どうせみんなダンジョンに往く
翌日からの日常は、相当忙しいものになっていった。
Dランクダンジョンの調査には、結局令嬢――『ウェンディ』も同行する事に。
彼女の職業『料理人』は食材の調理手順を知識に入れておけば、その急所を視認できる補正がつくと謎特性がある。
通常、これは普通の食材のみに活かすのだが、ウェンディのようにモンスター食の知識があると。
「! 見えます!!」
急所というか、弱点が表示される補正がつく訳だ。
だが、まずはモンスターを攻撃する身体能力がなきゃ補正も意味はなさない。
俺の加速魔法『クイック』による補正をウェンディにつけて、簡単に倒せるモンスターを率先して倒し、経験値を稼いで、とにかくレベル上げ。
ミディアはウェンディが相手できない、素早い『くびれバット』などの相手をする補助をして貰う。
俺が『杖の花』でダンジョン内を『スキャン』でマッピングしていると良いモンスターを発見した。
俺はランディーに頼む。
「あの宝箱――『ミミック』です。いつものように動きを止めて頂けますか」
「おー。アレな! りょーかい」
ミミック。
宝箱に扮しているモンスターの一種で、倒すとレベルが上がりやすいというのは冒険者界隈でも認知されている。
このミミック、蓋を開いて牙剝き出しになった所で、ランディーが術式を書き込んだ『杖の花』を奴の周囲に浮かばせ、風魔法による電磁力を発動すると身動きが出来なくなってしまう。
宝箱に化けてるせいで、金属部分が電磁力で引っ付いてしまい、本体が丸出しのまま無防備となるカモだ。
俺達のパーティで経験値を稼ぎにくいポートへ俺は指示する。
「ポート! お前がやれ!!」
「い、いいんですか!? っ、やります!」
適正武器の短刀でミミック本体をぶっ刺すポート。レベルも上がったようだ。
今回のダンジョン探索も無事終了。
ウェンディも心なしか、冒険者側の自信を持ったらしく「またお誘い頂けると幸いです」と言う。
ミディアから「あそこの中だと一番いい動き」と前衛でウェンディを持っていきたい言葉を貰った。
というのも、やはり他の冒険者――俺達が見る限りの平民冒険者たちの実力が辛うじてCランクに到達できるか否かなレベルだからだ。
Dランクまでは問題ない。
だが、俺の作った魔導書のシミュレーション特訓を始めて見ると、なかなか誰もCランクダンジョンレベルには対応できない。
前衛にしろ、後衛にしろ、サポーターにしろ。
回避や攻撃に、防御。サポーターなら最低限の自衛ができるレベルが欲しい。
現時点で連れていっていいのは、ポート。腹立つがランディーも『杖の花』や小道具を駆使してついて行けている。
逆に言えば、その二人以外はまだまだな所。
無論、冒険者たちもこの結果に納得いかずに前向きで特訓に励んでいる。
一方で恐れていた不穏な動きが出てきた。
「お!? 討伐クエストがあるじゃねえかっ!」
「いいのか!? 受注しても!」
「はい! 是非ともお願いします」
平民冒険者に回る事なかったモンスター討伐クエストが、来るようになったのだ。
街に溢れていた貴族の豪邸から人気がどんどんと消えていっている。貴族御用達のレストランも閑古鳥が鳴いている状態。
やはり、貴族冒険者の一斉摘発の影響があるようだ。
無論、クリストフ達のように真面目な貴族冒険者も多少残っているが、少なくともギルドのバイキングでイキってた貴族たちは消え。徐々に俺達平民冒険者も、本来の在り方通り、バイキングエリアで朝食夕食を取るようになった。
ただ、俺考案の(というより前世から受け売りの)フレンチトーストこと『フォールファースト』は作ってくれと依頼された。
しかし、だ。
深刻なのは冒険者不足だ。
厄介者が消えたはいいものとして、逆に真っ当な冒険者が減っているこの現状。
ダンジョン調査とモンスター討伐依頼、雑務も含め、平民冒険者全員が総出しても、パーティ四名必須の縛りのせいで満足に回れないのが現状。
ひょっとして、ソロ受注が解禁されるんじゃないかと俺は期待したが。
受付嬢に尋ねた所、彼女からこう返答された。
「現在、国がM国に依頼しているようです。とくに皆様が往けないCランクダンジョンの調査の為、精鋭の冒険者を派遣するそうです」
「M国……? E王国ではなく??」
M国は鬼人中心の島国だ。
W国内にちらほら、鬼人の姿があるので交流あるのは分かってはいたが、ここでダンジョン調査をM国に依頼とはどういう心境の変化なのだろう。
「実は」と受付嬢が俺の疑問に答えた。
「『ウェストデリア国際博覧会』の開催に伴い、M国の王族の方々がW国の方に来賓されるのです。開催までこちらに留まるご予定らしく……それに合わせ、冒険者も同伴されるとの事です」
博覧会……?
そういや……新聞記事にあったな。
A帝国が出展するとか宣言して、話題になってたアレか。……そうだ。
俺は他にも思い出す。
確かW国も『ウェストデリア国際博覧会』で人材募集をかけてる事を――




