180秒で支度しな!!!
久方ぶりにベッドで体を休めた俺は、朝五時頃に起床。
昨日、手短に準備した罠が完成しているか確認。
魔法陣の上に『シールド』で作製された小さな檻籠が完成していた。
ここにまず一匹、モンスターの死骸をぶち込む。
狙いがしびれフォックスだから、同類の死骸をぶち込めればより効率的になる。
が、別に他の魔物でも問題ない。
ホーンラビットやゴブリンの肉片でも構わない。なるべく新鮮な死骸で死臭が漂う方がオススメだ。
それで適当な場所に設置。これだけでいい。
これはモンスターの習性を利用した罠だ。
モンスターは自身と異なる生物……モンスターに該当しない家畜から人間まで襲うのだが。
もう一つの習性は、自身に敵意があるものに攻撃する事。
こんな風に死んだ同類が檻に閉じ込められていると、檻が同類を殺した=敵と判断し、檻を攻撃しだす。
自分も檻に殺されるかもしれないからな。
んで、この檻だが……モンスターからの攻撃を受けると、受けた方向へ『ホーリーボール』が放たれる仕組みだ。
そこのところの術式を『シールド檻籠』に組み込んだ。
注いだ魔力も十分ある。
俺の『ホーリー』そのものに威力あるから、少ないコストで結構な数が狩れるだろう。
これは帝国式の戦術の一つだ。
無論。光魔法のやり方以外でも、様々なやり方で似たような罠を作製できる。
ただし、これが通用するのは知能が低いモンスターだけだ。
これを一先ず、十個設置するつもりだ。
クエストで向かう『渓谷』の地形を見る限り、正直な話、十個では到底足りないんだが。
色々と様子見しておきたい。
現地の環境以外にも、W国のギルドでのやり方ってのがあるかもしれない。
俺が部屋を出てみたが、まだ外は日が昇っていないから薄暗い。
他の起床している冒険者の気配もない。
適当に食事でも食べるかと思って、宿舎内にあった台所へ向かってみると。
確か、受付嬢をしていた筈のギルド職員がこそこそと何かやっている。
向こうは幽霊でも見たかのようなオーバーリアクションをした。
「ひゃあっ!? お……おはようございます……?」
「おはようございます。すみません、適当にお湯沸かそうと思って来たんですが……使っても?」
「え? は、はあ」
光魔法の俺がどうやって湯を沸かすのか分からないのか、変な相槌をされた。
火の魔石を使う。
こいつを火の魔法陣の上に置くだけで、魔石が活性化。熱を発生させる。
火がつくほどではないが、物を温めるにはちょうどいい。
俺が薬草スープを完成させている隣で職員が作業しているのは、食材を並べる事だけ。
作り始めるかと思いきや「あの、私はこれで」と立ち去ろうとした。
こっちの食事は冒険者たちに作らせるのか。
どうやら、向こうのバイキングの調理で手一杯らしいな。
俺は職員を呼び止める。
「すみません。昨日、聞くのを忘れてしまったんですが……」
「えっ。え? え、あ、はい」
挙動不審な驚き方をする職員を無視して、俺は尋ねる。
「これから今日のクエストの為に罠をしかけようと思いまして」
「罠……? えっと、なんの??」
「何のって、モンスターに対する罠ですよ。罠を仕掛けるのは――」
「いやいや~。罠なんかでモンスターは倒せませんよ?」
俺は舌打ちしたいのを堪えながら言う。
「私が尋ねたかったのは、一ギルド職員としてのご意見ではなく、罠をしかけるのは禁止されているか。されていないのか。それだけです。いいんですか? 駄目なんですか??」
「うぇえぇっ……ええ、え? 罠がいいかとか、そもそも罠使う人なんて……」
「事前に渡された資料には罠に関する禁止事項がなかったので、問題ないという事で間違いありませんか? あとから駄目でしたと言われても困ります」
「だっ、だだだ、大丈夫!です!! その、ギルドとしては一刻も早いモンスターの討伐に繋がるならば、いいんじゃないかと……」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は一日の栄養素を取れる薬草をぶち込んだスープを一気に飲み干して、そそくさと宿舎を出ていった。