一方、A帝国では(4)
ここは『モンスターの大量発生』が発生したC公国。
高ランクのダンジョン近くの町や村は、ほぼほぼモンスターの進撃で蹂躙されてしまった。
最も、住民も毎年恒例の行事じゃないが、承知のうえで住んでいる地域なので、いざという時は迅速に逃走できるよう一種の『災害避難セット』を用意し、それを掴んで避難済みだ。
しかし……本来、ここらは包囲網を敷く為の町や村でもあったりするのだ。
そこまで進行されているようじゃ、本来A帝国が行っている包囲網とは異なる対処法で対抗しなければならない。
A帝国の精鋭が撤退し、B共和国とその他同盟国、周辺諸国の精鋭部隊が対処すると公表するや否や。
開口一番。先制したのは、何とE王国だった。
古きを重んじて、国風を変えること無い頑な姿勢を主に取っていた彼らも近頃――W国を仲介する形で同盟等の交流に顔を出す機会が増えた。
今回、B共和国と交流したW国を仲介し、C公国の『モンスターの大量発生』を対処すると共に宣言した矢先にだ。
彼らは、国から軍や冒険者を派遣せず、自国からC公国へ遠距離攻撃による支援をやってのけたのだ。
まるで軍や冒険者の出頭そのものが無駄と言わんばかりに。
魔法陣による精密な魔法攻撃。
それらこそ、E王国の十八番であり世界が恐れた魔法技術だった。
魔法陣崩しが何だと言わんばかりに、地獄と化していたC公国の辺境地帯があっという間に制圧された……訳でもない。
中には魔法無効の特性を持つモンスターがいる。彼らは生き残り、されど地獄絵図ほどではない数で進行を続けている。
我々は可能な限りの対処をした、魔法無効のモンスターの対処は残りのB共和国らに求める。
と、E王国はW国を通して裏でB共和国に伝えた。
あまりな傍若無人っぷりに、B共和国らは呆れた一方で、やはりE王国の力は健在かと思い知らされる。
魔法無効のモンスターしか残っていないが、それらもSランクダンジョンから湧いて出たものばかり。
決して、楽ではない。
意を決して、万全の体勢で挑んだものの。
やはり、一筋縄ではいかなかった。各国から物資を依頼し、消費しながら何とか攻防が続く。
そんな最中――
「これは何だ?」
「光属性の魔術師が作った『ポーション』とのことです」
実はジョサイアがこまめに製作し、毎日納品し続けていた『特製ポーション』。
物資不足のこの戦場に運ばれていたのだ。
「ポーションねぇ」と望み薄い反応をする冒険者ら。ランクの低さを見て、気休め程度の代物と判断し、医療部隊へ渡す。
すると――
「う、おおぉおおぉ!? なんだポーション!」
「ハイポーションの間違いじゃないのか!? 重症者に飲ませろ!」
とんでもない効き目だったという。
『クリーンウォーター』は清掃魔法として認知されているが、正確には不純物を取り除く性質がある。
これによりポーションの原液から『クリーンウォーター』によるろ過で治癒成分のみを凝縮させた。まさしく特製ポーション。
Cランク。
というランクの低さではなく、ポーションという下級回復薬がCランクなのが異常。
所謂、純度が良い最高品質のポーションだった訳だ。
「これならまだ行けるぞ!」
「回復したなら、戦場に戻れ!!」
しかし、この状況下では件のポーションの貢献者は凄い!と評価する余裕もない。彼らはとにかく戦いに戦い続け、ポーションの事は誰からも忘れ去られてしまった。
☆
「こ、これはどうなっている?」
「それは……こちらの台詞です。撤退したA帝国の方々が、妙な物に乗りC公国に進軍していると聞いたものですから。我々も警戒していたのです」
A帝国が魔道兵器を完成させ意気揚々と『モンスターの大量発生』を鎮圧させるべく登場した頃には、ダンジョンの活性化は終息に向かい。念のは念を、B共和国らがダンジョン周辺に包囲網を敷いている状態にあった。
A帝国の指揮官が動揺しながら吠える。
「あれほどの数をお前ら程度がどうにか出来るものかッ!」
「ええ、我々だけでは到底対処できませんでしたが。今回、W国を通して協力を得られたE王国がモンスターの七割を殲滅したのです」
「E王国!? あの欠陥ある魔法陣に頼ってる老害国が!!?」
「彼らの戦闘力は健在でしたよ。……それで貴方がたは如何なる用でこちらに?」
「う、ぐぐぐ……!」
最新鋭の戦闘兵器を披露する絶好の機会を、まさか古参の王国や周辺諸国にかっさわられるとは。
苦汁を飲んで撤退する他ないA帝国ら。
しかし、彼らには最初で最後と言える絶好の機会が巡ってくるのだが……それよりも先に、国全体の問題に襲われるのだった。




