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俺の代わりは、いない事もないだろう


ミディア。

本名は『ミディア・レア』。

家名があるように元々は貴族の令嬢……っていうほど、おしとやかっぽさの欠片もないがな。

俺の調べじゃ、レア家は訳アリで没落した。父親がロクでもない事をしたと思ってくれればいい。

当時、幼いミディアは老いぼれの執事と共にA帝国へ身を隠す形で入国。

執事が死んで、世間知らずのミディアはどうすればいいか分からず、貧民層で彷徨ってた。

それを俺が助けた。


助けた理由だが、そんなのコイツの職業(ジョブ)が勇者だったから以外ない。

当時の俺はパーティを組む相手も見つからず、ダンジョン調査できないでイライラしていた。

そこで発見したのがミディア。

貴族の教育が幸いして文字の読み書き程度は出来たので、冒険者の知識を叩き込ませ、共にパーティを組んで数日間だけダンジョンで稼ぎに稼いだ。


しかし、本当に数日間だけだった。


ミディアの職業が勇者と知れ渡るや否や、上位のパーティに引き抜かれ。

以降、協同クエストで顔を合わせる程度しか交流がなくなる……のが普通だが、隙あらばミディアは俺をサポーターとして呼んだ。

お陰で金は稼げたが、仕切りに「一緒のパーティを組んで」と言ってくるのは正直勘弁して欲しかった。


周囲からミディアに媚び売ってるとか、ありもしないヘイトを向けられるし。

他が俺のようなサポーターとミディアは釣り合わないと横槍煩いし。

最初、利用しようとした俺も俺だが、利用できなくなった上に厄介も持ってくるなと本人にも注意して大人しくなったかと思えばコレか……





「馬鹿か!? お前!」


俺がミディアに対し怒声を上げたのは、上司に文句言って降格された事でも、A帝国から出国でもなく(それらも突っ込み所だが)、道中でA帝国の連中を殲滅した事だ。

魔道具の流布で俺の職を奪った腹いせだとか、自棄な動機で派手な事件起こしやがったのだ。コイツは。

でも、とミディアが言う。


「国境外だから平気。先輩の言う通り、法律には気を付けた」


国境外での犯罪は立証が困難かつ、無法地帯の一端だからグレーゾーンってだけでA帝国に喧嘩吹っ掛けたのに変わりねぇだろうが!


「あと、これ」


ミディアがドンッ!と派手な音立ててテーブルに置いたのは、大量の金貨銀貨が入った袋。


「先輩が受け取る筈だったお金。冒険者達(アイツら)もギルドの奴らも、先輩だからって渡す分、騙してた。あと先輩の副業の給料分。ちゃんと計算したから大丈夫」


フンと鼻鳴らして自慢げなミディアだが、こんな金渡されてもどうしろって言うんだ。

大体――


「自分の装備売らないで、これ使えばいいだろうが!」


「やだ。私、欲しいものはない。先輩のパーティで冒険者をやっていきたいって、ずっと言ってる」


餓鬼の頃から変わらない表情筋ない顔だが、相当拗ねているのが分かる。

俺はガリガリ手元で術式を書き込み続けながら言う。


「取り合えず……受付行って、武器を借りてこい」


「! 先輩。一緒にパーティ組んで」


「武器用意しろっつってんだよ! 話はそれからだ」


表情筋ない顔だけど雰囲気を明るくさせながら、ミディアは意気揚々と受付へ向かう。

ランディーが「いやぁ」と俺をからかってくる。


「おっさん。あんな若い子にモテるなんてやるねぇ。結婚とかしちゃう?」


「は、誰が……」


俺が反論しようとしたら、聞き耳を立ててたミディアが踵返して冷徹に言い放った。


「あんたキモイ。私は先輩のパーティの一員として居続けたいだけ。結婚したいとか思ってもないから。男ってすぐ、そういう発想する訳?」


嫌味たっぷり込めた台詞を吐き捨てて、ミディアは今度こそ受付へ向かった。

ランディーが流石の事に「えー」と引き気味になっている。

だが、皮肉にもミディアの件で苛立ったお陰?か完成した術式に魔力を流し、反応を見て「よし」と俺は確証する。

あとは実践あるのみだ。


俺は闇以外の使い魔魔導書を完成させた。

火属性はミディアに任せるとして、他の属性はな……セドオアもランディーも、クリストフですら『ファミリアー』を使用できない。

ポートも魔法レベルが到達していない。

あと頼める奴は……案外、魔法レベルを極めてたりしないかとモンスター食に関する論文を書く令嬢に声かけた。


「すみません。『ファミリアー』って使用できますか」


「……えっ。は、はい。でき、ますけど……」


「火属性以外の使い魔魔導書の実践をしたくて……火属性ではないでしょうか?」


「はっ、はい。え!? もしかして、本当に完成したんですか?! その! さっきの!!」


俺達の話を聞いてたのもあって令嬢も驚いているが、俺は穏便に言う。


「まだまだ。試作品みたいなもので、簡単な質疑応答と学習能力ができる使い魔です。実践に協力して頂けませんか」


「こ、この術式……新しい術式ですか!? これだけでも偉大な発見ですよ!」


どうやら魔法陣の知識があるらしい令嬢は、魔導書の内容を見ただけで興奮している。

俺は落ち着かせて「実際に使用して下さい」と頼む。

令嬢も我に返って彼女の属性――土魔法の『ファミリアー』の魔力を流し込むと、魔導書は猫に変化した。

猫はテーブルに箱座りしながら喋る。


「にゃあ は、ツカイマ の クレイ にゃー。今日は いい 天気 だにゃ~」


「なんてことなの……!」


令嬢は卒倒しそうなくらいビックリしているが、俺は土属性の魔力速度の遅さで言語がカタコトになる点に不満を感じ、改善案の構想を企て始めていた。

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