はな が さいたよ
食事と会計をすませた俺が遠目から様子を伺う。
ミスリル製の武器から、純度の良い魔石まで。貴族も目が引く代物が確かにあった。
平民向けなのは――まぁまぁ、本当に普通のだな。どこの国にも売ってそうなのが高めに売られている。
俺の視線に気づいたのか、従業員の一人が話しかけて来た。
「お客様! ええーっと……何をお求めに?」
パッと見、質素な恰好から俺が平民なのは察したようだが、職業が分からなかったんだろう。
俺は答える。
「頑丈な杖はないかと思いまして。モンスターを叩き殺してたら折れてしまったので」
「は……はぁ?」
事実を述べたが従業員は、釈然としてない。
杖だから魔術師か治療師だとして、積極的にモンスターを殴るのか?と疑問を抱いたんだろうな。
その後、従業員が店主に耳打ちすると、店主が露店の奥から俺の身の丈くらいの杖を布に包まれた状態で引っ張り出し、従業員へ渡した。
従業員が、俺の手元に運んできた杖を布を解いて説明する。
「こちらです。頑丈でモンスターを叩いた程度、いえ! ゴーレム相手でも壊れる事ない杖です」
実際に持ったら片手でも平気なくらい軽い。
杖ってのは、所有者の魔力で成長させる武器だから大半は木製なんだが……こいつは金属みてーな銀の光沢に握り手から先端まで鋭い杖だ。
「この杖、何の木から作られたものですか?」
「ヘリコ……へ、ヘルコヴァーラ?だったかな……いえ! そうです!!」
「ヘルコヴァーラだと!?」
おいおい、マジかよ……こんな事ってあるか!?
もし『ヘルコヴァーラの杖があったら』って俺が思ってた矢先にコレかよ! 本物だろうな!?
……だが、何でヘルコヴァーラの杖なんか?
他に注目してみる。
ヘルコヴァーラの杖の加工が自棄に鋭く、雑と思ったが、どうやら強引に杖っぽい感じにしたらしい。
しかも、周囲の平民にも同じくヘルコヴァーラ素材の武器を購入していたのだ。
「なんだ!? その槍!」
「あそこの露店で売ってたんだよ! 軽いし丈夫な槍だぜ!!」
「剣も盾もあるらしいぞ!」
「スゲ~! でも高いんだろ?」
「それが銀貨五枚だ! どの武器種でも銀貨五枚だってさ!!」
……なるほど?
俺のリアクションにオドオドしている従業員が「あの…」と尋ねて来たので、俺は告げる。
「大丈夫です。本物のヘルコヴァーラの杖でしたら無茶苦茶欲しいです。銀貨五枚なんかポンと出せるくらいに」
「え、え……?」
「自分、特殊なんでヘルコヴァーラの性質と相性がいいんですよ。本物かどうか確認の為に『スキャン』させて貰いますね」
「あ、ちょ!」
ヘルコヴァーラの杖:E
物理攻撃:50 耐久度:100 魔法攻撃:10
素材:ヘルコヴァーラ(樹齢三年)
効果:魔力を吸収する事で物理攻撃力上昇、耐久度上昇
あー……成程。……だから武器のランクも低い訳だ。
……まぁ、問題ないな。これで銀貨五枚だぜ?
確かヘルコヴァーラに関する国際法とかは――うん。ない。あってもいいのに、ないんだよな。よし。
従業員が店主に訴えようと動く前に、俺が従業員の手に銀貨五枚を握りしめさせた。
相手は目を丸くさせている横で、俺は早速魔力を流してみた。
ヘルコヴァーラ。
性質上、犯罪者の枷や檻に使用される事が多い魔力封じの木だ。
とにかく頑丈で、加工にも一苦労する代物。だから、武器販売の詐欺連中はまだ切れやすく、加工しやすい若い木で適当に武器を作って、軽くて頑丈とか売り文句つけて平民から銀貨を騙し取ってるんだろうな。
そもそも何故ヘルコヴァーラがそんなに魔力吸収するか?
ソイツは、魔力を吸い上げる管が多いからだ。
だったら――魔力の浸透力が強ければ?
光は魔法属性の中で最速を誇る。そして、俺の『ホーリー』の威力がクソデカ。……もう分かるよな?
低燃費で『ホーリー』発動の魔力を常にヘルコヴァーラの杖に流し続けるだけで!
物理でも魔法でも攻撃で圧倒できる!!
「って、なんだ!?」
『ホーリー』を流したヘルコヴァーラの杖が派手に光放ったかと思えば、パン!と避けるような音と共に光の粒子が飛び散る。
おいおい! ヘルコヴァーラでも俺の『ホーリー』が耐えられなかったのか!? これでも多少威力低めで流してたんだが――
そしたら、杖の先端がシャンデリアのような魔石の花が咲いていた。




