改革ってレベルじゃねーぞ!
『魔法陣崩しのディザイア』。
歴史書に載る位の偉業を残し、魔法陣分野を後退させる元凶にもなった人物。
人間の歴史書には詳細な情報がなかったが、エルフ……特に奴に魔法陣崩しされ不法入国を許したE王国では、親の仇の如く詳細に記録が残されているという。
種族は人間。
杖は『ナナトロワ』。
魔法の属性は『闇』。
職業は――皮肉にもランディーと同じく『道化師』。
不法侵入した動機も「自身の実力を試したかったから」という愉快犯的なもので、特にE王国から盗んだり被害を残したりはしなかった模様。強いて言うなら、当時の王女にダンスの申し出をしたとか何とか。
……最早、ランディーの前世じゃねーのかって感じな愉快犯だ。
奴は他にも厳重警備の名所を巡っては不法侵入し記念撮影よろしく記念カードを残したり、ある時は政治家の裏金を町中にバラ撒いたり……所謂、この世界における『義賊』って奴だ。
だから、今でもE王国のエルフには恨まれているし。
逆に、ダークヒーロー的な英雄視され今なお根強いファンもいる。
そんなディザイアの最後は、誰も知らない。
E王国への不法侵入を最後に、奴は消息を絶った。
事故か病死か、義賊を引退してひっそりと生き長らえて子孫がいるかもとか、ロマンある語り継がれが続いている。
……故にジャンからも「ナナトロワの杖の花をエルフに見せないようにした方がいい」と注意された。
日も暮れ始めたので、俺達はジャンの研究所からギルドへ帰る事に。
勿論。ランディーには杖の購入金をジャンに払うよう俺が言っておいた。言わなきゃ、タダで持って帰ろうという雰囲気ありまくってたな。
途中、俺達はハインツが入院している病院に立ち寄ったが本人希望の面会謝絶状態だった。
ランディーが「杖の花見せたかったなぁ~」と残念そうにぼやく。
コイツは良かれと思って、見せたがろうとしてるようだが、今のハインツにとっては煽り以外の何ものでもないだろうな……
都合良くミディアが現れたお陰で、コイツと共にCランクダンジョンは攻略できそうだが……ハインツの件が非常に面倒で厄介極まりない。
クリストフ達も心配しているようだし、その不安が要因でダンジョン攻略に支障があっては困る。
その点、ランディーは平気なのが良くも悪くも幸いだ。
だが、俺達がギルドに帰還すると大量の貴族たち――恐らく、貴族冒険者たちが押しかけて、ごった返し状態になっている。受付にいる筈の受付嬢の姿形が見えない。
鳥とイルカの使い魔がそれぞれ「順番ニオ並ビ下サイ!」「ゴ協力 ヨロシク オ願イ 致シマス」と呼び掛けているが、貴族共には全く聞こえてない模様。
「他の貴族が囚われたと聞いたが事実なのか!?」
「我々はどうなる!」
「討伐クエストを行ったのに飲酒をしたからという不当な理由でクビにされたと聞いたぞ!?」
「いいから、事実確認を――」
断片的に聞いて行くと、どうやらダンジョン調査をサボった貴族冒険者らが全員処罰というクビにされ、転職を強制されたらしい。
所謂、完全なる廃嫡。平民堕ちという顛末だ。
情報が錯綜して他の心当たりある貴族たちや無関係な貴族も不安を覚え、このようにギルドへ押しかける事態になっているんだろう。
これこそ不穏な流れだな……
押しかけてる貴族共がまだ居座り続けるなら、討伐クエストやダンジョン調査は相変わらず貴族優先なんだろうが、この事態に不安を感じて撤退するようなもんなら。
いや、流石に過剰過ぎるな。
そうならない事を祈るばかりだ。
貴族共の荒波を抜けて、書庫にたどり着くと土の猫使い魔を渡した令嬢と再び合流できた。
令嬢は「ポート君!」とうつらうつら、眠りこけていたポートの肩を叩いて起こした。
飛び上がってポートは「すみません!?」と驚く。
令嬢に使い魔の使用感を聞いたところ、様々な情報をインプットしまくって、それを質問して正解できるか実験したり。
ポートに渡した問題集を記録し、ランダムに問題を出題して貰う、なんて事をしたらしい。
学習能力は問題なし。
ただし、燃費と処理の遅さは令嬢からも指摘された。ついでにポートの学習はまずまずと言ったところ。
令嬢から一旦、猫の使い魔を返して貰い魔導書の状態に戻す。
外の騒がしさを聞いていた令嬢も、不安そうに言う。
「大丈夫でしょうか……皆様、今回の一件に関してはかなり不安を抱いているご様子です」
ミディアも別の意味で不満を漏らす。
「明日こそ先輩とダンジョン行けるかどうかが問題」
そっちかよ、と俺が内心で突っ込むが、案外問題だったりもする。
俺達の不安を他所に、いつの間にか俺達から別行動して戻って来たランディーが書庫の扉を開けて、意気揚々と告げた。
「おっさん! 明日、ダンジョン調査の依頼取れたぜ~!!」
勝手過ぎるが、アシスト的に悪くないのがいやらしい。
俺はクエストの確認する。
「ちなみにどのダンジョン調査を取りましたか」
「んー。ハインツが動かねーし、取り合えず俺とおっさんと、ツインテのお嬢ちゃんとポートのメンバーでDランクダンジョン調査の登録しといたぜ。あ、そこの君も一緒に来る?」
ナンパのノリでランディーが令嬢に声をかけて、彼女の方は「ええ!?」と驚きながらも申し訳なさそうに言う。
「すみません……私、魔法は得意ですが職業が料理人でして……」
俺とミディアが「「料理人……?」」と言葉を揃えてしまった。
なんせ、A帝国だと無双しまくれる当たり職業だからだ。
「モンスターの急所が分かれば強いのに」
「いや、彼女はモンスター食の研究をしてるから知識は十分ある。ゴーレムの殻だって『殻割り』できる。でもな、本人が経験不足ならDランクについて来れないだろ」
「先輩がサポートすれば大丈夫」
「俺はもうサポーターはやらねぇよ」
「私とあの人で前衛、先輩とランディーで後衛。殿はポート。役割分担は出来てる」
「(ランディーを)アイツ呼ばわりするんじゃねぇよ」
俺達の会話に完全に置いてきぼり食らってた令嬢だったが、彼女は一先ず俺達に教えてくれた。
「お誘いありがとうございます。申し遅れました。私は『ウェンディ』……ただの『ウェンディ』です。私の実力不足による婚約破棄により、廃嫡された身でございます。なので、気軽にお声掛けください」
おいおい、マジかよ。
『異世界あるある』の婚約破棄パターンの女性verと、こんな形で巡り合うって……




