ちょっと待って!! そのざまぁ、本当に必要?
職員達の様子を見るに、貴族連中には強い姿勢になれないようだ。
職員は平民だからな。自身の保身に走って仕方ない。
前回、受付嬢がハインツを強く止めれなかったのもそうだ。
受付嬢が「すみません」と謝罪され、ポートも不安げに項垂れていた。
「結局、今まで通りになっちゃいましたね。ダンジョン調査が出来るようになって、僕も自信がついてきたのに……」
「最近、ダンジョン調査続きだったから休暇を貰ったと思えよ。ポートにはこれな」
「? なんですか。この紙束……」
「問題集な」
「モンダイシュウ……?」
「国家配達員目指すんだろ。言っとくが実技だけじゃねーからな。筆記試験とか、面接とか色々あんぞ。それは試験に出そうな問題集めた簡単な奴。今日はソレやっとけ」
「は、はいぃぃ……べ、勉強かぁぁ……」
勉強やら何やら聞いて固まった表情になったポート。……大丈夫じゃなさそーだな。
それより、俺も強く出れなかったのはアイツがいなかったからだが。
噂をすればランディーが影から登場した。
コイツ、わざと渦中から抜け出したんだな……
「なあ、おっさん。何か企んで、わざとそそのかしたんだろ? アイツらをさ」
「企むも何も……彼らはクレジオ様より爵位が高いお方ばかり。下手に相手を刺激しないよう対応しただけです」
「あ、そういう? なーんだ」
「念のため『杖の花』でダンジョンの偵察を行います。直接内部に侵入しなければ、規定の範疇なので」
「え~、なんだよそれ~。俺にも出来る?」
「『杖の花』か『ファミリアー』があれば可能ですが……」
「『ファミリアー』まだ覚えてねぇよ~。お。そーいや、俺の『道化師』も杖が適応武器に入ってるんだよ! おっさんと同じ事できたら面白そうだ!」
「……クレジオ様たちの方は?」
「ん? あー、ハインツの代わりに畑の様子見に行ってるぜ。ハインツも何か無気力気味だしさぁ。今日はどーっすかなぁ」
コイツなぁ……マジでクリストフ達との付き合い大切にしとけよと内心、俺は呆れた。
偶にこういう奴いるから参るんだよ。ホント。
とにかく……後でダンジョン関連で、何故知ってて無視した。もう遅いとかふざけるな、諸々とやかく言われるのは嫌なので各ダンジョンの出入口周辺に『杖の花』を配備しよう。
今朝、ボロボロ落ちてたヘルコヴァーラの『杖の花』に、糞神考案の術式を参考した短縮術式を書き込む。幻想的に『杖の花』は光を纏いながら浮遊。
目的地へ向かうよう、杖を通して指示しようとした矢先。
「その必要はございません」
と、誰かがから声をかけられた。
動作をやめて振り返ると、どこかで見かけたエルフ……姿恰好から昨日のE王国のエルフの一人がいた。
杖を引き渡せとまた言ってくるかと思えば、表情崩さずその男エルフが言う。
「今回、ダンジョン調査を強行した彼らは表向きは冒険者として所属しておりますが、裏では廃嫡同然の所業を侵した方々ばかりです」
ああ、つまりランディーと同じ、令嬢の修道院送りならぬ冒険者送りされた連中か。
冒険者の功績が素晴らしかったり、才能に開花し無双して偉業を残したら、家に戻ってくれと親が頼み込む……なんて笑い話が『異世界あるある』の一つにある。
それを夢見ている頭お花畑野郎って訳か。
しかし、だ。
「功績目当てで無謀に走ったとは言え見殺しにしていい理由にはなりませんよね?」
「……貴方は随分と良心的な方ですが、彼らに関しては他にも手を焼いているところが――」
「まさか? 俺は保身的ですけど何か?? 俺ほどの冒険者なら彼らが無駄死するのが分かる訳で、つまり見殺しにしたんじゃないかと後に責められて、あれこれ付きまとわれる方がよっぽど嫌です。平穏に穏便に冒険者を続けたいので義務を全うします。以上」
「な……」
「ところで、杖に関して伺ったのかと思ったのですが、そちらはどうなんですか」
俺は問答無用に偵察用の『杖の花』を飛ばして、手元に残った『杖の花』には短縮化された洗濯の術式を組み込んだ。
ランディーがすぐに「それまた新しいの?」と聞いてくるので「短縮化できた術式です」と教えておいた。
咳払いしてエルフが答える。
「ヘルコヴァーラの杖に関しては……取り敢えずは貴方の所有を認める判断と致しました。ですが、ヘルコヴァーラの杖の花は非常に稀少です。その研究に協力をして頂けないかと」
研究?
まさか、あの風呂入ってないエルフじゃねーだろうな……
俺も杖の可能性を色々調べたいが、あの糞神に使い魔の改良を――待てよ?
「協力――の代価で欲しいものがあるんですが」
「対価ですか……なんでしょう」
「質のいい魔導書です」
対価を聞いて浮かない顔してたエルフも「魔導書?」と驚いた表情でオウム返しした。




