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それって窃盗ですよね?


俺の魔法で分かったのだろう。

座り込んだ状態でハインツが「お前がジョサイアか…?」と気弱に尋ねる。

取り合えず、使い魔による応急処置が終わっているのを目視した俺は、連絡用の使い魔を病院方面へ飛ばす。

周囲のモンスターの死骸は、薬草の粉末をばら撒いてから杖に組み込んだ浄化型ホーリーで処理。


それから、告げた。


「撤退しましょう。今回のクエストは失敗処理をして貰うようギルドに通達します」


「待て!」


中肉中背、農民にしては立派に出来上がった肉体で立ちあがろうとする赤髪のハインツだが、武器の鍬を支えに立ちあがろうとした途端、大きくふら付く。

俺は柔らかめの強度にしたシールドでハインツを受け止めた。

本人は気づいていないのか、それとも『ヒール』で回復したと勘違いしているのか。

定かじゃないが、ハッキリと教えた。


「先程の傷で相当出血しています……今、貴方は貧血状態です。このままのダンジョン攻略は不可能と判断します」


「そのくらい回復でなんとか出来るだろっ……!」


「俺は治療師ではなく魔術師です。今、行ったのも可能な限りの応急手当。火属性の治療師に診断を受けて下さい」


「っ……失敗。失敗したなんて報告が親父に知られてみろ! 冗談じゃ済まされない!! 俺だけじゃなくお前も」


俺も相性のいい杖が見つかって気分がハイになったか、高揚したせいで苛立ちも抑えられなかったので、つい本音を吐く。


「俺もお前も、ついでにお前の親父からハインツを頼んだと任せられたクリストフにも責任が及ぶって訳だな」


「な!? そ、そんな話、親父やクリストフから聞いてない――」


「大体、テメェ。少し強くなっていい気になったから調子こいてCランクくらい一人で余裕とか抜かして先行したんだろ。だから、こんな目にあってんだよ。そういう風に死んだ馬鹿はな、腐るほどこの目で見てきたからよく分かるぞ。このまま無理に強行しても死ぬだけだな」


図星だったのか、反論しかけたハインツも途中から完全に項垂れた。

大人しくなったので、まずは病院だ。

表面上、止血してあるし問題ないが、火属性の魔力回路の治療や火属性の血液の輸血などは俺にできない。

ハインツを『シールド』で作った担架で運び。

病院の受付で、事前に使い魔で連絡した者だと伝えると準備はすぐに整えてくれてたらしく、あれよあれよとハインツは奥に運ばれていった。


死ぬことは無い。問題は性格と言うか、精神というか。

火属性の農民としてのプレッシャーか? こればっかりは、俺が踏み込んでいい問題じゃないだろう。

……ああ。俺も興奮してたから酷い言葉使いだったな。

その件だけ後で謝罪しとかねーと……


少し遅れて、クリストフ達が病院にかけつけた。

呼吸を整えながらクリストフが尋ねる。


「す、すまない! ハインツは無事か!?」


「はい。出血量が多いので輸血されているのと、念の為に精密検査をされております」


「ああ……そうか。心配だから少し様子を見て来る」


セドオアも慌てて「僕も」とクリストフの後を追った。

ただ一人、面倒そうな顔のランディーは走って来たのに疲れた様子で近くの座席に座る。


「あーあ。折角、ダンジョン楽しみしてたのに台無しだよ。……え、おっさん! 何それ、杖買ったの?」


友人の心配とは見当違いな話題に、俺も顔を歪めたが渋々答える。


「相性のいい杖が安く手に入ったので。……それより、ハインツ……ハンクシュタイン様のところには向かわないのですか」


暗に「あっちに行って来いよ」と伝えたつもりだが、ランディーは気楽に言う。


「だって、おっさんが助けに入ったなら心配いらねーじゃん! だろ?」


気楽な奴だなと俺が思い、窓の外を伺えば大分日が暮れていた。

不味いな。そろそろ、宿舎の夕食とか勉強会の時間になる。俺はランディーに「俺は先に戻って報告してきます」と伝え去った。


ギルドに戻るなんだか人だかりが出来ていた。

堅物ながらも上半身だけの鎧を纏ったエルフの集団が数名、他にも周辺住民やギルド職員がいる。

今度は何だとストレスを覚える俺を見たエルフが「あっ」と声を上げた。


「貴方ですね。ヘルコヴァーラの杖を購入された魔術師は。そちら、預からせて頂きます」


「はあ?(詐欺業者相手にだが)ちゃんと購入した杖なんですよ」


「ヘルコヴァーラは誤って魔法を使用した、もしくは魔力を流した場合、所有者の魔力を根こそぎ吸い上げる性質があります。通常は武器ではなく罪人用の枷や檻に使用する樹木なんですよ」


「はあ、無論存じ上げていますし。今も常に攻撃性ない『ホーリー』を流し続けているので問題ありませんが……?」


何を言ってるんだと話しかけたエルフが驚いた顔をするが、別のエルフの女が強めの口調で言う。


「あ、貴方が平気でも! もし、他の誰かが誤って使用したらどう責任を取るの!?」


「はあ? それって第三者が()()()俺の杖を使用した場合、ってことですよね。つまり、それって窃盗ですよね? それでヤバくなったって……自業自得じゃありません??」


「そ……れは、そう、だけど」


「今回、ヘルコヴァーラの武器に関する事件が起きたんですから国中にヘルコヴァーラがどういうものか周知されているでしょう。だったら尚更、俺の杖を盗んで使おうなんて馬鹿はいませんよ」


一応、ヘルコヴァーラを所有だけで罪にはならないし、武器にしても問題はない。

エルフ共は不安要素を排除したく、俺を食い止めてるんだろう。

……それよりコイツら。見かけない兵士、それとも騎士なんか、分からんエルフ集団だ。

ひょっとしてE王国の?

最後にもう一言、俺は肝心な指摘をした。


「エルフの皆様ならご存知かと思います。『杖の花』を咲かせた杖は魔力を辿って、所有者の元に向かってしまう性質があることを」


観念したエルフが溜息ついた。


「ですよね……しかし、無視してはおけません。……後日、また伺います」


仕方ない雰囲気で帰っていくエルフ集団。

後に他から聞いた話だが、やはりあいつらはE王国から派遣された連中らしく、例の詐欺商人を対処したのもあいつらなんだとか。


薄々勘付いていたが、やはりW国はE王国の植民地だ。

E王国の国風を変えたくないが、それでも他国との同盟を疎かにしては時代に、周囲に取り残される。

だからこそのW国だ。

W国を仲介して他国との交流と親交、貿易、情報収集を行っている。

W国は事実上、裏でE王国の支配下にある。



俺は近頃の日課となった夕食の準備と勉強会を終え、その後、自室でまず新たな術式を魔導書に描き込む作業を行う。

今やってるのは、使い魔の術式の一部を活用して完成した『訓練用魔導書』。

コイツで様々な訓練用のダミー(使い魔)をランダムで出現させる。ダンジョンランクで難易度も決定できるし、ダミー出現時間や速度などなど設定可能だ。

明日の勉強会でコイツを使おう。


あとは――縦に浮遊した不思議な状態で部屋の中央にいるヘルコヴァーラの杖。

浮いてる原理は……杖の花から微弱なホーリーを放出してバランス取ってるのか。

ちなみに今も攻撃性省いた『ホーリー』を魔法陣を通して杖に流し続けている俺だが、全然問題ない。A帝国だと、毎日これ以上の魔力を二十四時間流し続けたからな。苦じゃない。


にしても、杖は……どうするか。

心なしか形状が変化し、俺が握りやすく使いやすい形になってるのも、杖の成長って奴なのか?

杖とは縁がない状態が長かったので、どう活用するべきか悩む。


一先ず、今日は寝るか……


そして、久しぶりに俺は()()()を見た。


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