ね、言った通りでしょ?
「……という訳でして。騎士団から治療をやって欲しいと、ご指名が来ました」
ほらな?
いや、自慢じゃねーよ。勘弁してくれ。
俺が次のクエスト受注をしにギルドへ戻った矢先にこれだ。
受付嬢は「報酬も高いですよ!」「国からのご指名を受けるなんて滅多な事ではありません!」なんて通販番組のMCみたいな宣伝煽りをしてくるが、これも似たような内容を以前、聞いた事ある。
俺は念の為に断る。
「申し訳ございませんが、治療は無理です」
「え!? な、何をおっしゃっているんですか! ジョサイアさんは光属性ですよね?」
「……俺のステータス。もう一度、提示しましょうか。ジョブのところに何と書いてあるか、読んで貰っても?」
「ま、魔術師。です」
「そうです。私は治療師ではありません。ですから、どんなに努力しようが、工夫しようが、彼らの治癒を上回る事は不可能です。まだ別属性の治療師に依頼した方がマシです」
ぶっちゃけて、これは事実だ。
俺は魔法陣で最善の回復ができるように調整できるが、普通に治療師の回復の方が質はいいし、コストも省かれる。
だが、これでも職員は引き下がらなかった。
「でも『光属性』なんですから! 他の属性の回復術より優秀な筈です!!」
はぁ……これだ。『光属性』だから。属性だけの固執したイメージにはうんざりだ。
一体どうしてそうなるのか。何の為のジョブだ。
俺は頭を抱えつつ、仕方なく受注することにしたが、受付嬢に宣言する。
「恐らく、向こうは治療師が来るのを望んでいる筈です。俺が訪問したところでほぼほぼ、99%の確率で追いはられる事でしょう」
「何もそこまで過小評価されなくても……」
「今回のクエストで俺が厄介払いされたら、二度と医療関連のクエストを指名しないようにして下さい。依頼者にも迷惑がかかりますので」
「はぁ……」
☆
そして、翌日。
「治療師じゃないだと! ふざけるな!! こっちは光属性だからと聞いて期待していたのに……!」
ほらな?(二回目)
案の定、くどくどクレームという説教を聞かされ、俺は依頼先の騎士団宿舎から追い出される。
あれだけ強気だった受付嬢も、憂鬱な表情で渋々「こちらのクエストをお願いします」と雑用クエストを俺に押し付けた。
報酬は昨日食った庶民的な料理を一食堪能できる程度だ。
これじゃあ、ギルドを辞めた方が稼げる訳で……昨日、聞き込みをした通りの話になる。
雑用クエストの唯一良いところは、危険の一切もない本当の意味での雑用な為、ソロで受注できる事。
しかし……こんな糞ギルドに俺は居座るつもりでいた。
理由はいくつかある。
一つは食。
他の平民冒険者から話を聞くと、食事――もとい食材は、平民ギルドの冒険者たちの人数に見合った量が、朝と夜の二食分を用意される。
酒などの嗜好品は、自前で買って楽しんでいると彼らは言う。
贅沢な食事はできない分、二食分の食費が浮くのは大分強い。
もう一つは住。
ギルドの宿舎は個室で、ボロいとはいえ風呂つき。俺の場合、防犯対策に『シールド』を張れるから問題なし。
もう一つは功績。
腐っても正式なギルド。功績を一応は記録してくれている。
ギルドカードは、俺の元居た世界でいうICカード的な仕組みになっていて、魔水晶のような記録装置にかざすと情報が色々読み取れ、記録も可能。
無論、ギルドの功績も。
……不正なやり方で情報を書き換える手段もあるが、少なくともここのギルドで俺のギルドカードに不正を行われた形跡はないし、魔水晶にも異常が無いと『スキャン』で解明済みだ。
だからと言って、慢心はしない。
後述のこともあって、直ぐに国から動けない以上、一応の功績を残しておかないと、別のギルドに所属する際、冒険者のブランクがあったと見做され、再試験をやらされるだろうからな。
最後に……情勢だ。
ギルド内の掲示板に貼られた新聞で、俄かに信じ難い記事が一面を飾っていた。
『A帝国の冒険者ギルド、まさかのクエスト失敗!?』
『Sランクダンジョンのスタンピードが発生! C公国に甚大な被害』
『原因はA帝国の新改革?』
一体どうしたらダンジョン調査が失敗するんだ?
よっぽど酷い指揮でもしない限り、あの冒険者ギルドの面々で失敗なんてありえないんだが……
まさか、ダンジョン事情を知らない国の責任者が適当な指揮を執ったとか……
いや、本当の本当にまさかな。
とにもかくにも、この一大ニュースは周辺国にも影響が及ぶ。
A帝国が対処できなかったモンスターの大量発生をB共和国が中心となって対処すると記事にある。
まあ、A帝国の次に練度がある冒険者が集うのはB共和国だからな。
しかし、このクエスト失敗が政治情勢に当然、直結していく訳で……尚更、呑気に出国なんかできない。
ちなみに。
ギルドを辞めた場合、衣食住はどうするんだと思うだろう。そこは国の移住サポートで仮住まいを確保できる。
ただ、そこは俺の元居た世界で『シェアハウス』と呼ばれる形式。
……嫌な予感しかないよな?
ああ、そうだ。
報酬の少なさは問題ない。
ぶっちゃけると、A帝国の報酬の方が酷かった。あそこより多い。
また節約生活をするハメになるが、それでも硬いパンを齧る生活よりは快適だった。