駄目だコイツ、早くなんとかしてくれ
その後、あのエルフは杖の研究者の住所を渡してきて「今日中に一度挨拶をしに伺って下さい」と告げ。
更に、件の貴族冒険者にもしもの失態があれば、然るべき処遇を下される旨を教えられた。
まあ……他にも色々あると口走ってたしな。
一応、ヘルコヴァーラの杖を通して監視を続けているダンジョン周辺では、未だに異常はない。
どうやら全員、最初は討伐クエストから攻略するようだ。
討伐クエストの情報を頼りに『杖の花』を飛ばして監視して見ると、脳裏に精密な映像が浮かぶ。音声も聴こえた。
『なあ……俺達の取ったダンジョンの場所、こっから遠くねぇか』
『馬鹿かよ。行ったフリすりゃいいんだって』
『そーそー。したか、してないかって判断も曖昧だろ。ダンジョン調査なんて』
ああ、そういう。
他の連中もダンジョン調査したフリをする魂胆らしい。
というか盗撮・盗聴まで備わってるってどうなってやがる? 俺はそういう術式は組み込んでない……ヘルコヴァーラの特性が関係するなら、魔力を吸い上げる管が多い点、か?
細かい管が『スキャン』の処理をより精密にしているとか……駄目だ。分からない。杖のスペシャリストに聞こう。
一先ず。
俺は冒険者たちからの依頼を片付け、宿舎の清掃を終え、菜園にてポーションの原液と薬の素材になる実を収穫。
中でも漸く実った『サミ』という黄緑の実。
コイツがないと『ハイポーション』を調合できない……いや、コイツが入っているポーションが『ハイポーション』として分類される条件なくらい重要な代物だ。
あとは液体洗剤用の薬草、治癒向上効果ある薬草、『魔過痛』や筋肉痛に利く成分を含む薬草などなど、俺がA帝国の自宅で菜園してた薬草の種も育った分を採取する。
ポーション、ハイポーションを含めた特性ポーションなどなどの薬は、自室にて魔法陣のオート製造。
最後に、洗濯術式を組み込んでた魔導書を一旦回収、代わりに『杖の花』による新たな洗濯術式を設置。
杖を通して自動的に俺の魔力をオン・オフでき、常時出現する洗濯魔法陣(円形型)の個数も調整できる。
さて、と。
一段落済んだところで、俺は漸く書庫に移動した。
読書スペースには俺から問題集を渡されたポートが、それと向き合っている姿と。
暇そうに伏せているランディー。
あと、モンスター食の研究やら論文を書いていた令嬢がいた。
ランディーが俺に気づいて声かけた。
「おっさん、やっと仕事終わったの?」
「まあ、はい。やるべき事は。これから魔導書で『最新鋭の使い魔』を実現する研究を始めます」
「『最新鋭の使い魔』? なに? かわいいメイドの女の子の使い魔とか??」
「……出来るかもしれませんね」
「マジ?!」
書庫だから静かにしてくれ。
真剣に取り組んでた令嬢も奇妙な顔でこちらを伺っていた。
俺が改めて説明する。
「重要なのは処理能力ですね。たとえば『かわいいメイドの女の子』……を想定しますと、可愛い動作や仕草をルーティンかランダムで発動するようにとか、会話など質疑応答を正常に行えるか、彼女にメイドとしての知識を備えるなら、その情報を学習するよう魔導書に取り込むよう術式を――」
「……なんか無茶苦茶面倒なの?」
「そうですね。普通の会話が正常に成立できる段階ですら難しいです。この世界の『七大偉業』の一つに近いものに挑戦しますからね」
「七大……あー、不老不死とかの」
「はい。その『世界七大偉業』の一つに『魂を宿し使い魔』があります。あれは、使い魔を一つの生命レベルに到達させる意味ですが、人型の使い魔の実現はその偉業に近い段階にあるでしょう」
「マジでおっさんにしか出来ねー面倒な奴だな~。……ところでおっさん、さっきから追ってきてるあの子って、おっさんの知り合い?」
「?」
ランディーが顎をしゃくった先の物陰から様子を伺っている奴。
特徴的な赤髪ツインテール。
って、おい……まさか。
「は……? なんでお前ここにいるんだ。ミディア」
「先輩……忙しそうだったから。タイミング見てた」
「じゃねーよ! 何でAランクの勇者がここにいるんだ、オイ!!」
「だって……先輩がいないA帝国とか意味ないし。ムカついたから」
自分は悪くないと拗ねて平然としている奴に、俺は怒声を上げたくて仕方なかった。(もう上げてしまったけど)
毎度毎度毎度、こいつの付きまといには頭を抱える。
それがここまで酷いと一種のストーカーだ! 誰かコイツを早くなんとかしてくれ……




