自分の将来と向き合えますか
「ポート! 夕食くってかねーか?」
「いえ、お母さんが晩御飯を用意してくれているので……」
ポートがギルドから出ようとしたところで、俺が声をかける――前に向こうから話しかけて来た。
「ジョサイアさん! 聞きましたよ! もうすぐCランクダンジョンに行く予定なんですよね!! あの……僕も連れて行って貰えませんか。特訓もCランクダンジョンの難易度はクリアできてますし、自衛も転送魔法を活かして頑張れるので――」
「それについてだが。ポート、お前。国家配達員になる気はあるのか。あるならCランクダンジョン以降は行かない方がいい」
「え」
虚を突かれたような顔をするポート。
確かに、今のコイツのレベルならCランクダンジョンには行ける。
行けるが……俺は言う。
「そもそも、お前は安定した給料と身の安全の為に国家配達員を目指してるんじゃねえのか」
「それは! そう……です……」
国家配達員を目指す奴らの大多数の理由が、それだ。
安定した収入。
モンスターに襲撃される危険性から最低限の回避。
元々、冒険者向きの職業ではないと表向きには推奨されている奴だ。ポートもそのつもりだった筈。
項垂れてるポートに俺は告げる。
「Cランク以降のダンジョンは一層安全は保障できない。特にBランクダンジョン以降になると、一流の冒険者パーティでも油断すりゃ深手を負うぞ」
「き、危険なのは承知の上です! でも!! ジョサイアさんが皆さんに言ってたじゃないですか! 一緒にBランクダンジョンを目指そうって! その約束だけは――」
「俺の約束を言い訳にしてるだけだろ。勉強をサボりやがって。本気で国家配達員目指してんのか」
「……っ」
「中途半端な姿勢は冒険者としても、国家職員としても良くねぇんだよ。どっちを選ぶか、考えろ」
「………はい」
☆
ポートが国家配達員を目指している理由は幾つかある。
一つ目は安定した収入が欲しい。
二つ目は安全な職だから。
この二つ目に関してはポートの過去とも関係する。
アイツの父親は冒険者だった。
無謀にもW国周辺で大量にダンジョンが発生した当時、Bランクと認定されていなかったBランクダンジョンへ行き、帰らぬ人に。
母親はシングルマザー状態。
ポートが子供ながら冒険者の雑務で安い給料を稼ぐようになった。
母親はポートがダンジョンに入るのを不安がっていて、彼女を心配させない為にも冒険者ではなく国家配達員をという流れ。
三つ目は配達員という職業を馬鹿にされたから。
周囲の同年代が冒険者向きの職業に目覚める中、ポートだけが配達員という非戦闘系の職業になってしまった。
だが、国家配達員という肩書を知り、実際になって見せる事で皆を見直してやろう。
そう意気込んでいた。
しかし、現実問題。
ウェンディから話を聞くと、勉学についてはてんで駄目で泣き言を漏らしていたという。
『ジョサイアさんやウェンディさんが、色々良くしてくれているのにっ……僕、全然駄目で……』
一方で冒険者としての腕前は良くなっていくばかりだった。
特訓中、魔法レベルも上がり『ファミリアー』を習得したり、転送魔法での攻防する技術を身に着けている。この辺りはランディーやミディアが色々知恵を与えているので、グンと伸びた。
父親に似て、冒険者向きの気質なのかもしれない。
むしろ、冒険者じゃないとやってけない性格かも分からないな。
勉強になると集中が持たないし、ああでは配達員の職務中でも集中力がなくなるタイプだ。
いっそ「お前は国家配達員に向いてない」と言ってやるべきに聞こえるが、こればっかりは本人の判断だ。
厳しく言ったが、うじうじされても困る。
この際、ポートにはどちらを進むかハッキリして貰った方がいいだろう。
☆
さて、残る問題は――Cランクダンジョンに来れるメンツだ。
一応は俺とミディア、ランディーの三名は暫定。ポートは保留。残りは……
翌日、俺は雑務を終わらせ、久方ぶりにクリストフとセドオアに会った。
彼らと共にハインツが入院する病院へ再び足を運ぶことに。
あとCランクダンジョンについて行けるのはハインツとクリストフくらいだ。
サポーターにセドオアを連れて来れないのが残念だが、納品目的じゃなきゃ別にいい。
恐らく、以前、単独でCランクダンジョンを先行したのを根に持っているのか、ハインツは傷も癒えたにもかかわらず病院で引き籠り状態らしい。
俺も一応、前回の言動の謝罪をする意で尋ねたと受付で伝えたが……果たしてどうか。




