俺自身がホーリーになることだ
急行する。
とは言っても、普通の魔術師はちんたら走るのは遅い。空を飛んだりなど何等かの魔法を駆使するのが常識だ。俺の場合は『ホーリー』と速度上昇の補助魔法『クイック』を組み合わせた『ホーリークイック』を使う。
通常の『クイック』もそうだが、自身の属性と異なる補助魔法を受けると、肉体負荷がかかりやすい。
故に、光属性である俺は光速に等しい速度上昇魔法『ホーリークイック』による負荷をさほど受けない。
無論、周囲の邪魔にならないよう、箒に騎乗するような恰好で杖に座り握って、杖を『ファミリアー』で浮かせ上空へ。
そして、杖の花から『ホーリークイック』を発動。ジェット噴射のような飛行移動で山脈方面にあるCランクダンジョンへ向かう。
移動中も俺は準備を進める。
Cランクダンジョン用に考案した魔法陣を幾つか、ヘルコヴァーラの杖の花――俺自身の魔力で構成された魔石に術式を組み込んだ。
微妙だな……確かに術式がすぐ馴染んでくれるが、ミスリル製ほど多く・複雑な術式を記録させられそうにない。
あるいは、杖の花を工夫したら出来るようになるか?
杖に関する知識はあんまりだから、何とも分からない。
――っと。
そうこうしている内に、Cランクダンジョンの出入口が見えてきた。
山脈の中間に位置する出入口はまでの道のりは通りやすいよう舗装をされ、出入口周辺も開けている。
誰もいないのを遠目で確認した俺は『ホーリークイック』を付与した『ファミリアー』を先行させ、内部で『スキャン』を発動。光速マッピングを開始。
「よし、いた」
ダンジョン入り口からまだ1kmも進んでない場所にハインツらしき火の魔力を持つ人物を捕捉。
案の定、奴は多種多様なモンスターに取り囲まれている。
先行させた使い魔の『スキャン』情報によると、ハインツは深手を負っている。
やることが……とにかく、やることが多過ぎる!
俺は『ホーリークイック』の軌道を『ファミリアー』を操作しようとしたが、ヘルコヴァーラの杖の花が噴射の為に角度を修正してくれるじゃないか。
おっ、と思ってよくよく確かめたら、杖の花が先端以外の柄にも咲いて、そこから攻撃性を省いた『ホーリー』を噴射させ、杖を浮かせていた。
空気が読める杖なのか? まぁ、今はそれより――
ヘルコヴァーラの杖で急降下した俺は、そのままダンジョンに突入。
事前にヘルコヴァーラの杖の花に仕込んだ魔法陣を発動。
『ホーリーファミリアー』
『ホーリーカッター』
威力高めに調整した『ホーリーボール』
どれも『スキャン』と『ファミリアー』を組み合わせた追尾型の魔法になっている。
これを十数発一気に放出。
デカい魔法で攻めないのは、ハインツを考慮しての事だった。巻き込まれたら元も子もない。
続けて、ハインツに『ヒール』を施す使い魔を飛ばす。
偵察の使い魔の『スキャン』情報だと、随分と倒せていないモンスターがいるようだが、恐らく魔法が効きにくい・効かないモンスターだ。
この間、十三秒ほど。
ようやくハインツの顔を拝めた場所は、ダンジョンでいう広間でもない道なりの途中だった。
残っているのは、魔法攻撃がいまいちな相手『グラウドッグ』という漆黒の大型犬っぽいモンスター。
もう一種は『レクタースターチュ』という独特な光沢を放った銅像。コイツは魔法を無力化させる奴だ。
だが――
「オラァ!」
俺は『ホーリークイック』を纏って急接近しながら、そいつらをヘルコヴァーラの杖で殴り払った。
存分に魔力を吸収した物理攻撃は相当なのか、軽いヘルコヴァーラの杖を殴り振るうだけで、笑えるくらいに『レクタースターチュ』は壊れ、『グラウドッグ』は一瞬で塵になった。
そして、相手を翻弄させる為に俺は『ホーリークイック』で動きまくる。
正直、光速の世界に俺自身がついて行けてないんで、『スキャン』で敵の位置を確認しながら仕留める。
そんな戦法で、状況を攻略した。
場のモンスターを一掃出来たのもつかの間、奥から再びモンスターが雪崩れて来る。
ハインツの「冗談だろ…」と絶望ながらの呟きが聞こえる。
俺は最後の一発をヘルコヴァーラの杖を通して放つ。
「『ホーリートルネード』!」
かつてゴーレムを爆発四散させた『ホーリーカロン』の効力を竜巻状にした大技だ。
モンスターは消滅、勢いに流されたりと種類ごとに様々な状態となる。
一方通行の道なりだから通用する攻撃だな。これでしばらく、モンスターは来ないだろう。
俺はいよいよハインツの方を睨みつけた。




