼らの手土産を持って、俺自身も最近作製可能になった特性ハイポーションを数本とダンジョン内で発見したCランクある火属性の植物の種を持って、彼の病室へ向かう。

ノックをしても返事がなく、俺は仕方なく「失礼します」と扉越しで挨拶してから入室。


ハインツの様子は非常に無気力な雰囲気だった。

何をするまでもなく、暇を持て余さず、ただただベッドの上に寝転がって天井を眺める。

放置してたら駄目になりそうな人間像そのものに、俺は話しかけた。


「平民の身分ですが、お許しください。こちらにクレジオ様からの贈り物と、私が用意した僅かながらお役立ちできそうな物を置かせていただきます」


「……ああ」


とは言え、俺じゃなくクリストフ達の方が話が広がるってものを。

取り合えず、ダンジョンの件を謝罪しておかねえと。

結局は保身だ。

コイツはランディーとは立場が違う、爵位継承する立場にある人間なんだから、何と言われようが俺は頭を下げる。


「早速ですが、前回でのCランクダンジョンにて、緊急時とはいえ貴方に対する発言が身分相応のものではなく不適切であった事、誠に申し訳ございませんでした」


「……そんな事か?」


ようやく、こちらに首を向けたようだが、俺は頭を下げているので見られない。

寛容な貴族だったのか、多少の事は構わないと思っていたのか。

それでも俺は言う。


「貴方様が寛大であったとしても常識的によろしくありません」


「……そうか」


そしたら向こうが尋ねて来る。


「なあ、アンタならあそこの調査は出来ただろう。何で撤退した」


「……ルールですから」


「何だよ。随分と保身に走るんだな、アンタも」


「保身と思われても構いません。確かに貴方様の仰る通り、あそこのダンジョンをソロで調査するのは容易でしたし。俺の元居たA帝国では、あの手のタンジョンを十周、ニ十周するのは常識です」


「は? いや……それはおかしいだろ……」


「A帝国にはノルマが設けられておりました。それを達成するには一日一回だけのダンジョン調査では、到底賄えない量のノルマです」


「……」


「ですが、W国にはノルマではありませんが、クエスト時四人以上でパーティを結成する規約があります。ハンクシュタイン様の救出に辺り、俺は特別に単独でダンジョンに入る事が許されただけです」


「………訳がわからねえ。だから撤退するとか言い出したのかよ」


「ええ。何より、ハンクシュタイン様の容態を見て判断しました。『郷に入っては郷に従え』と言うでしょう。今、W国のギルドに所属している以上、キチンと規約を守る冒険者であると態度で示さなければならないのです」


「郷に……ってどこの言葉だ?」


異世界には似た喩え言葉がなかったのか、俺は「その土地の処世術に従う意です」と付け加えた。

チラリとハインツの様子を伺う為、頭を上げた俺。

奴は、長い溜息と共に天井を見上げている状態。

俺は……出過ぎた真似かもしれないが、奴に言う。


「クレジオ様からお聞きするに、ハンクシュタイン伯爵……貴方様の御父上はお怒りではなくご心配されておられるようです」


「まさか」


俺を信用してないのか、或いはクリストフ達を信用してないのか。

ハインツは鼻先で笑っていた。

続けるように俺が言う。


「ハンクシュタイン様。今、貴方様は分岐点におられるのです」


「分岐……?」


「冒険者で経験を培い、過酷な火属性の農民として出世を目指すか。貴族の子息として安泰な生活に戻るか」


「親父は俺に期待してたんだぞ! んなことが――」


「しかし、ハンクシュタイン家を継ぐのは貴方様の筈。誰かを養子に引き抜いたと話も聞きません」


「……い、今更、そんな事が許される訳ないだろ」


「ですが――これは貴方自身の将来に関わる事です。想像して下さい。貴方様がどちらの道へ進んでいる未来がお望みか。想像できずとも、今の貴方はどちらも選択する事が可能な事を覚えておいて下さい」


「…………」


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