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ジョサイアとヘルコヴァーラの杖


「ここ、誰か住んでるの」


住所にあった建物の外観を見たミディアの反応が、これである。

建物は石造りの一軒家。

苔や植物で覆われている。


庭は草木でボーボー。乱雑に生えているように見えるが……一応、薬の原料になる植物ばかり。杖になれる小規模な木が植木鉢で育てられていた。

……一応は、管理している状態なんだろうな。


俺がチャイムを何度か鳴らすが、反応なし。

扉をノックしてみるが、ふと鍵がかかってないのに気づいてしまう。重い扉を開くと――

珍しくランディーが叫ぶ。


「オエーッ! すっげえ気持ち悪りぃ!!」


薬以外の悪臭もあるが、一度換気した方がいいのは間違いない。

仕方ないので俺達の周囲を『クリア』のベールで包み込み、悪臭だけでもカットする事にした。

玄関先でも大量の箱が山積み状態に。

一つだけ『スキャン』で内部を確認すると――入っているのは杖だった。

様々な趣向の杖を作っては放置している状態なのか。


玄関を抜けた先にある崩れ落ちそうなシャンデリアが下がられてる玄関ホールも、ほぼほぼ大量の杖や魔水晶、魔導書で埋め尽くされいた。

魔導書なんか、ホコリ被って放置されているのが勿体ないレベルで質が良さそうだ。


部屋のどこにいるかスキャンで索敵したら、どの部屋も杖などで埋め尽くされ、貴重な素材や研究資料の保管庫は魔法陣の結界で防犯対策されてあった。

何というか、変なところで用心深く、用心がない矛盾さがある。


で、肝心の研究者は自室と思しき研究室で引き籠っている。

ノックして「すみません」と大声出すが反応なし。

寝ているのか、研究に没頭中なのか、極めつけはここも防犯用の魔法陣がある。

ミディアが借りてきた剣を構え「壊す」と宣言するが、止めさせた。俺は一息ついて術式を眺める。


研究室全体を『杖の花』で索敵してみると、薄っすら幾つもの魔法陣が無数に周囲を覆っている。

エルフ十八番の多重連鎖型魔法陣か。

一つの魔法陣を崩したら、連鎖的に残りの魔法陣から罠が発動するのが有名な陣形だ。

『魔法陣崩し』の対策自体もしてあるだろうし、幾ら返事がないからと言って、魔法陣を崩す訳にもいかない。

古典的……子供でも思いつく小細工だが、試してみるか。防犯型魔法陣だからこそ、外部の魔力に反応もする筈……


俺が建物の外に移動させた『杖の花』から、まずは攻撃性を省いた強力な『ホーリー』の光()()を放出した。

眩しくて目を醒ましたり、膨大な魔力に反応してくれれば、何かに没頭してても気づけるのではと――


そしたら、派手にこけた様な効果音が聞こえた。

俺は光を弱め、改めて声を張り上げてノックをする。


「すみません。ヘルコヴァーラの杖の件でこちらに来るよう指示されたジョサイアという者ですが」


『あ、あぁ……! はい、はい!! ごめんよ! ちょっと待って……うわああ!!!』


中から物が崩れる音が聞こえて、騒がしい効果音がしばらく続いて、ようやく扉を勢いよく開いたのは、やはり昨日の風呂入らずの男エルフ(凡そ三百歳)だった。

先程の光について俺が謝罪する前に、


「やったー! ヘルコヴァーラの杖だぁぁ~~~~~!!! 良かった~~~~~!!」


と大歓喜されてしまった。





とにかく研究室も足の踏み場がない程、酷かったので俺が清掃魔法陣を総動員させて、俺達全員が落ち着ける空間に整えた。

『クリーンウォーター』と脱臭効果ある薬草の粉を被ったお陰で、悪臭も落ち着いたエルフ……ええと、名前がちょっと面倒くさい程、ややこしく長いんだが……ソイツが苦笑いして頭をかく。


「流石は光魔法だね。自分も自分の研究室がこんな感じだっけって思っちゃった程、綺麗になったよ。ハハハハ……」


「こちらこそ、先程は驚かせてすみませんでした。ええと、ジャンバ……」


「ジャンバッティスタ~って本名は呼びにくいから、気軽に『ジャン』と呼んでくれていいよ」


そうそう。

本名はジャンバッティスタドゴミクなんちゃら。エルフのほとんどは、ややこしい名前ばっかりらしい。

以降、ジャンと呼ばせて貰うが、俺は早速ジャンに『杖の花』の件を尋ねた。

向こうは目を見開きながら、芳しくない表情で唸る。


「それは()()()()()。いや、()()()()()()()()というか……うーん」


ミディアが即座に問いただす。


「なに。先輩、杖使っちゃ危ないの。それは困る」


「いやいやいや! 危険、っちゃ危険だけど。えーと、一から説明しようか。ジョサイア君に起きてる症状はヘルコヴァーラの特性じゃなく、君とヘルコヴァーラの相性が良過ぎる事で発生しているものだね」


良過ぎるってなんぞや。


「確か常に魔力を流すのを維持し続けてるんだっけ? そしたらそーなるよなぁ……あ、ごめんごめん。僕だけ完結して。……『杖の花』を通して映像や音声まで聞こえたのは、ヘルコヴァーラの杖が君の五感に干渉しているって所かな」


「成程。大体想像がつきました。俺の神経とも繋がってる状態だから、ヘルコヴァーラの杖や『杖の花』に何かあったら、俺自身マズい状態になりかねないと」


「察しが良くて助かるよ。でも、逆を言えば相性が悪ければ、そういう症状は出ないんだ。紛れもなくこの杖は君だけの杖だと誇っていいよ!」


それは褒め言葉なのか?

ジャン曰く、魔力を流し続けなければ問題ないと言うが……


「どうしますか?」


俺はランディーに話を振る。

他人事のように聞いていたランディーは急な事に「え?」と間抜けな表情だった。


「杖との相性が良過ぎる場合のデメリットがある訳ですが、承知の上で相性のいい杖をお探しに?」


「おっさんも言ってたじゃん。杖とか杖の花が壊れなかったら大丈夫って事だろ?」


「私は耐久度のあるヘルコヴァーラなのでデメリットは低いと思っているのですが、貴方様の杖がどのようなものになるかは、まだ……」


「気ぃつければいいってことっしょ? そーいう事だから、エルフのおっさん! 俺と相性のいい杖、売ってくれない?」


「いえ。ジャンさんは個人経営の店を営んでいる訳でもなく、研究者ですから――」


俺がランディーを食い止めようとしたが、ジャンが「いや!」と熱意込めて言う。


「無きにしも非ず! だね! ふーむ……相性のいい杖っていうのは、一時期流行った真実の愛とか運命の愛と一緒にしちゃいけないけど。運命的な巡り合わせがあると言い伝えられているからね」


「つまり……ジャンさんが作った杖に、運命の杖があるかもと?」


「そういうこと! どの枝を削り、どういう形状に留めるかは職人次第だからね。取り合えず、属性と職業と性格を教えて欲しいかな。やはり、杖の相性で一番重要なのは性格なんだ」


いざ自分の性格と聞かれランディーは眉間にしわ寄せるほど唸って「人付き合いはいい方だぜ」と導く。

ミディアは使い魔たちを撫でながら「自分勝手、子供っぽい」と口を漏らすので、俺が咳払いして「好奇心旺盛な方です」と訂正しておいた。


ジャンも張り切って「よーし!」と気合入れた。


「まずは職業と属性の相性がいいものから試そう! あ、ジョサイア君!! ヘルコヴァーラの杖の情報を取りたいから、この魔法陣の上に置いてくれるかい!! それと――これだよこれ!」


ミディアが『お手』や『お座り』を教えている犬の使い魔に駆け寄るジャン。

俺は、まさかと思っていたら、ジャンは目を輝かせて


「こ、これ魔導書!? 複雑な術式を魔導書に組み込んで作った使い魔だろう!?」


「……ジャンさんは杖の研究者ですよね」


「魔導書も! 魔導書も作っているから!! 術式の方を見せてくれないかい~~! 頼むよ~~~!!!」


結局、魔術関連全般研究してるって事かよ!


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