孤独じゃないグルメ ~シャキシャキ鶏肉サンド~
土の猫型使い魔は、モンスター食研究家の令嬢に預ける事にした。
俺は、彼女に伝える。
「その使い魔ですか、一日お貸しするので色々学習させてみて下さい。その際、使用感に違和感や不備があるようなら事細かに教えていただけますでしょうか」
「はい、かしこまりました。もう十分凄いと思うのですが、どのような不備が起きるかも実践しないと分かりませんものね」
残った水の小さなイルカ型使い魔を預けたのは、受付嬢。
風の鳥型使い魔は、ギルドの所長に託す事にした。というか、それしかギルド内で『ファミリアー』を使用できる奴がいないのだ。
火の犬型使い魔は剣を借りて戻って来たミディアに、光は兎型の使い魔は俺が魔力を込めて実体化して『杖の花』で浮かせた籠の中に入れておいた。
このまま日常生活を送って、どの程度の学習能力が身に着けるか。
不備や異常な反応がないかの検証開始だ。
ヘルコヴァーラの杖を手にしつつ、俺は時刻を見て溜息つく。
「もう昼か……」
腹が鳴ったのはミディアだった。
奴曰く「先輩を追ってたら朝食たべるの忘れた」らしい。全くコイツは……
しかし、件のエルフから頼まれた杖の研究者の住所。ギルドから大分離れた場所にあるので、ギルドから出て途中で昼食を取って、向こうへ訪問した方が良いだろう。
「あぁ、露店で買うか」
ギルドから移動中に露店で昼食販売する所が要所要所見つかり、移動しながらでも食べれるバンズを販売する露店で俺は足を止めた。
「いらっしゃいませー! こちら、お昼にオススメ『シャキシャキ鶏肉サンド』です! 一個、銅貨30枚ですよ~」
「ああ、じゃあ。それと――」
俺が引っ付いて同行するミディアに確認する前に、向こうが「それ二つ」と店員に伝える。
それを更に割り込む形で、他に並んでるバンズサンドに声あげる奴が。
「あー! おっさん!! こっちの方は美味そうだぜ! 濃そうなソースたっぷり入ってる!!」
「……」
いや、なんで付いて来てるんだよ! と叫びたくなるのを俺は堪えて、そこで他の商品を品定めする男・ランディーに言う。
「俺とミディアはこれでいいので」
ミディアが俺の代わりに「何でついてくるの」と冷たい視線で聞くが、俺も俺で「コイツは貴族だから口には気を付けろ」と小声で注意をする。
結局、濃厚ソースと鶏肉に香味野菜が入ったサンドを購入したランディーが「いやさぁ」と俺に頼みこんでくる。
「俺も杖欲しいんだよ~。だから、おっさんと一緒に同行して、ついでに杖どーにか手に入らないかなぁってさ」
「……高級な杖となると、金貨数枚程度では足りませんよ?」
「そーじゃなくて! 俺もおっさんみたいに、杖の花っての欲しいから相性がいい杖欲しいんだよ。案外、安めの杖と相性良かったりするんじゃね?」
安易な奴だ……
不満そうに「先輩」とミディアが訴える。俺も暇潰しでついて来られてもだったが、少々使い魔の実践にはいいかもしれない。
この段階で俺は、それぞれの使い魔に尋ねる。
「俺の名前は?」
即座に光の兎型使い魔が「ジョサイア様です」とすらすら答え、やや遅れて炎の犬型使い魔が「ジョサイア」と答える。
じゃあ、次だ。
「ミディアが先輩と呼んでる奴の名前は?」
「ジョサイア様です」「――……ジョサイア」
「ランディー・ライムバッハー様が『おっさん』とお呼びしている者は?」
「ジョサイア様です」「――……ジョサイア」
……今の所、問題なしだな。
ランディーが不思議そうに「今の必要?」と聞くが、ミディアがもぐもぐサンドを食いながら言う。
「必要。名前なのか、渾名じゃないのか、ちゃんと判別できてる」
「おっさんの名前を『おっさん』って誤認しちゃうかもって事? 流石に馬鹿すぎねぇか?」
「だから、その処理が難しい。完璧な生きた使い魔を完成させるのが難しい理由」
「はー……マジで意味わかんねーなぁ」
ランディーが遠い目で感心する。昼食を取りながら移動し、道中では使い魔たちに色々学習させたり、テスト的な質問を行い、時間をかけて数十分。
件の住所に到着した。




