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文献の中で逢ったような


「常時魔力を流し続けている、というより杖の魔力管を常に魔力で満たしている状態なのか! いやぁ、これはジョサイア君の術式が素晴らしいね! 杖全体に施した術式あって、ヘルコヴァーラの杖を万全の状態にして使いこなせている!! ただ、魔法陣を通して杖と君の神経がより繋がっているのがデメリットでもあり……」


ベラベラとジャンが熱弁する通り、杖の解析自体は色々としてくれる。

ついでに、俺は幾つか確認してみた。


「ジャンさん。杖自体が成長してくれて、持ちやすくはなっているんですが……加工をした方がいいのでしょうか」


「え!? どうして!??」


逆に驚かれて、俺も躊躇しながら話を続ける。


「ジャンさんも事情をご存知でしょう。この杖を加工した詐欺集団は、それっぽい粗削りをしただけで、なんと言うんでしょう。杖としての加工が不十分ではないかと思いまして……」


「あぁ~~~~……気持ちは分かるけど、駄目だよダメ! 下手に削ったりしたら、そっちの方が問題が起きるかもしれない!! ヘルコヴァーラは魔力管が細かいから、特に駄目だ。君との相性も支障が出るかもしれない」


「そんなに、ですか?」


「杖は結構繊細なのさ……よし! 出来たぞ!! 改めて見ると凄いなぁ! これ!!」


ジャンが魔導書に書き終えたのは、使い魔の術式(最新版)の写しだ。

ただ、俺が使用しているのはギルドからの借り物の普通品質の魔導書。ジャンのは、奴特性の魔導書だ。

ジャンの属性が()と聞いて、俺も難題を相談する。


「光属性に問題はないのですが、やはり土辺りの魔力速度が遅い属性ですと処理能力に遅れがあるんですね。どう改善していけばいいのか……」


「僕に聞かれても困るよ! 僕だって生み出せなかった術式なんだから!!」


……ぶっちゃけ過ぎる。

しかし、当然の話であった。

それでもジャンは魔術関連の研究者として「僕も色々やってみるさ!」と意気込んでいる。


ちょいちょいとミディアが俺の袖を引っ張って、ステータスを見せてきた。


「先輩。私の魔力そろそろ終わる」


「あぁ、餌を食わせろ。ここに来る途中、買っておいた魔石な」


安価な火の魔石を砕いて皿に載せたのを、犬の使い魔の前に置く。

ミディアが「ご飯」と改めて犬に差し出すと、理解したらしく犬が魔石を食べ始めた。

ミディアのMP量の減り具合から、もう一つの問題点に気づく俺。


「あとは燃費か」


これに関しては色々と術式を組んで工夫はしている。

例えば、大気中の火の魔素を吸い込むとか、移動中などの運動エネルギーによる摩擦で発生する火の魔素を吸収したり……

属性ごとで、エネルギー補充方法を編み出してはどうなのか実践している。

プラス、魔石で補う。

あとは所有者の使わない魔力とかエネルギーを変換して……魔導書の質でも多少変化はあるのか?


ここで――


「だ~めだ、こりゃ。エルフのおっさーん。全部試したけど駄目だったぜ~。魔法発動しないのばっか」


ランディーが山のようにあった杖を粗方触れて、匙を投げた。

早速、使い魔を実体化しようとしたジャンが「ええ!?」と素っ頓狂な声を上げて、ランディーの方へ駆けつけた。


「魔法発動しないのが多かったのかい? 系統的に魔法が発動しない方がおかしい位なんだけど……うーん……ちょっと奥の方で話してもいいかい??」


「え、なんで?」


頭をかきながらジャンが言う。


「多分なんだけど……君の内面的な部分が相性に関わってくると思うから、その~……ジョサイア君達にも聞かれたくない事とかあるだろうし」


「別にコソコソ話せる話題もないぜ? 結婚破棄の奴も、おっさんの方は知ってるし」


平然と黒歴史をぶちかますランディーの態度に、ジャンも驚きの吹き出しをした。

とにかく、奥の部屋に二人が入ってくのを見届けてから不満気にミディアが尋ねる。


「先輩。アイツもパーティに入れておくつもりなの」


「入れなきゃいけねぇんだよ。お前も、あそこのギルドの糞ルールくらい聞いただろ。最低でも四人パーティってのと、貴族優先だから討伐クエストとかダンジョン調査を取るってなったら貴族同行必須って現状なんだよ」


それと、ダンジョン調査も誰も貴族が調査しちゃいなかったのに、平民にクエストが回って来なかったのを見ると。

貴族冒険者全員がこまめにクエスト受注せず、趣味趣向の嗜み感覚で討伐クエストを受注する。

残ったダンジョン調査は、一応貴族の奴が受注かもしれないと残す予備クエストなんだろうな。


釈然としない感じでミディアが聞いた。


「他に先輩と親しい貴族はいないの」


「いるが……どんだけ嫌なんだよ。少しは我慢できるだろ」


「そうじゃない。なんか不穏」


不穏?

いや……本当に自分勝手で快楽主義者が過ぎて、呆れる所はあるが、不穏……ってほどじゃないだろ。

別角度から見れば、まあ、不穏でもあるのか。


そしたら、不穏そうに頭をかきながらジャンが奥より姿を現す。

ランディーは何の変哲ない表情だったが、ジャンは「もしかして」と意味深な呟きと共に、数多ある杖の箱の山に片腕あげて、掌を向ける。


「えーと……風系統に作ったのは確か……3977121番」


掌に浮かび上がった魔法陣と連動し、一つの箱が飛んできた。

これまた結構なホコリを被った箱。

開いて中から出てきたのは、一見すると普通の杖だった。派手なヘルコヴァーラの杖とは違い、普通の焦げ茶色で指揮棒程度の長さに持ち手も加工されてある。

特別特徴ある杖ではなかった。


不思議そうにランディーが杖を受け取り、ジャンが説明する。


「杖の素材は『ナナトロワの木』。七色の葉と七色の花、七色の実がなる……そこらにも植わってる普通の木さ。大気のあらゆる属性を吸収し、育つから、学校の授業用の杖で使用される事が多いね」


特徴を聞いて俺も思い出す。

薬や食料の需要はないので価値が低い、汎用性だけが取り柄の杖向きの木。

首を傾げたランディーはふと思い出したように言う。


「あ~! もしかしたら、そーかも! 俺よく、授業サボってこの木の上で昼寝してたぜ!!」


どういう理屈だよ……

俺が内心突っ込んでいると、ランディーが杖に魔力込めた瞬間。俺の同じような瞬間的な衝撃が走る。

七色の光が、否、電流だろうか。それらが周囲に幻想的な光の粒子になる。

そして、杖の光沢が黄緑色に、杖の先端では『杖の花』と思しき結晶が七つ、恒星のように周回していた。

直接生えない『杖の花』……なのか。


ランディーが『杖の花』に大歓喜する一方、何故かジャンは複雑な様子。俺の時と違って歓喜していない。

「いや、まさか本当にね……」と頭をかきくジャンに、俺は問う。


「あの杖に問題でも?」


「ナナトロワの杖は、僕達エルフにとっては因縁あるものでね。あれの『杖の花』を咲かせた人間は、ランディー(かれ)ともう一人だけ……『ディザイア』さ」


「な……」


覚えがない訳ない。文献で腐るほど見てきた名だ。

名前の響きが似ているから、間の抜けた顔でランディーが「おっさんの親戚?」とか言ってくる。

ジャンが代わりに答えた。


「『魔法陣崩しのディザイア』……魔法陣分野に衝撃を与えた人物さ」



いつの間にかブクマ100件超えてました。皆様ありがとうございます!

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