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一方、A帝国では(5)


A帝国そのものに『毒雨』の被害が襲って来た。

ジョサイアの前世世界でいう『酸性雨』に近い被害を及ぼす。用水路の水へ問答無用に毒素がばら撒かれ、ありとあらゆる建造物が毒素に侵され・変色し・溶ける。

近代的な都市で、僅かに植えられた植物は枯死した。


また『毒雨』の派生『毒霧』も発生した。

文字通り、毒素の混じった霧。息をするだけでも身体に異常を来し、視力にも影響が及んだ。


更に最悪な事態が起きた。

それは『毒雨』や『毒霧』で魔道具にも異常が発生。

『キングゴーレム』や『レクタースターチュ』などの魔法無効化特性を持つモンスター素材を使用した兵器は、『毒雨』や『毒霧』を浴びると変形してしまった。


そして、『毒雨』ないし『毒霧』の原因がモンスターの毒素であり、モンスターの死骸処理を怠った冒険者にヘイトが向けられた。

冒険者にもかかわらず、人的被害を想定せずに放置したとして、A帝国周辺のダンジョン調査・モンスター討伐を行った冒険者全員に処罰が下された。


国としては「毒素処理は冒険者の基本鉄則であり、教本にも記されている一般常識。これを認知していなかったなどという弁明は、あまりに無理がある。冒険者側の怠慢である」とし、彼らを終身刑。更には『毒雨』を日中浴びせる公開処刑を一週間余り行ったという。


これにより、A帝国国内における冒険者の信頼は低下し、事実上、冒険者ギルドは解体。処罰の対象にならなかった冒険者は、戦力になれる実力あれば騎士団へ。

そうでない冒険者は、魔道具の製造工場へ派遣された。

最早、ダンジョンは騎士団と魔道兵器で攻略し、モンスターもそれらで対処する。無論、モンスターの毒素処理も。

これが最も安全だと、国は発表した。





「冗談じゃねえ!」


「やってられるか、こんな生活!!」


だが、元冒険者たちの不満が爆発した。

労働に飛ばされた冒険者も、騎士団へ入団した冒険者も、揃いも揃って全員だ。

彼らは金が欲しくて冒険者をやっていた訳ではない。

モンスターを倒す爽快感を求めて冒険者をやっていた訳でもない。


とにもかくにも、過酷な労働は求めてないうえ、堅苦しい規則のある騎士団も彼らの居場所じゃない。

良くも悪くも荒くれもの共だった彼らは、脱獄・亡命をした。

当然。A帝国からの脱獄も亡命も並大抵では不可能である。


『毒雨』の影響が未だ終息していないのをいい機に、集団亡命は『毒雨』の最中。実行された。

過酷な労働で身体が疲弊した元冒険者たち。

それでも上位の冒険者は実力で騎士団や魔道兵器に立ち向かった。

この事件で、死傷者――騎士団・元冒険者含め()()()余り。


亡命に成功したのは僅か数名。

未だ身元不明者も多く、誰が亡命に成功したかもハッキリしていない。


その僅か数名の内、一人がW国を目指したのも、未だ誰も知らない……





A帝国の城内の一室にて。


「どうしてこうなったんだ……! こんなにも犠牲が出るなんて……」


苦悩し、ブツブツと独り言を繰り返すのは魔道具の研究者の一人。

以前、王族・政府上層部の前で計画を発表した彼である。

だが……冒険者の信頼を落としたとはいえ、冒険者による亡命……謂わば『クーデター』に匹敵する事件が勃発したのだ。


上層部は冒険者を無駄な概念と見なし、撲滅しようとしていたが。

彼の場合は、冒険者の犠牲をなくそうと魔道兵器を完成させ、より安全にモンスターを討伐できるようと思っての事だった。

しかし、彼の善意は冒険者の拠り所を無くし、彼らを疎外する方向へ流されてしまった。


彼の周囲にいる上層部は、彼の真意を知る由もなく話題をあれこれ交わす。


「E王国へ盗聴器を潜入させに派遣した部隊も帰還しない! E王国に始末されたのか!? いや、それならば向こう側の反応が……」


「エルフ共は基本、大々的に動かん。始末したとて、我々への警戒心が強まっただけであろう」


「しかし、C公国の件もある!」


「C公国と同じような襲撃をされてみろ……!」


「その為に裏で魔法無効化の防空壕を建設したのだ!」


「残念ですが、アレも『毒雨』の被害を受けて……」


「クソ! 冒険者共め。余計な事を……!!」


ざわめく上層部を「静まりなさい」と一蹴したのは、王妃であった。

国王と王妃、そして二人の愛娘・アナトリアが部屋に姿を見せれば空間は嫌でも落ち着き、彼らは王族に頭を垂れた。


国王が静かに語る。


「この度の一件を通し……魔道兵器の実用性を示さなければ、周辺諸国のみならず、全世界の国家も我々の政策に納得しないであろう。じゃが……近い内に機会が巡る。それは『ウェストデリア国際博覧会』じゃ」


一瞬、場にざわめきが走る。


ウェストデリア国際博覧会。

四年に一度、各国から全人型種族が利用できる手段、またはある分野の進歩・将来性あるものを出展・公開する事で各々の国の尊厳を示す一大イベントである。

毎回、開催国はバラバラであり、今回はI連合国で三か月後に開催されているのが決定されていた。


「『ウェストデリア国際博覧会』に展示する魔道具の作製をするのじゃ」




だが、この目論見が意外な形で台無しにされることを、A帝国は知らない。


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