何が出来ないかより何が出来るかを自分で語れよ!
ダンジョン内での顛末は以下の通りだ。
ダンジョン内は基本的に薄暗い。土系統のダンジョンだと特にそうだ。
自棄に威力ある『ホーリー』を明かり代わりにすると、ビックリするくらいに視野が広がる。
こうすればダンジョン初心者のゼムやポートでも一安心な訳である。
先頭のゼムは久方ぶりの戦闘に、動きがぎこちなかったが、後方から俺とランディーがサポートする事で余裕を持って戦え、感覚を取り戻しつつあるようだ。
ダンジョン内部を進むと開けた場所に出た。
念の為『スキャン』でトラップがないのを確認した俺は、ここで休憩を取ろうと考えた。
休憩以外にも、目的はある。
『シールド』でモンスターが侵入しないよう仕込んだ後、ゼムは思い切り座り込んだ。
俺が提案してもないのに「こ、ここで休もうぜ」と自ら進言する。
殿からついてきたポートも一息つく。
二人の様子を見て、俺は自前のポーションを渡しながら「そうしましょう」と言った。
だが、俺は休むつもりはない。
明かり代わりに使っていた『ホーリー』の球体で周囲を照らし、壁面や周囲の岩盤を見て「やはり」と確信する。
そしたら、ランディーが突然肩組んでくる。
「おっさん。どーせ、何かやるつもりなんだろ? 俺もホラ、色々持ってきたんだよ」
ランディーが用意した荷物の中からは出て来るのは、ナイフやボール、フラフープなど一見遊び道具だが、それらには簡易的な魔法陣が仕込まれている。
俺が以前、カードに施したのと同じ原理で……まあ色々やれるが。
結構、ランディーがやる気なのが意外であった。
そうだな……この中ならフラフープの魔法陣をこう書き変えるようランディーに頼む。
二つのフラフープに囲われた岩の一つが、風の魔力で浮かび上がる。
風圧ではなく、電磁浮遊に近い現象だ。
重い鉱石類を楽々に運べる隠れた便利能力って奴だな。A帝国だと常識的だが、案外他の国には広まってない。
関心しながらもランディーは不満そうに尋ねる。
「でもこの岩、運んでどーすんの? おっさん」
「パッと見、普通の岩に見えますがこれは『エドラル鉱石』です。表面に光を当てるとホラ、深緑色っぽくなりますでしょう?」
理解したランディーは興奮気味になる。
「マジ? これ風の宝石??」
「他にも鉱石がありそうな壁面や岩盤があるので、そこを『ホーリー』で削って回収していこうかと」
「ひょっとして色っぽい部分、全部そうなのかよ? 取り放題じゃん!」
貴族連中が出入りしないのもそうだが、鉱石を知っていてもソレの知識が皆無だから、取り逃したんだろうな。
そう思えるほど、開けたここには鉱石がある。
俺はポートに呼び掛けた。
「ここに転移陣を展開してくれ。一気に運んだ方が楽なのは分かってるから、どの程度運べるか教えろ」
「は、はい! ええっと幅はこのくらいで、高さは……あっ、そこの鉱石ぐらいまです!」
配達員。
聞こえはパッとしないが、なかなかチートな職業だ。
マーキングした場所へ一瞬にして物を転移する事が出来る。
あくまで『物』だけに限り、生きている生命を転移する事はできない――が、それでも非常事態に物を即座に移動させられるだけ優秀である。
とは言え、半人前の配達員だと転移できる量と回数がさほどではない。
距離だってそうだ。
今回のDランクダンジョンも、ポートの事を考慮してギルドに近いダンジョンを選んだ。
俺が『ホーリー』と『クリーンウォーター』を組み合わせたウォーターカッターで『スキャン』で解析した岩盤や壁面を削り、ポートが一度に転移できる分だけ鉱石を積み上げる。
削って露わになれば煌びやかな鉱石の山に、ゼムは感嘆の溜息を漏らしていた。
意を決してポートが転移を発動する。
「い、いきます!」
一瞬にして鉱石は消え去った。
よし、次だ次。
俺は転移の成功に安堵しているポートやゼム達に呼び掛ける。
「次はゴーレムを探しましょう。ここに来たのはゴーレムの素材と経験値……練度の為ですので」
しかし、剣士のゼムは戸惑う。
「俺は……なんだ。ゴーレム相手じゃ剣なんて役に立てないぞ」
「大丈夫です。俺がゴーレムの表面の岩盤を流し落とすので、ゼムさんはゴーレムの本体を狙ってください。あ、意外と素早いので油断しないでください」
「……へ?」




