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一方、A帝国では(3)


既に散々な報道がなされたA帝国の冒険者ギルド。

そこの酒場では、Aランクの冒険者が真昼間に酒を仰いで怒声を上げていた。


「糞! サポーターの奴らがいなかったから、こうなっただけだってのに!! なんなんだ!」


彼らも愚かではなかった。

降格された元Aランクの勇者の少女同様、ダンジョン調査を行い、回収したアイテムはサポーターが一任する事で自分達は荷物が邪魔にならず、楽に戦える事くらい。

捉え方は捻くれているが、間違いではなかった。


国を囲う巨大な『壁』の建築素材の要たるキングゴーレムの岩片の回収。

それが叶うどころか最悪な事に『モンスターの大量発生(スタンピード)』が発生したのだ。よりにもよってSランクダンジョンで、だ。

何故か、上手い連携にならず。Aランクの冒険者らは追い詰められ――最終的に撤退を余儀なくされたのだ。中には今でも世迷い言を繰り返す冒険者もいる。


「いくらサポーターがいなくなったからって……何かが変だった。俺達はいつも通り戦ってた……過剰なバフかけてるサポーターが消えて、感覚が狂った訳でもない……何でなんだ……」


取り合えず、彼らは今回のクエスト失敗をサポーター不在が原因としている。

が、それを上層に訴えていない。

否、訴えることができないのだった。

最早、ギルドは国の管轄。簡単に訴えを起こせる相手ではないし、実際にサポーター不在を訴えた冒険者が降格された噂も知る彼らは、どうすることもできなかった。


件の勇者の少女を馬鹿にした冒険者は、何人もいたが。

この状況では、誰一人彼女を責めるどころか。彼女のようになるまいと緊張感を抱いている。

Aランクだろうが国の不服を買えば、降格されてしまうのだと。





()()()()調()()()()()()()


これが全て狙った展開とは、誰も想像していまい。

あのジョサイアすら想定外だろう。


A帝国の中央に位置する城。

そこで上層部の人間。

A帝国の王と王妃。その二人の間に生まれた娘『アナトリア』という金髪の美少女。

そして、絢爛豪華な城内では浮いた研究者の恰好をした男性が、ツラツラと喋り語る。


「当初、いかなる魔法系統の人間も使用できるよう魔道具の人工回路を施していましたが……現在、使用者の魔法系統に合わせた魔道具を再度配布。その有効性が広まりつつあります」


簡単に言うと、火魔法を使う人間には火魔法専用の魔道具を使用するだけなら、運用に問題ない。

魔道具暴発の最大の原因は様々な人間が、様々な魔力を流し込み、その処理が追い付かず……という原理だった。

最初は失敗をし、次に単純な作りを広める。

その次は、冒険者たちのサポートに魔道具を使用するというもの。


「モンスターの特性を生かし、安全な先行マッピングを行う魔道具。運搬用の魔道具。これらは既に実装・運用済みです。これらは人々にも認知されつつあります」


ノルマのゴーレムの岩片回収に多くの冒険者たちが、嫌々に運搬用の魔道具を使用している。その光景を見て、魔道具が便利であると認知しつつある国民はどう思うだろうか。

白髪白髭の王が「成程」と頷く。


「例の『モンスターの大量発生(スタンピード)』に向けた()()()()の開発はどうなっておる」


「はっ。ほぼ完成間近。疲弊しきったB共和国の彼奴らに見せつけて差し上げましょう」


王の傍らにいた王妃が、扇で口元を隠しながらも微笑しているであろう声色で言う。


()()()()()()()()()()()()()『冒険者』。彼らを撲滅する日も近いでしょう」


そう、彼らの目的は()()()()()()

冒険者こそ最大の無駄だと見做しているのだ。

ダンジョンは全て魔道具で安全に対処し、冒険者として自由気ままになってる連中を他の労働や国の騎士団に取り込めればいいと。


一人。アナトリアだけがポツリと言う。


「あの……下級層で謎の疫病が蔓延していると聞いたのですが」


即座に他の上層が答えた。


「ご安心を。上層の浄化処理は万全でございます。疫病自体も被害は抑えられているとのこと。何も問題はございませぬ」


「そう、ですか……」





A帝国を出国した赤髪ツインテールの少女は、いつぞやの勇者の少女だった。

表情筋が微動だにせず、冷静そうな彼女も装備などを売って捻出した大量の金貨という出国金を差し出した後。背後のA帝国の重い扉が閉まる音に溜息をつく。


上空にはどんよりとした黒く厚い雲が広がっているが、あれは気候の類ではなくモンスターの毒素が上空の風の魔素と混じり合って発生する『毒雨』の予兆だ。


「最悪」


それが少女が漸く発した言葉だった。


()()がいなくなった事にすら気づかないなんて……馬鹿な人達」


少女の言う『先輩』はあれこれ一言付け加えたり、さり気ないサポートを即座に行っていた……この異世界では変わり者で浮いていた冒険者。

ダンジョンでアレコレ一々指摘していた『先輩』の姿勢は他の冒険者たちには癪に障るらしく「光属性の癖して一言多くて、嫌味ったらしい」と陰口が多かった。


そんな中、少女は珍しく信頼していた。

彼女は『先輩』に助けて貰った恩があるのだが、それを話したら向こうは覚えてない様子だった。

それでも少女は『先輩』の後を追いかけるべく出国した。

噂や諸々の情報から推測すると、彼は相当前に出国手続きを済ませてしまっていたらしい。


「出国した事も、する事も言わないなんて……はぁ」


先輩らしいけど。

そうぼやきながらA帝国から出た少女は、ふと妙な運搬魔道具が走っているのに気づく。

大量の廃棄状態の魔道具を乗せて、E王国方面へ向かっていた。


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