お、丁度いい位の経験値稼ぎ場があるじゃねえか
「おい、来るのが遅いぞ」
「すみません」
まず俺がやってきたのは『どぶさらい』、側溝とか下水道の清掃業の現場だ。
全うな浄化処理もない世界だと、ここに糞だの汚水だのを垂れ流し、よく詰まるし、放っておくと病気の原因になり兼ねない類だ。
広い用水路には、ゴミも捨てられ、とくに呪いを帯びた武器などが多い。
つまり、最高の経験値稼ぎ場だ。
防御魔法『シールド』を箱型にしたもので武器を保護し、中で『ディスペル』と『クリーンウォーター』による浄化洗浄を行い、それを光の使い魔『ファミリアー』で運ばせる。
上記の処理を組み込んだ魔法陣をポンポン展開。
ヘドロ化した汚染泥は『クリーンウォーター』に加速魔法『クイック』を組み合わせたウォータージェットで流していく。
回収したゴミ、とくに価値ある金品や武器などは社員が好き勝手使ったり、売ったりしているようだ。
国に回収される訳ではないらしい。
ガバガバというか。こういう貧民層の職場には管理の目が行き届いていないようだ。
俺のおかげで金には困らなくなったらしいが、俺に報酬は一切はない。
俺は、ここの社員たちの仕事を経験値稼ぎとして奪っているんだ。金を貰う筋合いはないだろう。金の代わりに経験値を貰っている。
が、これでも経験値が溜まらない!
俺は社長に申し出た。
「すみません。失礼を承知でお願いがあります」
「んぁ? なんだ。ここが嫌になったから退職したいってかぁ??」
昼間っから酒を飲んでる社長に、俺は頭を下げた。
「今日まで一日の清掃範囲を地区ごとに行っておりましたが、更にもう一つ……出来れば一日三地区清掃範囲を広くさせて下さい!」
「あ? え、えええ?」
「……すみません。一日二地区でいいです。三地区は贅沢を言い過ぎました」
「きっ、聞き間違いかな。もっと働きたいって聞こえたような……」
「そういう事になります。分かっています。本来社員がやるべき仕事を奪っているにもかかわらず、更に奪うような真似。到底、頷いて貰えるとは思っていません。しかし、このままでは『ホーリー』を収得するまでに冒険者をクビになってしまう。時間がないんです!」
「えーえーと。なんで『ホーリー』?」
「覚えておりませんか? 私はここの社員ではありません。光魔法の経験値稼ぎでこちらで清掃させて頂き、皆様の仕事を奪っているのです」
「そうだったの? そうだったかな??」
「とにかく、清掃範囲をもう一地区増やして頂けませんか!」
「ま、まあ。好きにしたら……」
「ありがとうございます!」
☆
次は建設現場だ。
帝都の周囲を強固な壁で取り囲む計画が進んでいる。
貧民層が過酷な労働現場にひいひい悲鳴をあげ、監視役の騎士の怒声が響き渡った。
俺はここで『シールド』と『ファミリアー』を組み合わせた運搬用のトロッコとゴンドラを二十台、貸し出している。
俺が申し出る前に、現場監督が先に話を挙げてくれた。
「これじゃあ数が足りねぇなぁ。もうちぃっと増やしてくれよ」
ニヤニヤ笑み浮かべながら言ってくるものだから、嫌がらせのつもりなんだろう。
俺にとっては好都合だ。
増やしていいと言うなら、気軽に増やせる。
「え? 増やしていいんですか! でしたら五十台追加してもよろしいでしょうか」
「ご、ごじゅ!?」
「……あ、駄目ですね。 一気に五十台も追加したら、かえって現場が混乱してしまいます。一先ず、二十台追加で様子見ということで」
「お……おう。そうかい。……あー、ちなみに何台まで追加できるんだ?」
「百台は余裕かと」
監督は黙ってしまった。
☆
光魔法と言えば治癒。
つまり、病院は経験値稼ぎができる。
俺は職業が『魔術師』だからか、普通の治癒などは『治療師』に劣る。
が、魔法陣により効力を高め、更に修復魔法『リペア』を組み合わせれば欠損した部位まで完全回復できちまう。
やっぱり、ファンタジーの世界だな。ここは。
誰もが想像する通り、貧民層では満足な治療を受けられない連中で溢れかえっていて、俺はそいつら相手に経験値稼ぎをしていたんだが……
「おい。誰か運ばれてきてないのか」
職員に聞くが、向こうは困惑気味で首を横に振る。
「い、いませんよ。貴方のお陰で、薬も十分確保できました。あとは我々だけで対処できます」
「チッ……じゃあ他の病院は? 中級、富裕層以外で動けない奴は腐るほどいんだろ。戦場で部位欠損した奴も残ってる筈だ」
「いませんってば! 貴方が治してしまったのですから」
「クッソ! 古い建物は? まだ残ってる筈だろ!」
「ありませんってば! ご心配なさらないでください!! 貴方のお陰でこの辺りの衛生も改善され、景観も良くなりました。無償でここまでなさると、国から感謝状など貰えるのではと皆、噂してますよ」
ここも品切れか……ジリ貧だな。