二風谷の妖精ミルキーの物語
1二風谷の妖精ミルキー
シリパの会のメメの後をつけてきた二風谷を追われて人間界に現われた妖精ミルキー。
シリパの会に紹介されたミルキーが視たものとは?
2三つの石
シリパの会の黒い石を視たミルキーが、自分の持っている赤い石を取り出した。
ミルキーはその石にまつわる事で人間界に来たと話した。
3ギジムナー
シリパの会で知り合ったサキとミルキーが石を捜しに沖縄の伊江島にとんだ。
そこに探していた石がそこにあった。それを持ちだした理由が語られた。
4三つの黒石
サキはミルキーを京子に紹介した。石の共振に京子は興味を持った。
動物の習性に詳しいミルキーが京子にレクチャーをはじめる。
5動 物
ミルキーは京子の要請に従って動物園に行くことになった。
ミルキーの目にした動物園の動物たちの意識とは?
6リョウゼン
シリパの会にリョウゼンくんが入会してきた。彼はサバン症候群で見たものは絵に
克明に描けるという才能があった。京子の提案で200年前の京都の街を探索した。
7同窓会
京子は高校の同窓会の幹事を頼まれた。当日会場には死んだはずの同級生の
姿があった。京子とケンタはどうしたものかと思案にくれる。
8ミルキーの別れ
ミルキーはシリパの会に来て1年が過ぎ二風谷に戻る時が来た。これからは北海道の
浄めの旅に出るという。シリパの会に妖精のことで相談者が来た。
9旅立ち
ケンタと京子は余市に帰郷したがその途中の海上に巨大なUFOを発見した。
そのUFOとコンタクトを取った2人は重要な任務を任された。札幌に戻って
2人が取った行動とはシリパの会の脱会だった。
10ふたつの石
旭山公園に来てケンタは狸小路というインスピレーションが浮かんだ。
その日の夜狸小路を歩いていた京子が突然意識が遠のいて月に飛んでしまった。
ふたつの石を捜せと言う指示が入あり、石を捜すことになった。
11テロ工作
ミルキーが突然やってきてケンタと京子に、神威岬の妖精の長が人間界は
自然を破壊して好きかってやってきた、よって人間世界に制裁を加えようと企んでいた。
それを知ったケンタと京子とシリパの会が立ち上がった。
12時空の旅
一段落した2人は地球の近未来を見せることにして、事の重大さを1人でも多くに
知らしめたいと思い画期的な方法を企てた。
13狸小路
リョウゼンが書いた絵をもってやってきた。それはストーリー性のある未来社会を描いた絵だった。シリパの会に顔を出してないことを察知した京子が取った行動とは。
【続・不思議な黒石(妖精ミルキー)】
一「二風谷の妖精ミルキー」
シリパの会は来客の出入りが多く、慌ただしい一日となりメメは夕食を外で済ませ、夜十時の帰宅となった。 部屋のドアを開けた瞬間、ちょっとした異変に気付いた。 数日前から部屋がスズランの香りがほのかに香る? スズラン系の香料を含んだ物は無いはずと思っていた。 原因がわからないが気にするほどの事でもないし、スズランの香りは嫌いではなかったので原因を追及せずにいた。
遅めの風呂と洗濯となったが、ひととおり済ませベットに入ったのは十二時を過ぎていた。
メメ至福の瞬間である。 そのまま寝入った刹那! スズランの香り…… 今までより強く感じた。 辺りを見回した次の瞬間ゴミ籠の裏に隠れたなにか黒い影を発見した。
メメは思わず「なに?」そして恐る恐るゴミ籠の裏を確認した。
そこには二十センチほどの小さな人影。 お互い眼と眼が合った。
内心驚いたが平静を装ったメメが優しく聞いた。
「今晩は私はメメ。 あなたはどなたですか?」
仕事がら異空間の存在とのコンタクトはお手のものだった。
「私に名前はありません。 日高はニ風谷の山からこの街に来たダニ」
「どうしてこの家に来たの?」
「花屋さんで遊んでいたら、あなたが店の前を通りかかったダニ。 なんだか分かんないけどあなたと話をしてみたくなり、後をついて来てしまった…… ダニ」
「なん日も前からここに居るでしょ?」
「そうダニ。 いつ気が付いてくれるか待ってたダニ」
「それで最近この部屋は花の香りがしたのね。 これはあなたの香りだったの?」
「臭くてすみませんダニ」
「あっ、謝らなくていいの。この香りわたし好きよ。 それよりあなたに名前付けない?名無しさんだと話しにくいし、好きな名前なにかある?」
「ミルキー…… ダニ」
「ミルキーさんか…… 可愛いね、なにか意味あるの?」
「前に世話になってた家の人が付けてくれたダニ。 それがいいダニ」
「そっか、じゃあミルキーさんね、よろしく。 ところでミルキーさんは年齢幾つぐらいなの?」
「ミルキーに歳はないダニ」
「そっか、ゴメンねついこの世界の癖なのよ。 で、なんでニ風谷からこの札幌に来たの?」
「仲間はみんな植物の世話してるけど、私は違う事やってみたいって長老にそう言ったダニ。 そしたら長老さんが我々部族は昔からそう決まってるってわたしを怒ったダニ。
皆と同じことが出来ないなら村から出て行くように命令されたダニ。 それで出て来てしまったダニよ」
ミルキーの目は半分涙ぐんでいた。
「で、ミルキーさんは何をやってみたかったの?」
「ないダニ」
「え……?」
「違う世界を見た事があまりないから、なにをやりたいか解らないダニ」
「なるほどね。 じゃあ、やりたいことが見つかるまで私の部屋に居てもいいわよ。 ゆっくりやりたいことを探してちょうだい。 ず~っとここにいていいわよ」
「メメさんありがとう……ダニ」
「今日は遅いからまた明日話そうね。 わたし眠いから寝ます。 お休みミルキーさん」
「メメさん、ひとついいダニか?」
「はいどうぞ」
「ミルキーは寝ないダニ」
「どうして?」
「生まれてから一度も寝た事ないダニ」
「そっか、私たちのこの世界は身体があるから休めないと壊れちゃうのよ。 だから八時間ぐらいは身体を休めるのね。 それを寝るっていうの。 お休みなさい」メメは即寝に入った。
翌朝六時にメメは起床した。
「ミルキーさんおはよう」
「メメさん。 どーもダニ」
「朝までなにやってたの?」
「そこの公園で花の手入れしてたダニ。 サルビアの蜜がいっぱいあったから、ついでに持ってきたダニ。 人間はサルビアの蜜好きダニか?」
「あ、ありがとう。 ミルキーさんうれしいです」
「ミルキーでいいダニ」
「はい、ミルキー。 私もメメでいいダニ」
「ダニダニ」ミルキーはこの家に来て初めて笑った。
「今日は仕事に行くから適当にやってていいよ。 帰りは夜の七時頃になるけど」
「仕事は何?」
「う~ん、説明できないよ…… そうだ私について来る?」
「行くダニ」二人はシリパの会に向かった。
「おはようございます」メメがケンタに挨拶をした。
「メメちゃん今日は目が光ってるね。 何かいいことあった? れれ?メメちゃん、また可愛いお友達肩に乗せてどうしたの……?」
メメは笑顔でケンタの側に寄ってきた。
ケンタが「おやっこれは妖精さんだね。 珍しいお客様で」
メメが「こちら日高の二風谷から来たミルキーさん。 年齢不詳、性別は無いらしいけど見た感じ女の子の意識が強いみたい」
「こちらは私のボスでケンタさんです」
「ミルキーさんよろしく」
「ケンタさん。 よろしくお願いしますダニ」
「あはは、可愛いね。ゆっくり遊んでいって下さいね」
ケンタが続けた「ミルキーさんは食事とかどうしてるの?」
単純な質問である。
「私たちは花や木のエナジーを頂くダニ」
「なるほど」
メメが「色々な経験がしたくて街に出て来たらしいのね。 それで私がたまたま花屋の前を通りかかったら、私に目が止り興味を持ったみたいで、家までついて来たらしいの」
「それは、それは。メメちゃんのどんな所に興味持ったのかな?」
「メメのオーラがみんなと違ったダニ。 それで確かめたくなった」
「そうですか。納得いきました。 シリパの会へようこそ」
会員のアヤミさんが入ってきた。
「おはようございます」
アヤミは全く気付いてないようだった。
ケンタとメメは目を合わせた。
メメは心の中で「人によっては見えないのね」
ケンタが「アヤミさんこの石を手に持ってメメさんの机の上を見てくれるかい」そう言って石をアヤミに渡した。
アヤミはいわれたとおりメメの机に目をやった。
「えっ、これは」メメがにこやかな顔で頷いた
「こんにちわ」
「こんにちわ、私ミルキー。 二風谷から来てメメさんの家で昨日からお世話になってるダニ」
「私はアヤミです札幌生れです。 よろしくダニ」
ミルキーは喜んだ。
「メメさんこの子どうしたんですか?」
「今もケンタさんに話してたの。 花屋の前を通りかかったら私が目に止まったらしく興味を持ったみたいでついて来の」
アヤミが「おもしろい」
その時、ミルキーがアヤミの手にある黒い石を見て叫んだ。
「あっ! それ! その石どうしたダニ?」
「これ?」
アヤミはケンタの顔を見た。
「なんでこの石に興味があるの?」とケンタが聞いた。
自分のポケットから同じ形の赤い石を取り出した。
二「三つの石」
アヤミの持っていた黒い石を見たミルキーは、自分の持っている赤い石をポケットから取り出した。
「これは私たちの世界で先祖代々受け継がれた石ダニ。この赤い石はメノコの赤石というダニ。 他にオッカイの青石とカムイの紫石の三つの石があるダニよ。 そのうちの一つがこのメノコの赤石ダニ」
アヤミが「あなた達の仲間もみんな持ってるの?」
「違う。赤石と青石はカムイの使い、シャーマンが持つダニ。 紫はその上の神官が持つ。その三つダニ」
メメが「なんでミルキーはアヤミさんのこの黒い石に反応したの?」
「石から出てる波動がとっても似てたから驚いたダニ」
今度はメメが「こちらの黒い石は特殊な力があるのね。 手に握ると思いが叶うの、叶うといっても私達の次元から他の次元に移動する力限定なのね。 それと今アヤミちゃんはこの石を握ってるからあなたが視えるのよ。 普通はあなたの姿は視えないのよ」
「でもメメちゃんやケンタさんは視えてたダニよ」
「この二人は無くても視えるようになったのよ」
「解ったダニ!」
メメが「その赤い石は何か力あるの?」
「ミルキーまだフチ(おばあさん)から習ってないダニ。 習う前に出て来たダニよ」
「そっか」
メメが「その赤い石もこの黒い石も同じ波動ならもしかしたら同じ事出来るかも。 アヤミさん試してみない? 私たちは石が無くても出来るから実験にならない。 どう?」
アヤミが「面白いですね。 ミルキーさんやってみない?」
「ダニ!」
「じゃあ決定! ケンタさんよろしいですか?」
「うん、面白いね! ミルキーさん戻り方だけ教えるね、戻る時は石を握って心にこの場所の情景を思うこと。 すると簡単に戻れるからね。 アヤミさん、ミルキーさんは次元が元々違うからそこだけ勘違いしないでね。 それだけ。 じゃあ行ってらっしゃい」
アヤミとミルキーは他次元へ移動した。
残ったメメとケンタは「メメちゃん面白い子連れて来たね」
「でも妖精はどの次元に属するのかな?」
「仙人とか修験者とか自然を司る世界だよ。 神界より下の辺りで人間界より上、そこに龍もいるよ」
「でも話してる内容は人間っぽいですね」
「僕達に合わせてるみたいだね。 元々自然相手の存在だから感覚がチョット違うかも」
ほどなくして二人が戻ってきた。
メメが「ミルキーさんどうでしたか?」
「出来るダニ」
「アヤミさんは?」
「はい、ミルキーさんの赤石も同じ感覚みたいです。 今は未来の二風谷に行って来ました。ダムも何にも無くって澄み切った空気の中で熊も鹿も狼も皆人間と共存してました。
まるでおとぎ話の本の絵みたい。 ミルキーさんったらそれを見て泣いてましたよ。 この世界最高ダニって。 私ももらい泣きです。 楽しかったです」
事務所入口のドアが開いた。
「すみません。中央店の京子さんからこちらに寄るようにって言われて来ました。 サキって言います」
アヤミが「そろそろ時間なので行きます」と言ってサキと入れ違いに出て行った。
メメが「あっ、京子さんから伺ってます。 明日そちらに女の人を行かせるからって。 こちらにどうぞ。 なんでも京子さんのガイドが言って来たらしいですよ。」
「そっか……」
メメが「サキさん、どうぞ入って下さい」
サキは奥に入ってきた。
その瞬間「あら! 可愛い!」
メメが「サキさんに視えるのね?」
「はい! 先日もこの妖精さん位の大きさの子に会いました」
「どこでダニ?」
「大通公園の九丁目の花壇の処です」
メメが「ミルキーの知り合いかなにかなの?」
「すいません。その子、青い帽子とベスト着ていませんでしたか? ダニ」
「そう、その話し方よ。 ダニって言ってました。 あなたのお知り合い?」
メメが「ミルキー、何か事情あるんでしょ? 差し支えなければ聞かせて」
「はい。さっき石の話したダニ。 その青石を無断で持ちだしたのがいて、時空を駆け回って好き放題してるダニ。 私は村長から頼まれてその子を探しに札幌に来たダニ。 今までウソ言ってすみませんダニ」
メメが「私、嘘は嫌いなの。 もう駄目よ。 今度嘘ついたら家から出て行ってね」
「メメさんケンタさんごめんなさいダニ……」
ケンタが「まあ事情は解ったよ。知り合ったのも何かの縁。 お手伝いします。 でもどうやって探すの? 札幌はそれなりに広いよ。 それに札幌にまだ居るとは限らないし」
「すみません。その探すお手伝い役を私にやらせてもらえないですか? 私、なぜ京子さんにここに行けって言われたのか今、解りました。 この事だったんですね」
「なるほど、彼女がサキさんをここに行くように言ったわけが解ったよ。 僕、彼女の旦那でケンタと申します。 いつもお世話になります。 でも、こんなお願いして良いのですか?」
「はい」
メメが「ミルキーさん良かったわね」
「ダニダニ」ミルキーは丁寧にお辞儀をしていた。
メメが「この子、嬉しい時、ダニダニって言うのよ」
みんな笑った。 その日からミルキーはサキの家にやっかいになり青石探しを始めた。
「ミルキーさんの赤石とその青石が近づいたら何らかの反応があるわけ?」
「三つの石は三位一体ダニ。 だから近いほど共鳴が大きくて、三つが重なると凄い光になるダニ」
「今回もその共鳴を辿って札幌に来たダニ。 でも次元移動してたら解らないダニ。 今は違う次元に居ると思うダニ」
「大体解りました。 それで明日からどういう動きするの?」
「明日の昼頃まで待って共鳴がなかったら、別次元にカムイの森っていう処があって、そこにカムイの窓という場所があるダニ。 その窓から青石の行方を視て飛んでみるダニ」
「明日を待たないで直接今行ったら?」
「そこに入るにはルールがあるダニよ。 十勝岳と旭岳と二風谷にある鉱山植物を煮込み、鹿の角のエキス少量を混ぜ煎じた液体を、カムイ神殿に奉納しないとカムイの森に入れないダニよ。 急いでも半日以上かかるダニよ」
「面倒くさいのね」
「これから山に戻って液体を作って戻るダニ。 急いでも帰りは明日の昼頃になると思うダニ」
「私に出来る事、何かある?」
「ありがとう。 でも、これは巫女のミルキーにしか出来ないの。 明日戻ったらまたお願いしますダニ」
「はい、じゃあ待ってますね」
翌日の昼前に鹿の胃袋で作った水筒に奉納する液体を入れてミルキーは戻ってきた。
三「ギジムナー」
ミルキーが「まだ青石の気配が無いのでカムイの窓から青石の居場所を突き止めるからもうチョット待っててくださいダニ。 あっ、それと、お土産。 ミミズクの涙で作った丸薬と丹頂鶴の爪で作った丸薬ダニ。 ミミズクは夜でも遠くの物がよく見えるダニ。 丹頂鶴の爪は疲れた時に飲むと身体が軽くなるダニ」
「ありがとう」
ミルキーはカムイの窓から一時間ほどで戻ってきた。
「ミルキーさんどうだった?」
「解りました。 青石は沖縄の小さい島にあったダニ。 今すぐ飛ぶダニよ。 サキさんの膝に乗らして下さいダニ」
ミルキーはサキの膝の上に乗った。
「じゃあ行きます。 エイ!」
二人は沖縄の伊江島に飛んだ。
「ヨイショット!」
二人は小高い山の頂に立っていた。
「あれ? ミルキーさん、身体が大きくなってるよ?」
「違うダニ。 サキさんが小さくなってるダニよ」
「たぶんミルキーに同調したダニ。 あっ、赤石が同調し始めたダニ」
二人は青々とした海岸を見渡した。
「あっ居た!」ミルキーが叫んだ。
そしてミルキーはサキの手を握った。 次の瞬間二人は浜辺に立っていた。
「あんた何やってるダニ?」ミルキーはいきなり語気を強めて青年に言った。
ビックリした青年は「なんでこんな所まであんたが来たダニ?」
「長老があんたに青石を盗まれたから取り返してこいって、命令されたダニ。 あなたどういうことダニ? それになんでこんな所にいるダニ?」
「ご、ご、ごめん盗む気は無かったダニよ。 お婆が最近妙に塞ぎ込んでいてオッカァもオドも心配さしてお婆に聞いたダニよ。『お婆どうかしたか』って? そんだら沖縄の島にギジムナー族の人で昔大変世話になったお人が居て、ひと目会いたいって言ったダニ」
「お前のお婆幾つになったダニ?」
「二百五十才くらいダニ」
「おめえの婆さま、達者だな。 それにしても青石を持ち出すのは違反ダニ。 長老は怒ってしまったダニ。 お前の両親は肩身の狭い思をいしてるダニよ。 それで見つかったダニかそのお方?」
「カムイの窓から視たらこの辺だったから来たけどまだ見つかんね」
「そっか……」
「ここの人たちは皆のんびりしてるから、こっちまでいい気分になって、つい探すのを忘れるとこだったダニ」
「事情は判ったダニ。 でも違反は違反。 帰ったら覚悟するダニよ」
「うん! でこの女性、見た事無いダニね、どなたさん?」
「札幌であんたを捜す手伝いと、私の面倒を見てくれてるサキさんダニ」
「こんにちは」
「サキさんご迷惑掛けますダニ。 そのような事情で本当にすみません。 ところで黒砂糖食べます? ここの美味しいダニよ」
ミルキーが「あんたそれどころじゃないダニ。 私達も一緒に探すから、早く探して二風谷に帰るダニ。 で、特徴は?」
「ギジムナーで二百五十才くらいダニ」
「それで?」
「……? そんだけ……?」
「あんた、ばっかじゃないの!」
サキが「まず、ギジムナーの長老を探そうよ。 そして相談するのよ」
「サキさん頭いいダニ」
「あんたがバカなの。 ダニ」
三人は長老を捜した。
サキが提案した「ミルキー、あなた達は笛持ってないの?」
「あるダニ、それが?」
「笛の音色は吹く側の特徴が出るのよ。 つまりギジムナーと違うあなた達の笛の音色に興味を持ち、もしかしたら向こうから寄ってくるかも……」
「さすがサキさん。 じゃあミルキーが吹くダニね」
ミルキーの音色はアイヌの民族音楽に近い独特な音色。
笛を吹き始めてから一時間ほど経つと。 沖縄の夕日が空一面を赤く染め、笛の音が島の空に響いた。 三人の後ろの方でザワザワと音がした。
ミルキーは振り返った。 数人のギジムナーが居た。
ミルキーが「あっ、初めまして。 私たち北海道から妖精探しに来た三人組です。 宜しくお願いしますダニ」
ひとりの長老らしき者が「ニングルか?」
「いえ、どちらかというとコロポックルです」
「そっか、懐かしいなあ」
「懐かしいと言いますと、コロポックルの誰かとお知り合いでしたか?」
「そうよのう、もう二百数十年前かな。 ひとりのコロポックルのメノコが船に乗ってここに来たことがあったワイ。 ギジムナー衆と何年か暮らしたあと台風に乗って本土に
帰って行ったワイ」
「もしかしたら僕の婆ちゃんかもしれないダニ」ひととおり経緯を話した。
「そっか、それはそれはご苦労さんでしたワイ。 もしかしたらワシの事かもな。 じゃが、わしも会いたいが会いに行く元気がないワイ」
「それが良い方法があるダニよ。 時空を超えて行けばすぐ着くダニ。 もし良ければ僕に触ってくださいダニ。 すぐ飛んで行って婆さんと会って戻るダニ。 どうダニ?」
「そっか、時空超えか… じゃあ頼むかワイ」そのまま二人は消えた。
ミルキーが「まあ、勝手なこと。 なんの挨拶もなく、さっさとあの子行ってしまったダニ」
「でも、願いが叶って良かったじゃないの」
「サキさん、迷惑掛けてすみませんダニ」
「いいのよ。 それよりもせっかくギジムナーさん達が居るんだから少し遊んでいこうよ」
「そうダニね」
それから二人は三日間ギジムナー達と飲めや歌えやで沖縄を満喫して帰郷した。
ここはサキの家。
「ギジムナーさん達とても楽しかったね。 ずっとユンタクだもの。 肉体が無いから酔わないはずなのに、ほろ酔いになったわね。 観念だけでも酔うのね」
「本当に楽しかったダニ。 サキちゃんミルキーせっかくここに来たからもう少し札幌に居たいダニ。 それにシリパの会の人ともっと話しをしたいダニ……」
「じゃそうしよう。決まり!」
四「三つの黒石」
サキはミルキーを京子のところに連れてきた。
「京子さんケンタさんに聞いてると思うけど、こちらが二風谷のミルキーさん」
「あなたがミルキーさんね、私は京子ですよろしく」
「あっ、ミルキーです。 初めましてダニ」
「あなたが赤い石の持ち主さんね? 詳しく聞きたいなその石のこと」
「はい、昔から我が村に先祖代々伝わった石ダニ。 紫と青と赤の三つがあって我が村のフチセの家計に伝わるものダニ。 この石の効果は今ひとつ解らないけど、先日ケンタさんから少し教わったダニ。 なんでもこの会の黒い石と波長が似てるからって言ってたダニ。 制限を外す効果があるっていってたダニ」
京子が「三つの石か赤石ね……」
「どうかしたダニか?」
「いや、この会の黒石はケンタくんが神社の裏で拾った物なんだけど、それ以外にも存在するのかなって思ったのよね」
「サキはあるような気がします」
「でしょ、私もなんか気になるのよね。 別にほしい訳じゃないけど、あるならお目に掛かりたいものよね」
サキが続けた「ミルキーさんが人捜しをした時に、石同士が共鳴するからその振動を追うって言ってましたよ」
「そうなんだ? なるほどね」京子はなにか閃いた。
「ねえ、ミルキーさん。先日見たシリパの会の黒石も波長の共振を感じ取れる?」
「はいダニ」
「それ感じ取ってほしいのね。 見てみたいのよ他の石も探してくれない?」
「いいダニよ」
「サキさんミルキーはカムイの窓に行ってくるダニね。 夜には帰るダニ」
「ミルキーさんごめんね。 お願いします」サキが言った。
京子が「サキさん、ミルキーはしばらく札幌に居るの?」
「なんでも、せっかく札幌に来て知り合いも出来たから、しばらく滞在したいって言ってましたけど」
「私、ミルキーさん見ていて感じたんだけど、動物のこと詳しいと思うの。 それでサキちゃんがあの子からその能力をレクチャーして貰うのよ。 そのお返しに私が石の能力をもっと開花させるわ。 お互いの能力を教え合うのよ。 これどう?」
サキは「何だか楽しそう! 戻ったら聞いてみます」
ミルキーが戻った。
「ただいま戻りましたダニ。 解りましたよ。 札幌には無いけど全部北海道にあるダニ。
にっき? 大切な山は神河の東黒? そんな町ミルキー知らないダニ」
「ミルキーさんありがとうね、ごめんね。 それでさっきサキさんと話したんだけど・・・」京子は経緯を話した。
「ミルキーさんはどう?」
「楽しいダニ。 この石もっと知りたいダニ」
「じゃあ成立ね」
サキが「ミルキーさん、動物の事そんなに詳しいの?」
「動物も食物も木や花も解るダニ」
ミルキーのレクチャーが始まった。
「基本的に動物は感性で生きてるダニ。自然環境と波長を合わせながら生きてるダニよ。コツは匂いと雰囲気と波長ダニ。 目はオーラを確認する為に使うダニ。 捕食して自分に害があるかどうかはオーラで判断するダニ。 当然、動物によって見え方が全部違うダニ。 人間は犬とか猫を飼うけど、犬は単純で無邪気だけど猫の方が犬より賢くレベルは上ダニ。 木の意識は穏やかで感情は一定。 植物は繊細で空気と光が栄養源で私たちの遊び場ダニ」
サキが「人間の考えと似てるけど人間は考えが基本人間的なのよね。 オーラで視るなんて思ってなかったわ。 さすが妖精ミルキーさん、凄く解りやすいね。 ところで犬とかですぐ吠える犬が多いでしょ、あれはどういうこと?」
「威嚇、恐怖、遊び、臆病犬の警戒心、色々あるダニ。 猫は状況判断の天才ダニ。 猫は風を感じてるダニ。 山の猫はそれ以上でその山全部を感じて行動してるダニ。 犬はどちらかというと目先のことだけダニ。 ミルキーは猫のお友達多いダニ。 ずる賢いのは狐や狸、ミンクもそう。 熊なんかすごく単純さんダニ。 余計なこと考えないで食べることが好きなだけ。 食べ物のために一日で山ひとつ越えるダニよ。 でもみんな私の仲間ダニ」
「人間の思いこみって勝手ね。 反省しなくちゃね……だって人間中心の考えだもの。 ミルキーさんゴメンね」
「基本、明るい暗い、腹減った腹いっぱい、繁殖と子育て、あとわずかな遊び、そして警戒心ダニ」
「とっても解りやすいわ。 ミルキーさんありがとう。 あと、死に対する捉え方は?」
「淡々としてるダニよ。 基本死は怖くない。 だから死の恐怖ってあることはあるけどそんなに怖くないダニ。 当然私たちもダニ」
「ありがとう。 じゃあミルキーさんから質問どうぞ」
「黒石と私の赤石、違うけどどうしてダニ?」
「私の解る事は、シリパの会の黒石はこの世の硬い石だけど、赤石はこの世での物ではない石なのね非物質なの。 だから普通の人間には視えないでしょ? そこを除けば二つは一緒の波調だよね。 あとは使い方のコツかな。 私の知る限りパラレルワールドやタイムスリップに多く使うけど、それ以外の可能性もあると思うわ。 私は試したことないのね」
「なるほど…… でもパラレルワールドやタイムスリップってなんですか?ダニ」
「そっか、それは今度ゆっくり説明するね。 あと、この会の石のことを制限を外す石とケンタさんは言ってたけど」
「制限?」ミルキーはしばらく黙った。
「なるほどダニ。制限を付けるからそれ以上になれない。 つまり出来ないと勝手に勘違いするということ…… なるほどダニ」
サキは、この子はどんどん知識を吸収する恐るべし妖精と思った。
五「動物園」
京子はミルキーに「あなた達は何人くらい居るの?」
「二風谷で五十人位で、北海道全地域に生息していてここ札幌にもいるダニ」
「食事は?」
「木の芽や野草が主で海の民は海藻も食べるダニ。 原則、肉系は食べないダニ。 寿命は基本好きなだけ生きられるダニ」
「娯楽は?」
「笛・太鼓・踊り・カムイの童話ダニ」
「結婚、出産は?」
「結婚は別の集落に行ったり来たり。 子供は夫婦で念ずれば次の日には出産するダニ」
「質問攻めで本当にごめんなさい。 争い・戦争の類は?」
「それはいダニ。 こちらの世界は自己利益追求で侵略し奪い合いの為に戦うダニ。 私たちは調和と奉仕が全てという理念。 自分のために奪いあうと与え合うの違いダニ」
「あなた達にとって神とは?」
「自然を司るのが神ダニ」
「学校は? 文字は言葉は誰が教えるの?」
「すべてない。 正確に言うと必要ないダニ。 最初から知って生まれるから誰も教えないし教わらないダニ」
「最後にあなたは誰?」
「私はあなたであなたは私。 それ以上でもそれ以下でもないダニ」
「ミルキーさんありがとうね。 久しぶりに真剣に話したよ。 ミルキーさん達は素晴らしい世界に住んでるのね。 勉強になりました。 ありがとうございます」
「長い間私たちは人間界に知られず生きてきたダニ。 たまに里の人間に姿を見せたら、物の怪とか、妖怪などと噂され続けて生きてきたダニ。 今、本当に分かち合えてうれしいダニ。 もっとも昔はお互い交流してたのに、いつしか伝説扱いにされたダニ。 今回あなた達と解り合えたのが嬉しいダニよ。 村長に話したら喜ぶダニ。 たぶん二百年振りとか言われそうダニ。 京子さんサキさんありがとうダニ・ダニ」
会員のショウタが宇宙人の話をしていた。 それを横で聞いていたミルキーはその会員に話しかけたが会員には視えずにいた。 それを察した京子は二人の通訳にはいった。
「ショウタくん、ミルキーが話をしたいらしいのね。 通訳する?」
「はいお願いします。 今どこに居るんですか?」
「この花瓶の横にいるの。 私はそのまま伝えるからね。 ミルキーさんどうぞ」
「宇宙人と私たちは交流してるよ。 昔から地球に来てるけど地球人が宇宙人達を認めるまで干渉出来ない決まりがあるだって」
「でもTVとかでよくやってるけど?」
「あれは地球人が意図的に操作してるものと、実際の事が含まれてるんですって。 その場合、その地球人も了承してこの世に生まれてるんですって」
「何をしに地球に居るんですか?」
「あなたは蝉が木の幹で殻からもうすぐ出ようとしてるのを見たら、出るまで見届けようと思いませんか?」
「思います」
「それと同じで、今地球が脱皮しようとしてるから宇宙人は見に来てるんだって。 脱皮したら宇宙人が実は沢山地球にいるのが解るはずだって」
「なんで視えないのですか?」
「まず、半霊半物質という事。 動きが速すぎて今の地球人の目には映らないですって」
「ふ~~ん」
「ショウタロウくんまだある?」
「半霊半物質って何次元ですか?」
「四.五次元ですって」
「SFのような地球侵略ってあるんですか?」
「私の知る限り邪悪な宇宙人はいませんって」
「名前や性別はあるんですか?」
「名前も性別も必要ありません。 そこが超越した存在の宇宙人と人間との違いだって」
「解りました」
「はい、ショウタくんもういいの?」
「はい結構です。ありがとうございます」
「僕、ミルキーさんにお目に掛かりたかったよう」
「君の意識を変えれたらばっちりよ。 制限を外してね。 中ほど・中ほど」
「え~と、ミルキーさんからはなにかある?」
「ショウタくんは七という数字に縁があるから今後大切にしてねってそういってるよ」
「七ですか…… ありがとうございます」
「ねえミルキーさん、明日なんだけど私に半日でいいから私に付き合わない?」
「どこにダニ?」
「円山動物園よ」
「動物園行くダニ」
京子とミルキーは動物園にやってきた。
「さあ、ここが動物園よ。 動物の意識をいろいろ教えてね」
「ダニダニ」
「ここが鳥、猛禽類。 意識を視てほしいの」
「大ワシやオジロわしか。 この意識はね、基本捕食だけど風を読むのが好きダニ。 目に見えるのは小動物のオーラと同じ仲間のオーラ。 同類の雌と雄の違いはオーラで瞬時に見分けるダニ。 普段はのんびりした意識ダニ。 お腹が空くとあの目が役に立つダニ。でもカラスがよくバカにしてるダニよ。 カラスって力は下でも意識は上ダニ」
「ねえ、カラスって世界中に生息してて悪賢いでしょ? 何故なの?」
「カラスの賢さは持って生まれた才能ダニ。 生物の意識が形で視えるダニ。 そしてそれを認識してるダニ。 だから死に逝く生物は目で判断出来るダニ。 だいたい当たってるダニ。 鳥類の中では意識は上。 私たちコロポックルに肉体があったら全員カラスにやられて絶滅してるダニ」
「草食動物はどう?」
「ひたすら食べることを考えてるダニ。 野心が無いから発展性もないダニ。 性格も穏やかで地を這う安定感ダニ。 動物園のライオン・虎・チーターなどの猛獣たちは意識的には草食に近いダニ。 ここの暮らしが長いからかな? 野生の意識を外に向けなくても食べていけるからダニ」
「猿はどう?」
「猿はチンパンジーのオーラが人間に一番近いダニね。 ミルキーも初めてダニこんな賢い動物は…… 京子さんチョット自由にしていいダニか?」
「思う存分どうぞ」
ミルキーはオリに近づいたその瞬間何かを察したチンパンジーは挙動不審になった。 ミルキーはチンパンジーの横にいた。 次の瞬間、一匹のチンパンジーに重なった。 京子の方を向いて手を振り始めた。 京子も手を振り返していた。 そして手振りで京子とミルチンパンは会話をしていた。 遠くでその様子を見ていた飼育員が京子に寄ってきた。
「あのうお客さん、ちょっといいですか?」
「……はい?」いきなりだったので京子もびっくりした。
「お客さんこのチンパンジーはノアって言うんですが、何かコンタクトを取ってませんでしたか?」
京子はマズイと思った。
「あっあのチンパンの真似をしてみたんです 。可愛いですよね……」とやりすごした。
ミルキーが戻ってきた。
「チンパンジーって今まで知ってる動物の中で一番賢いダニ。 ああやってても次の行動を考えているダニ。 ボスに対しての信頼感もしっかりしてるダニ。 あのチンパンジーは人間を観察するのが好きみたいで特に子供がお気に入りのようダニ」
「私も今度やってみよっと…… さっ、次は爬虫類館に行こうか?」
「ヘビは温度に反応するダニ。 小動物の体温とオーラの色と体臭を感知するダニよ。 皮膚全体で感知出来るダニ。 だからいつも新鮮な皮に取替えるダニ。 乾燥が嫌いダニ。
この類の動物はみんな乾燥が嫌いダニ」
「ミルキーさんありがとうね。 おかげでとっても楽しかった」
「京子さん、さっきから気になっている事あるダニ」
「何?」
「この辺に龍がいるダニ? 龍の気配がするダニ。 龍は私たちと同じ世界にいるダニ。 自然を司る力があるダニよ」
「そうだ、この山の辺りは結構龍神さんを奉ってるわよ。 ミルキーさん感じるんだ? 出たら教えてね」
ミルキーがすでに京子の左後ろ上空を指さしていた。
京子が振り返った。 その方向に白い五十メートルくらいの大きな龍が浮かんでいた。 龍の視線は京子を観ていた。
京子と目があった。 さすがの京子もあまりの威厳さに身動き出来ないで立ちすくんだ。 ミルキーは手を振って挨拶しに龍に向かって飛んでいった。 京子は貴重な体験に心震わせていた。
ミルキーが戻ってきて「京子さん、龍が宜しくいってたダニ」
「ミルキーさんは龍となにか話したの?」
「初めましての挨拶と動物園のチンパンジーの話しを少したダニ」
「ミルキーさんも人間っぽいね。 全般的に動物園どうだった?」
「はい、捕食という意識がなくて、みんな寝てるようなのんびりした感じがした。 全般に飼い犬や猫などのペットみたいで、野生動物とおおきく違うダニね」
「なるほどね…… 今日は龍にも会えて貴重な体験をさせてもらいました。 みんなにも今日の体験を話すね、本当にありがとう」
六「リョウゼン」
札幌の街は山から冷たい風が降りてくる季節になっていた。 シリパの会では異色の新会員さんの話しがよくなされていた。 その新人はリョウゼンといって若干二十才の青年。
彼はサバン症候群で、一度見たものは忘れずにそのまま絵に描くことが出来た。 その類い希な才能は北海道内では有名で、TVに作品が紹介されることもあった。
彼がひょんなことからここに入会してきた。 担当は京子。
「リョウゼンくん、私と一緒に二百年前の日本に行ってみない? どうせなら京都なんてどう?」
「な、なんで? なんで?」
「二百年前の京都はリョウゼンくんの描きたい物が沢山あるような気がするのよ、どう?」
「はいはい、行きましょう」
「ハイは一回でいいの。 じゃあ深呼吸を三回してから私の手を握ってね。 かるく目を閉じて…… いい? リョウゼンくん行くよ!」
ここは二百年前の京都四条大宮。
「ここから四条通りを八坂神社に向かってゆっくり移動しようね」
「はい」
「リョウゼンくんどう? 描いてみたいもの沢山ないですか?」
「京子ちゃんここの街とってもいいですね! ゆっくり移動して下さい」
「リョウゼンくんチョットまって。 君、なんか変わった?」
「実は違う世界に来ると感覚がみんなと同じくなるんですね。 何回トリップしてもこの感覚なんです」
「なるほどね!私たちのいる世界だけがリョウゼンくんの表現が普通と違うのね。 なぜかな……? 面白い」
京子は続けた「リョウゼンくんなんでだと思う?」
「解らないです。 僕のもっと深い部分になにかあるのかも知れません」
二人は街並みや空気感を感じながら八坂にむかってゆっくりと歩いた。
「リョウゼンくん、ここが四条河原町。 昔は呉服屋さんと旅籠が多いのね。 そば屋もあるし時代劇と似てるね。 結構ゴミが少なく綺麗な街並みね。 四条大橋の手前左が先斗町で橋を越えて右が祇園で正面が八坂神社よ。 清水寺に行ってみようか?」
現代とは先斗町も祇園も全然違うと感じながら三年坂を登って清水寺に着いた。
京子が「全てが全然違うね。 全然観光化されてないよ。 すごくシンプル、門前に数十件の茶店があるだけよ。 リョウゼンくんここ絵になる?」
「はい、清水の舞台は変わってないです。 それと下に広がる町並みの茶と黒のトーンはそれなりに面白いと思います」
「なるほど。 絵のセンスは変わってないのね」
「せっかく京都に来たんだから他も観る?」
「比叡山」
「じゃあ、手を握って」
「さすがここはお坊さんばっかりね。 天台宗か…… 大きいお寺ね、これが延暦寺」
「あのお坊さん、僕……」
「えっ? よく見ると目の辺りが似てるわね。 何を話してるの?大峯千日回峰行がどうしたって? 私解らないけどリョウゼンくん解る?」
「解りますが説明が込み入って面倒くさいですよ。 聞きますか?」
「今度ゆっくり聞かせて。 もしかしてそれでリョウゼンっていう名前なの? もしそうだとしたら君の親も凄いね」
ひととおり京都の街を見て回り二人は現代に戻ってきた。
京子の第一声が「面白い発見があったのよ。 ナベ今晩四人にマチコママの所に招集掛けてもらえるかい? 頼む……」
京子はミルキーと狸小路を歩いた。
「わたし、ここに座って商売を始めたのがこの仕事の切っ掛けなの。 メメともここで出会ったの私達の原点よ」
「京子さん久しぶりです」
狸小路の仲間に「これ鯛焼き差入れ。 みんなに配りな」
「この人達も古い仲間なの」一瞬セキロウを思い出した。
居酒屋シリパで久々に五人が揃った。
「今日は急にすみません。 実はリョウゼンくんという二十歳の自閉症の会員さんが居るの。 彼はサバンなのその事は問題じゃなく実は今日、二人で二百年前の京都へ一緒に飛んだのね、そしてリョウゼンくんと会話をしたの。
ところが、なんか私の知ってるリョウゼンと違うのよ。 なんと、普通に私と会話してるの! つまり別世界では障害が無いのよ。 当然と言えば当然の事なんだけどね。 で、リョウゼンくんはこの世界だけの表現方法が自閉症だとしたら、やり方次第ではこっちの世界でも健常者と同じ表現出来ると思ったのね。 リョウゼンだけじゃないわよ。
世の中に沢山いるの。 どう思う? やり方によっては潜在意識に働きかけるから表立ってやらなくても可能性があると思うのね。 ただリョウゼンくんのようなサバンの子はその才能までなくなってしまうかどうかが課題なのね。 みんなどう思う?」
京子は一気に思いを語った。
ケンタが「京子ちゃんの言わんとしてることは解る。 でもこちら側の見解で仮にそういう子が健常者になった場合、周りも変わらなくてはならない訳だよね。 もし絵の才能が無くなったらごく普通の子に変わるわけだよね。 いや二十年間の社会との適応能力というものが健常者と大きく違いが出ると思うけど、そうなった時の対応とかどう対処するの?」
ママが「う~ん、確かに会は病院と違うからとっても難しいよね」
メメが「京子さんの云うように自閉症は肉体的問題が無いから治ると思います。 ただ、それをよしとする家族の場合はかまわないけど、今がいいと思ってる家族もいると思うと正直考えちゃいます」
ママが「条件付きならどうかしらね? 例えば自閉症が発覚してすぐとか、つまり幼いうちって事よ。あと、例えば四十才くらいの大人の場合、いきなり健常者になったら世の中を上手く渡っていけず、逆にストレスを感じると思うのね。 数十年分の世の中を健常者の目線で勉強しなきゃいけないから大変なことだと思うの。 それなら元のままが良かったと思ったって遅い気がするのね。 どう思うナベちゃん?」
「僕はすぐに結論出せません。 現にリョウゼンくんはうちの事務所の会員さんでよく知ってるけど、いつも笑顔で楽しそうなんですよ。 この会が大好きみたいなんです。 彼を健常者にするっていう事は彼本人と周りが変わらなければ成立しないと思います」
「うん、さすがナベちゃんねそれで?」
「わかりません……?」皆こけた。
京子が「そうよね。簡単に結論出せる問題じゃないよね。 世の中自閉症という障害があっても、すごい発明や発見をする科学者や物理学者がじっさい存在するんだもの。 チョット私、軽率だったかも反省します。 ごめんなさい」
ママが「でも、リョウゼンくんのケースはとっても役に立ったわ。なんか人に言えないけど重要なこと学んだ気がする。 いい勉強になりました。 ありがとう京子ちゃん」
メメは「本当に可能性って無限ですね。 ところでミルキーさんは今の話しどうでしたか?」
「ミルキーも勉強になったダニ。 私達の世界には病気がないから考えた事ないダニね。私たちは基本が動物と自然と調和に限定されてるダニ。 でも人間って面白いダニ。 今度生まれる時は人間も良いかも……ダニ」
みんな笑っていた。
ママが「京子ちゃん、それでリョウゼンくんのこと今後どうするの?」
「親御さんに一度打診する。 せっかくの可能性だからやり過ごすのもどうかと思うのよ。結論はお任せね」
シリパの会の壁には数枚の絵が飾ってあった。 すべて京都の古い町並みであった。 リョウゼンくんの事は身内の希望で今のままでよしとされた。 だが、シリパの会には日の目を見ない極秘のプロセスが追加された。
リョウゼンはシリパの会にいつもどおり顔を出し、みんなと楽しいひと時を過していた。
七「同窓会」
十二月の中頃、シリパの会に珍しい訪問者二人が顔を出した。 ケイスケと蛯子であった。
「こんにちは」ナベが出た。
「あっはい! いらっしゃいませ」
「蛯子と申しますが、京子ちゃんおりますか?」奥から声がした。
「蛯子かい?」
「そうで~す。 蛯子です」
「ナベさん、今、留守って言って帰えってもらって……」
聞いていた会の全員が笑った。 奥から京子が出てきた。
「なに? 詐欺師蛯子。 あんたが来るといいことないからね」
「京子ちゃん相変わらずだな、もう時効だよ……」
「なに、蛯子その馴れ馴れしい態度は…… で、二人揃ってどうかしたの?」
ケイスケが「今度、札幌のホテルで中学校の同窓会を予定してるんだ」
「良かったじゃない。それで?」
「それで、京子ちゃんに幹事やってほしいんだ」
「良いよ。但し仕事優先だからね。 それでいいならここに出欠のハガキ集まるようにしておいてよ。 あとは誰が幹事?」
「僕達二人とハマさんの四人」
「ハマさんか懐かしいね。 今、彼女はなにしてるのさ?」
「結婚して小樽で美装屋さんで働いてるって」
「そっか…… うん、了解したよ」
同窓会がジャスマックプラザで開催された。 総勢八十五名の会だった。
ケンタと京子は雛壇に立たされ、結婚を全員に祝福された。
「ありがとうございます」ケンタがお礼を言った。
その横では京子が目を険しくしてある一点を視ていた。
ケンタが「どうかした……?」と言いながら寄ってきた。
「ケンタ、あのマサコの左横視て」
ケンタにはすぐ意味が解った。
「あいつ確か……」
「そう、B組のケンジよ、間違いない」
「あいつ3年前に車の事故で死んだはず。 どうしたんだろ? いいから、ほっておこうよ」
京子は渋い顔で「うん解った」
ハルミが京子の横に来た「京子ちゃんおめでとう」
「ありがとう、近場で手を打ったわよ」
「ほんと、でもみんなはそうなるって思ってたよ」
「そうなんだ。ところで話し変わるけど、ハルミはB組よね。 死んだケンジとマサコってなにかあった?」
「京子知らないの?」
「うん知らない……」
「あの二人結婚寸前だったらしいのよ。 それであの事故でしょ、一時はマサコが落ち込んでしまい自殺未遂までしたとか。 それ以上の詳しいこと知らないけど今日は久々に見たわよ」
「フ~~ん」
蛯子とケンタが近づいてきた。
「よっ、京子ちゃん飲んでるかい?」
「飲んでるわよ。 詐欺師蛯子今日はお疲れさん」
「あんたもまともに挨拶出来るんじゃない」
「京子ちゃん、ケンタは?」ケイスケが聞いた。
「ケンタ? 知らないわよ。 戻ったらなにか伝えておく?」
「いや、俺たちで探すよ」
京子はマサコの横にいるケンジがやはり気になった。
会場を見渡すと、なんとケンタがマサコと話しをしていた。 その上からケンジがケンタを睨んでいた。 ケンタ本人もその事は知っていた。
京子が近寄った。
ケンタが京子に向かって「ちょっとマサコちゃんと京子話してくれる? 僕トイレに行くから」
どういう訳かケンジもケンタのあとを着いていった。 ケンタは声にならない声でケンジと話を始めた。
「なんで彼女に付きまとう?」
「マサコは俺の嫁だ。 俺が何しようがオメエに関係ねえ」
「そうはいかない。 彼女が苦しんでる。 解放してやれよ」
「オメエに関係ねえ」
「ケンジは死んだんだ。 マサコちゃんと住む世界が違うんだ。 冷静に思いだしてみろよ」
「おれはこうしてここにいる。それにしてもお前誰だ? うるせえ野郎だな」
「俺はお前のこと知ってるぞ。 ケンジっていうんだよ」
「ケンジ?ケンジ? どっかで聞いたことある? けど関係ねえ」
ケンタはポケットから石を出した。
石は急に光り始めた。 ケンジは何かを思い出したようにじっとしていた。 そして突然柔和な顔になり自分のガイドと消えた。
「ありがとう」ケンタにと伝わってきた。
ケンタが会場に戻ると京子とマサコがにこやかに話していた。
京子が「お疲れさん。 マサコのガイドから聞いたわ、お礼言われたわよ。 マサコも急に顔色が良くなったわ」
会場内では蛯子が酒を飲み過ぎたらしく鼻水を垂らして寝ていた。
八「ミルキーの別れ」
ミルキーがシリパの会を訪れてから約一年が過ぎた。
シリパの会でもすっかり人気者でミルキー目当てに来る会員もいるが、ただ普通に好奇心だけではミルキーは見えないので自分の波動を上げる必要があった。
最初の切掛けはミルキーへの好奇心であっても、そのうち自分の固定概念が邪魔になっていることに気付き始め、会のプロセスに沿って実行するようになり意識が変わる者も多くいた。
会員のひとりが「ミルキーさんって結婚とかしないの?」
「私はシャーマンだからしなくてもいいダニ。 でも、今後は解らない……」
「好きな人いないの?」
「旭川のコタンにひとりいるダニ…… ダニ。
私達の結婚は人間の世界のとすこし違うダニよ。 私達は魂の結合を意味するの。 だから結婚すると二つの魂が一つに重なり合って新しい一つの存在になるダニ。 それが私達の結婚の意味ダニ……」
「なんかステキですね。 ありがとうございます」
このような形でミルキーはいつも質問攻めであった。 そんなある日ミルキーが京子の所にやって来た。
「京子さん、そろそろミルキーは二風谷に戻る時期が来たみたいダニ。 これからは本格的に北海道内の自然界の浄めの旅に出なさいと長老さんに指示されたダニ」
「ここを拠点に出来ないのかい?」
「二風谷には特別な場所があって浄めの旅で、下がってきた波動を調整してくれる特別の場所があるダニね。 だから二風谷を拠点にするのが都合が良いダニ」
「そうかい。こっちの都合ばかりいえないよね。 じゃ、みんな集めてミルキーの送別会しようかね」
「京子さん、ミルキーはこのまま二風谷へ帰ります。 シリパの会の皆さんに会うと別れが辛くなる…… ダニ」
「……そうかい、またおいでよ。 いつでもあんたは大歓迎さ。 楽しい日々を一緒に過ごさせてもらったわ、ありがとうございます。 立派なシャーマンになってね」
京子の目から涙が溢れてきた。 ミルキーは手を振りながらゆっくりと消えていった。
メメちゃんちょっと来て京子が云った。
「実は今朝ミルキーがきて……」事の次第を話した。
「だから会員さんにミルキーからくれぐれも宜しくと伝えてね……」
「そうですか。 解りました皆さん残念がるわね、私も寂しいです」
ミルキーとの別れから数ヶ月が過ぎ、ミルキーの事を語る人も少なくなった。
ある時ママが呟いた「あ~あ、こんな空白の時間にはミルキーちゃん最高よね。 色んな話題提供してくれたわ。 特に動物の意識とか自然の摂理の話しなんて楽しかった」
メメも「そうですね。 今まで人間サイドだけの考えで、とくに動物学者さんなんて語ってたけど、実際にミルキーさんの話しと大きく違うところ多かったわね。 勉強になった」
「そう、動物はオーラを視て感じてるなんて絶対に学者さんなんて解らないわよね……」
「今頃、お浄めの旅であっちこっち飛び回ってるのかしらね」
二人は宙を見つめていた。
「ごめんください」訪問者があった。
「ハイ」メメが応対した。
「あの~う。 私はオイマツと申しますがこちらにミルキーさんという妖精さんが居ると聞いて来たんですけど……?」
「ミルキーとは非物質の存在でして、誰でも視えると云うものではありません。 それに今は帰郷しましたがなにかありましたか?」
「そうですか。 実は私の家の納戸に小人さんが数人住んでるみたいなんです。 私は見えないですけど気配と話し声を感じるんですね、それでこちらにもそういう方がいると聞いたのでお邪魔しました」
「そうですか。 それでミルキーさんにご相談というのは?」
「はい、何故我が家なのか? 何か要求ごとがあるのか通訳っていうんですか? その子達の声を聞いて欲しいと思って訪問させていただいた次第なんです」
「そうですか。 チョット待って下さい」メメはママの顔を見た。
ママが「今言った事情でミルキーは日高に帰郷したんですよね、もしよかったら私で良ければ、その小人さんに話し聞いてみましょうか?」
「えっ、お願い出来るんですか?」
「断言は出来ないですけど、試す価値はあると思います。 わたしミルキーという妖精とコンタクト取れてましたから試す価値はあります」
「はい。ではお願いします」
「それでは深呼吸を三回して私の手を取ってその情景を心に思い浮かべて下さい」
「ここで、ですか?」
ママが「あの世界は時間や距離がないんです。 いつも今なんですね」
オイマツはママの手を取って思い浮かべた。 ママはその納戸に飛んだ。 するとそこには6人の妖精がいた。
「こんにちわ、私はマチコといいます。 この家の方があなた達が何の目的でこの納戸にいるのか教えてほしいと私の所に相談に来たの、それで私がここに来ました。 事情を聞かせてもらえませんか?」
マチコママは単刀直入に聞いた。
「私達は白老町のコタンから来た妖精ダニ。 ここの子供さんにレイトくんという私達の知り合いがいるんです。 ここに生まれる前は私達の仲間だったダニ。 今度は人間として生まれるから、生まれた時には是非遊びに来てねっていわれました。 明日がレイトくんが誕生して三年目なんです。 それが過ぎると私達の意識が伝わりずらくなるので最後の誕生祝いの儀式を何日間かやってました。 それも明日で終了です。 驚かして申し訳ありませんダニ。 明日になったら帰ります」
ママは戻ってきた「オイマツさん、もう少し私に時間くれますか?」
「?ハイ、かまいませんけど」再びママはオイマツの手を握り集中した。
そこは白老のアイヌコタン「オイマツさん、ここは白老にあるアイヌのコタンです。 この集落の湖の奥まった所を意識してくれますか?」
「はい、小さな人たち数人が花から蜜のようなもの? を集めてます」
「あの人達はここの妖精達。 そこにオイマツさんの知ってる人がいますか?」
「あの黒い毛皮のベストを着た妖精さんってたぶん、私……? 見覚えあります」
「よく思い出してください……」
「たぶん私です。 その横にいる髭の人が主人です」
「そうですか。 そのご主人が今のあなたの息子さんのレイトくんなんですよ」
ふたりは戻りマチコママが「いまのビジョンで息子さんとの縁が解りましたか?」
「はい、夫婦でした……」
「それは大いにあり得る事です。 不思議でも何でもありません。 お宅の納戸にいる妖精達はレイトくん誕生の祝いの儀式を数日掛けてしていたようですね、レイト君が生まれる前の彼らとの約束みたいですよ。 明日には終って帰るみたいです。 ご迷惑掛けたこと詫びてました」
「そうでしたか、ありがとうございました」
狐につままれたように半信半疑でオイマツは帰っていった。
「ちょっとサービスし過ぎたかしら? 聞くよりも視た方が早いと思ってサービスしちゃったわよ。 余計な知識がない人の方がトリップするの楽ね。 それと妖精も人間に転生するんだと解ったわよ」
九「旅立ち」
ケンタと京子は余市町に帰郷した。
「ねえケンタ余市はのどかね、やっぱり田舎はいい……」
「山・川・海。 余市町は三拍子揃ったいい所だよ、将来は余市町かな?」運転しながらケンタは呟いた。
トンネルを出て余市に入りすぐ右手の海の側に巨大なUFOが浮かんでいた。 一辺が二百メートル以以ありそうな巨大三角形のUFO。 二人はしばらく見入った。
ケンタが「こんな田舎に何の用事だろう……?」
「それにしても見事ね。 他は誰も気付いてないみたいよ。 見てないもの」
「そっか、僕達だけか……」
「もしかして私達になんか用事があるわけ?」
ケンタは京子と金星の一件を思い出した。 ケンタの実家に着いた二人はUFOの事には触れないでいた。 夕食を済ませほろ酔いの二人ははじめてUFOの事を語り始めた。
「何だろうね……」
「あれは母船だよ。 余市に地震か何かが起こるのかなあ? 東北の地震の時もその前後はUFOだらけだったから……」
「二人でUFOに繋がってみようか?」
「さすが京子ちゃん、物怖じしないね」
「よし! コンタクト取ろう」
二人は手を繋いで瞑想に入り、体外離脱して二人はUFOに意識を合わせ、そして乗り込んだ。
ケンタが「うわっ! 広い、こりゃ案内がいるね…… 誰かとコンタクト取ろうか……? いいかいやるよ」
次の瞬間別空間に二人は移動していた。 目の前には霧状の光った意識体が二つあった。
ケンタがコンタクトを開始した。
「私はこの町に縁のある者。 何かこの町に用事あるんですか?」
意識体は「驚かしてすまない。 あなた達に用事があって此処に来ました」
「……? 僕たちに? な、なんでしょうか?」
「我々の仲間は世界中に網羅し、あなた達のような方とコンタクトを勧めてきました。 今回もその一環。 あなた達二人だけで出かけるのを待っていました」
京子が「あんた達はストーカーか? おい」宇宙人を恫喝した。
「話を聞いて下さい。 これは人類の未来にも関わるる話し。 今の地球は夜明け前の一番暗い苦しい時期。 お二人も既にご承知のとおり。 この地球は今後二つの道に分かれて進む事にほぼ決定してます。 それもご存じのはず。 それで、新生地球の為の先駆者をひとりでも多く増やしてほしい。 いわば新人類の育成……」
「で?」
「シリパの会を閉鎖するか、お二人に脱会してもらいたい」
「どうしてよ?」
「今の会は正直、神秘主義の会で趣旨が違う。 いまのメンバーは能力を付けたい人の集団。 自分の神秘的欲求を満たす為に存続してる会。 残念ながらこれからの地球は実践的でなければならない。 今の会を軌道修正するには時間が掛かる。 それなら閉会するか、新しく趣旨の違う会を結成するか……。 二人によく考えていただきたい。
地球は両極の氷が溶け始めています。 するとその多くの水が増えて重力バランスが変わります。 今のバランスが変わり、より球体に近くなります。 そうなると極の移動も否めない。 地震や火山活動がますます増えます。 結果、人類に多大な悪影響を及ぼします。 決して遠い未来でなく、すぐそこまで来てます。 そうなった場合地球の人口は大きく減るのです。
その事はハッキリ言って阻止できない。 だから一人でも多くの人間をアセンションさせる手助けが必要となります。 それには今の体制では無理なのです。 今ある習慣を変えなくては新しい地球に移行できません。 古い体制の地球、つまり今の地球にしか住めなくなります。 時間が消滅した世界では思ったことがすぐ形になります。 つまりもう一つの取り残された世界は修羅場となります。 これは間違いなくそうなります。
何故なら宇宙ではそうなった星が少なからず存在るから。 話が長くなりました。 早い話が二つに分離される地球の、片方の新地球へ多くの魂を移行させるお手伝いをしませんか? と言う提案です。 我々地球外の魂はこの事に直接関与できません。 だからこういう形を取っているのです。 お判り頂けましたか?」
ケンタは「大方の見当はついておりました。 ですが今急にシリパの会の解散・離脱といいますが我々にも準備が必要です。 返答の余地は無いと思いますが、いつ頃までに返答したらいいのですか?」
「すぐです。 もう既にあなた達はその事を決めて生まれてきてます。 あとは実行のみです。 すでに奥様の心は決定しています。 奥様、頑張りましょう」
ケンタは京子の顔を覗いた。
京子もケンタの顔を見て黙ってうなずいていた。
ケンタは「解りました。 札幌に帰ったら早速、行動に移します。 今後とも我々を導いて下さい。 お願いいたします」
二人の意識は戻ってきた。
京子が口を開いた「さっ、つべこべいってる暇無いね、帰ったら五人集合して伝えましょ。 その前に私達の意向を確認しましょう。 ケンタはどうしたい?」
「僕は二人が抜けてあとは三人に任せたいと思う。 それにはもう一人スタッフを増やす必要があるね」
「それ賛成よ。 スタッフにいい子がいるのよ。 サキちゃんって子なんだけど、ミルキーさんが来たとき面倒をみてたの。 本質をついた見方が出来るのよ。 彼女なら素質ある。 そして考えたんだけど、置土産に石を置いていくのはどう? もともとケンタの石なんだけど、これは私の意見だけどね……」
「うん、僕もそう考えていた」
「じゃ、決定だね、早速集合かけるよ」
「うん頼む」
二人は澄んだ空に星が綺麗に輝く余市の空を眺めていた。
「こんな運命になろうとは子供の頃思いもしなかったわよ」
「僕もさ……」
居酒屋リンちゃんに五人集合し、余市であった事を包み隠さず説明した。
京子が「そういうわけで、二人を脱会させてください。 今後私たちはどんな活動になるかまったく決まってないけど決まったら必ず連絡する。 あと、スタッフをひとり育ててあるのね。 みんなの意見を聞いてからと思って今日は連れてきてないけど素質は充分あるの。
妖精のミルキーの面倒をみてくれていたサキちゃんなんだけど、みんなの力になるわよ。
それとシリパの会に置みやげがあるの。 この石使ってください。 ケンタと私から皆へのお礼なの、本当に勝手言ってすみません」
ケンタと京子は深々と頭を下げた。
ママが「事情は解った。 二人の決意は固いようだから反対は出来ない。 でも、これだけは云わせてちょうだい。 この会はこの場所で三人で発足したの。 ここが船出の場所。
ケンタくんと京子ちゃんががいなかったら、この会は存在しなかった。 私はそれを忘れない。 石は単なる切っ掛けで、この会に命を与えてくれたのはケンタくんなの。 だからなにかあったらこの会はいつでも応援します。 いや、もし会が応援しなくても私は全てを投げ打ってでも二人を応援する。 平凡な飲み屋のママで終わるはずの人生が、こんな充実した人生になったんだもの…… 困ったらいつでも言ってちょうだい」ママは胸が詰まり下を向いた。
メメが口を開いた「私もママと同じです。 応援させて下さい。 私も平凡なOLでした。京子さんに出会って人間として育ててもらいました。 今は指導する立場にまで育ててもらいました。 このご恩は忘れません。 お二人のお手伝い出来る日が必ず来ると思っています。 その時は無条件でお手伝いさせてもらいます。 私から最大級のお礼を言わせて下さい。 ケンタさん京子さん、どうもありがとうございました……」
マチコママが「今日も貸し切りで飲み食べ放題やっちゃいます。 二人の旅立ちに乾杯!」
みんな笑顔で泣いていた。
十「ふたつの石」
二人がシリパの会を脱会して三日。 とりあえず脱会したがその先の事は全てが未定。
「ねえケンタ、どういう形態取ればいいと思う?」
「僕も解らないから、とりあえず寝る前に今の地球を透視したんだ。 そしたら青いはずの地球が黒に近いグレーなんだよ。 こりゃ重傷だと実感したよ。 と同時に丸山公園が頭に浮かんだんだ。 とりあえず丸山でも行って高いところから街を眺めてみるよ、どう思う……?」
「そうしようか……」
二人は円山公園から札幌の街を眺めた。
「この公園久々だね。札幌の街もちょっと見ぬまに高い建物が多くなったのね」
突然ケンタが「シッ!」と京子の言葉を遮った。
ケンタはその場に黙って立っていた。
京子はいよいよ何かが動き始める予感を感じた。
「“狸小路 ”って心の奥から……?」
その日の夜、二人は大通公園から狸小路に向かって歩いていた。
「……? ねえ、さっきから後ろに気配を感じるのよね、どう?」
「うん、僕も同じさ、これ生身の人間じゃないよ。 一回止まろうか?」
二人は同時に立ち止まった。 次の瞬間二人は後ろを振り向いた。
京子は突然気を失ったようにその場に倒れ込んだ。 咄嗟のことでケンタは状況判断ができていなかった。
「京子! 京子! 京子!」顔をさすったり背中をさすったりと意識の回復をまった。
やがて京子の意識が戻りケンタの顔を見ながら「あのね、あれと目があった瞬間私の中にいきなり入ってきて気が遠くなったのよ。 気が付いたら私、月にいたの。 そこで色んな宇宙人が一斉に語りかけてくるの。 それが全部、何を言ってるか解るのね。
要約すると北海道内の各スポットの封印を解いて、残り二つの黒石を探せっていう事なの。 だから、石のある場所を教えてって言ったら、出来ないって言うのよね。 私もつい、じゃあ偉そうに言うな。 バカ野郎って言ってやったわよ。 腹立つ、まったく……」
「京子ちゃんホントにバカ野郎って言ったの?」
「本当よ。駄目だった……?」
「いや…… じゃあ明日からその石探しするか?」
「その前に狸小路のみんなの所行こうよ。 チョットだけでいいからさ……」
「姉さん、久しぶりです。」
「おう、元気でやってるのかい? また家出少女連れ込んでないだろうね」
「シリパ姉さんは会えば必ずそれだもんな。 もうやってませんから……」
「そうかい、真面目になったかい?」
「そうでもないけど」
「バカ野郎! ふふ、じゃあまたなっ」
ケンタが「なんか京子ちゃんは水を得た魚のようだね。 いつもこんな会話なの?」
「そう」
今度は向こうから厄介そうな男が二人歩いてきた。
京子が「おう、ミノルとエイジ久しぶりだね、何年ぶりだよ? 相変らず二人かい? あんたらも出世しないねえ元気にしてた? こちら私の旦那でケンタ……」
エイジが「何時結婚したん…… よろしく」
「この二人はミノルとエイジ。 いつも二人なの。 ホモなんだ」
「ばっかやろう相変らずだな、シリパも。 この人が旦那さんかい? 俺、ミノルっていう極道者なんだ。 宜しく。 シリパには世話になってます」
続けてエイジが「だ、だ、だ、旦那さんも大変なのと一緒になったねえ。 ま、ま、まっ、シリパの面倒みてやって下さいや」
「ミノル、エイジ。お前達言ってることがヤクザっぽいよ! ウザイからとっとと消えなよ……」
「ガハハハ。 そっか。 じゃあな、 シリパおめでとうさん」
「ハイヨ!」
ケンタの知らない京子の顔を垣間見、複雑な思いがした。
「ここに何年座ったかな? 色々と楽しかったよ。 ここに集まる人間は正直でいいよ。不器用だけど適当に一生懸命がいいね…… わたしすきだな」
翌日からふたりは石探しを始めた。
「ねえケンタさあ、やっぱり神社かな? 会の石は奉納されてる石でなく社務所の後ろに落ちたってたよね」
「うん、僕は氏神様のような小さな祠かなんかのような感じがするんだけど」
「神社や祠なんてそこらじゅうにあるよ。 どうやって探すのさ?」
「いや、必ず切っ掛けがあるはずだよ……」
ケンタはふとミルキーの事を思い出した。
「京子ちゃんそうだよ! ミルキーがいた! 二風谷の赤石だよ!」
「あっ、そうだ! たしか赤石と黒石も共鳴し合うのよね。 その手があったわね。 ミルキーとコンタクトとるね」
ここは二風谷。 京子はミルキーに念を送り気配を読んだ。
「あっ! 京子さん久しぶりダニ。 来てくれたダニ? うれしいダニ」
「ミルキー突然ごめんね」
「ぜんぜんかまいません。 尋ねてくれてありがとうダニ」
「実はね……」と経緯を話した。
「そうですか。たぶん二日あれば探せると思うダニ。 但し、封印が掛かってたら感知出来ない可能性もあるダニよ。 あんまり期待しないで待ってて下さいダニ」
「ミルキーありがとう。 恩に着るよ」
札幌に帰宅して数日が経ったときミルキーの気配があった。
「おや? ミルキー、ありがとうね。 で、どうだった?」
「やっぱりひとつは封印してあるみたいダニ。 もうひとつは余市の隣町で仁木の神社の小さいお堂の辺りみたいダニ」
「へ~~! そこまで解るのかい? 凄いよミルキーは!」
「シリパの会のおかげで力がついたみたいダニ」
「そっかい。 良かったね、ありがとう。 ついでにシリパの会に寄ってったら? サキちゃんもスタッフとしていつもいるよ」
「はい寄ってくダニ」
ふたりは仁木神社に向かった。
「ここか、お堂があったよ。 まず参拝しようか?」
一瞬ケンタの様子が変わった。
「ケンタどうしたのよ?」
「ごめん。 上半身が痺れて死ぬかと思うような衝撃だったよ……?」
「へ~え! そうだったの」
ふたりはお堂の周りで石を探した。 見つかるまで時間はかからなかった。
「あった!」
京子が小さな石を手にした。
「これだよね。 ケンタ触ってみてよ」
ケンタは石を握った。 次の瞬間また電気が走り異空間を移動した。 ケンタが視たのは大正時代の仁木村。 数人の村人らしき人と神主さんがこのお堂に祝詞をあげていた。
この神社のご神体に魂入れをしてるようだった。 天地を貫く紫色の光が視える。 天照大御神とガイドが教えてくれた。
「この石で間違いない。 久々に石でトリップしたけど、同じ感触だった間違いない」
ふたりは寄り道せずに札幌に帰った。 部屋に戻って石を綺麗に洗い太陽光を浴びせた。
「ねえ、ケンタさあ、この仕事も使命感があっていいけどさ、もう米びつの底が見えてるよ。 私、また狸小路にでも座るかい?」
「そっか、僕も一緒に座ろうかな……?」
「イヤだよ。 ふたりでなんか」
「違うよ。僕は僕で絵とか詩を描いてやり方を変えた占い師ってどう?」
「なるほど……面白いかも」
ふたりは夜、狸小路に座ることになった。
「言い掛かり付ける奴がいたら私にいいなよ。 それとここじゃ、アタシはシリパで通してるから呼ぶとき気をつけてね。 じゃあ宜しく! 新米くん……」
「僕はKENでいくよ。 シリパ先輩宜しくお願いします」
「おう任せな新入のKEN。 但し、売上の30%は私に上納しなよ新米くん」
ケンタは久々にガッペむかついた。 KENは占い相談に来てくれた客にガイドからのメッセージをひと言書にして添え営業した。 途中シリパは何度も冷やかしに顔を出した。平日はふたりで売上が一万円程度。 帰りは早くても十二時近かった。 残りの石の捜索方法をふたりで話し合うのが日課になった。
「砂の中からダイヤを探すようで滅入ってきそう。 ケンタはどう?」
「うん。さすが手掛かりが無いのは滅入るね……」
ある朝、ケンタは夢を視た。
『大切な山は神河の東』……? ケンタには理解できなかった。 京子に聞いても謎は解けない。 半分諦めかけふた月ほど経ったある日、ケンタの客のひとりが「僕の出身は上川町です」と話していた。
ケンタは首を傾げ「上川? それってどの辺でしたっけ?」
「大雪山の下、層雲峡と旭川の間ですけど」
ケンタはピンときた。
「あっ!」
「どうかしました?」当然客は何のことか理解できない。
「あのう、神河ってありますか?」
「神河って聞いたことあります。 東川町の方じゃないですか?」
さっそくケンタと京子はネットで調べ飛んだ。 大雪山の東上川とふたりは仮定した。
そこは東川神社だった。 仁木神社と同じくらいの小さな御堂があった。 ケンタはポケットから石を取り出し、石の反応を注意深く観察した。 が、なんの反応もない。
次に本殿に向かった。 ここも天照大御神とあった。
京子が「なんの変化もないわね、ここじゃあないのよ。 ケンタ、せっかくだけど帰ろう」
「うん、そうしようか……」
ふたりが車に乗り、来た道を戻ろうとした瞬間、道路にいたリスが進行を妨害した。
瞬間京子が「待って!」と声をあげた。
「どうかした?」
「やっぱりここ。 リスが帰るなって進路妨害したの。 もう少し気配を感じてみようよ」
「了解」ふたりは車内で瞑想した。
ケンタが目を開けた『木の下』ふたりは車から降り意識を集中した。
一時間ほど経過した時さっきのリスがまた出てきた。 京子はそのリスに導かれたかのように近寄った。
「ケンタ!」京子の声。
「あったのかい?」
大きな木の根元には黒い小さな石があった。
ケンタが「二つの石が同調しあってる。 これだ間違いないよ」
「よかった。 リスさん導きありがとうね。 これで三位一体よ」
それからふたりは車中泊しながら足を伸ばし、たくさんの寺社の封印を解いて廻った。 ひととおり北海道を廻ったふたりは久し振りに自宅でゆっくり休息をとった。
京子が「なんか独特の達成感があるね。 廻って初めて解ったけど天照大御神って多いのね。 それって分霊って言うのかな。 あとお寺は一軒も無いのね」
「お寺は人間が造ったもので、今の役場の住民課的な役目が事の始めだから、本来の信仰の形態と役目がすこし違うのかもね。 だから神社周りが主体だったかも……」
十一「テロ工作」
ミルキーが突然京子の前に現れた。
「おや、ミルキーどうしたの?先日は世話になったね。 で、今日はどうかしの?」
「いきなりごめんなさいダニ。 先月、北海道各地の妖精たちが旭川のコタンに集まったダニ。 その内容が、人間の自然破壊とその対策についてなのね。 その事はよくある会議の内容で問題は無いダニ 。話しはその後に起こったダニ」
京子は真顔になった。
「シャコタンにある神威岬の長老が『長年人間達の黒い想念の影響を受けてきた。 そのせいで自然破壊が進んだ。 でも我々は耐えてきた。 だがもう限界、この辺で我々は立ち上がり人間社会に忠告を発したい。 それには皆の力を集結する必要がある』って演説したダニ」
「で、具体的にどういう事になるのよ?」
「本州の人間が三百五十年程前、北海道を侵略した事があるダニ。 その時は我々妖精と自然をつかさどる龍神と北海道アイヌの頭のシャクシャインさんが組んで、本州からの侵略に対し人間界と妖精界の両方で戦って我々の民が勝利したダニ。 その時は人間界に多大な犠牲者が出たダニよ。
今回、人間のアイヌさん達は少ないから加わらないけど、妖精達はみな本気みたいなの。
それでミルキーがここに相談にきたダニ。 人間から視えない世界の我々は人間界と戦ってはいけないダニよ。 視えない敵は絶対有利ダニ。 人間が滅ぶのは間違いないダニ。
長老達は全てのダムに人間に検知されない毒を入れるとか、鳥に乗って人の多く集まる場所の空から秘伝の毒花粉を蒔くって相談してたダニ。 人間全員死んじゃうダニ……」
「ケンタ聞いた?」
「ごめん僕、波長合わせてなかった。 後で聞かせて」
京子は「ミルキー達は反対出来なかった訳?」
「北海道の長老同士が決めたことは絶対ダニ。 反対した者は村八分になるから生きていけないダニ」
「チョット待ってね。 ケンタと相談するわよ」
京子は事の次第をケンタに話した。
「そっか…… 解った。 でも妖精達の手を汚さなくても人間界は今後変わるよ。 その事を長老達に説明し中止するように説得しようか? 一度、その長老会を開いてもらって、その場で僕たちが説明しようか」
ミルキーはさっそく長老にその事を伝えに戻った。
「ねえ京子、二つの石でどのくらいの精霊を未来にトリップ出来ると思う?」
「精霊は人間じゃないから結構多く運べるかも、でもどうして?」
「多くの精霊に地球の近未来を視せたいのさ。 人間は黙ってても二つの世界に別れて、新しい世界では人間と妖精さんは仲良く一緒に暮らせるって教えたいのさ」
「なるほどね」
ミルキーが戻ってきた。
「明後日が満月の夜だからその日に決定の会議ですって。 場所は白老のコタン。 でも人間は見学だけで口出し無用っていわれたダニよ」
「まっ、参加出来るだけとりあえずよし……」ケンタは笑みを浮かべた。
満月の夜、ふたりはふたつの黒石を持って末席で長老達の話を聞いていた。
長老のひとりが「それでは、ちょうどひと月後の夜に空部隊とダム部隊で同時進行という事でいいダニね!……」
「チョット待って下さい!」ケンタが末席で立ち上がった。
「お前は人間だ! 人間は意見するな!」強い口調でケンタは恫喝された。
「是非、話しを聞いて下さい」
「意見無用」ケンタはふたりの妖精に手を押さえられた。
今度は京子が「待って! すぐに済みます。 説明の時間を下さい」
「駄目ダニ!」ふたりは強引に外へ連れ出さされた。
中ではざわめく声が止まらない。 そのうち聞き慣れた声がした? ざわめきがやんだ。
静寂の中でミルキーの必死さが伝わる叫びの声だった。
「みなさん、待って下さい! あのふたりは私が札幌で一年間お世話になったふたりなんです。 決して皆さんの思うような悪い人間ではありません。 どうぞふたりの話を聞いてやって下さい。 お願いしますダニ」
「お前は人間のスパイか?」
「違います。ただ話を聞いて欲しいだけダニ。 なんにも要求しません。 ただ聞いて欲しいそれだけダニ!」ミルキーは悲痛な声で訴えた。
ある長老が「事が済むまで三人とも月の間(牢獄)に監禁だ!」
「そうだ、そうだ!」三人は真っ暗闇の中、別々の部屋に監禁された。
「なに、この空間は? トリップが効かない。 全ての能力が封印されたみたい。 ケンタとコンタクトも出来ないじゃん……」
ケンタは秘策を考えていた。 ここに来る事は我々三人しか知らないから心配する人間もいないって事。 ましてこの空間は封印された空間……?
ミルキーは「長老達は解ってないの…… 本当の仕組みを…… あの二人には申し訳ないことをしてしまったダニ。 アポイの神どうかお力を!……」
翌早朝、三部屋のドアが開いた「長老がお呼びだ」と声がした。
三人は昨日の部屋へ通された。
「解ったと思うがあの部屋は封印された部屋だ。 なんの力も使えまい。 どうだ、我々はお前達と争うつもりは毛頭無い。 よっておとなしく引き下がるなら解放しよう。
それができないのなら一ヶ月監禁する。 人間の肉体は水・食料が無ければ維持出来まい。 置いてきたお前達の肉体はひと月持たないダニ。 さてどうする……?」
ケンタは京子に意識を飛ばした。
「京子とミルキーはおとなしく引き下がって欲しい。 そして京子は自分の身体に戻り、僕の身体にも入ってたまに食事をさせて肉体の維持を頼みたい。 京子なら出来るはず。頼む……」
京子に通じた。
「わかった…… 私とミルキーは引揚げます」
「京子さん……」ミルキーは悲痛な顔で言った。
「申し訳ありませんでした。 今すぐ私達を解放して下さい」
ふたりは無事解放されたが、ケンタは再び監禁された。 札幌に戻った京子はケンタの肉体に水と食料を補給させ、そのままシリパの会へ向かった。
マチコママとサキがいた。
「京子ちゃん久しぶりね」
京子の顔を見てママはケンタの事故のあの時のことが脳裏によみがえった。 そう、ケンタが沖縄で倒れたときと同じ顔をしていた。
「京子ちゃんケンタくんになにがあった?」
京子は一部始終を説明した。
「そう、で私や会は何をすればいい? 何でも言ってちょうだい」
京子もそこまでは考えていなかった。 とりあえずママに話したかった。 聞いてほしかった。
ママが察し「解ったよ。 一緒に最良の方法を考えようか」
サキが「ママ、両事務所でトリップできる会員さんってなん人いるんですか?」
「う~~ん、チョット待ってね……」
ママが電話した。 むこうがスタッフ入れて三十四名。 こっちが二十八名で計六十二名
京子が「ママ、私、新たな石を一つ持ってるの」
ママが「総勢六十二名でどうする……?」
サキが「六十二名がその集会に参加して、人間として説得するのはどうかしら?」
京子が「私達もそう思った。 でも長老達は話しすら聞いてくれなかったのよ。 おまけに仲介で入ったミルキーも監禁されたの、問答無用なのよ……」
沈黙が走った。
サキが「いきなり長老さん達に地球の近未来のビジョンを見せる方法無いかしら? 百聞は一見にしかず。 あの光景を視たら話を聞くと思うけど……」
ママが「チョット待ってサキちゃん。 ミルキーとコンタクトしてここに呼んで欲しいの」
「ええ」サキは眼を閉じた。
「ハイ」ミルキーと繋がりました。
「京子さん申し訳ないダニ、ミルキーのせいでこんなことに」
京子が「なに言ってるのよ。 ミルキーが教えてくれなかったら大惨事になってたわ。 今ならまだ防げるわよ。 ぜったい希望を棄てたら駄目」
ママが「今、来てもらったのは、ミルキーさんの世界には人間界でいう映画のようなものかホームシアターみたいななにか想念を投影出来るような物ないかしら? 無くても工夫して作れないかしら? もしそれが可能なら近未来の映像を映し出すの。 そしたら明るい未来があることを解らせること出来るの。 一度目を向けたら後は楽。 興味を持ったら説得出来る可能性が充分あると思うの、ミルキーさんも何か考えてちょうだい」
「映画はないダニね…… テレビとか映画は人間の世界独特ダニよ」
サキが「何でもいいの。 白い大きな幕を作りたいの」
「どの位の大きさがいいダニ?」
窓に指をさし「この窓四枚分ぐらいでどう?」
「それなら出来るダニ」
「あとこちらの世界は電気がない世界なのよね……」
京子が「そこは念写しかないわね……」
ママが「あとは映像をスクリーンに投影する方法よね。 向こうの世界での投影だから全てが想念写か。 そんなパワー持ってないわね」
京子が「沖縄でケンタが倒れたときみんなから集めたエネルギーは凄いパワーだった。 その方法でひとりにパワーを集中させて、集めたパワーを集約して映像化するのはどう?
但しそのパワーは前回と違い未来の統一した映像でないと駄目なの。 バラバラだと映像にムラが出来て駄目なの。 だからみんな同じ未来のビジョンを同時に視ることが大事なのよ。 そしてひとりに集中して未来から送るの。 受けた側は幕に映像を投影するのよ。 どう?」
ママが「さすが京子ちゃんそれ完璧。 その投影する役私にさせてちょうだい。 京子ちゃんはケンタくんの事があるから力が入って集中がブレる可能性がある。 これはマチコの命令いいわね!」
京子は深々と頭を下げ「ママ、これで二度目。 ありがとうございます」
ママが口を開いた「さっ! サキちゃん伝令を出してね。 日時は追って連絡します。 都合のいい人はどちらかの事務所に指定の三十分前に集合で頼みますって。 私とサキちゃんはその村に一緒に行ってスタンバイね。 会のみんなから私に送られた映像を投射するけど、サキちゃんは石を片手で持って、もう一方の手は私の手を握って投影させるためのパワーを送ってほしいの。 たぶんこの方法は多くのパワーが必要よ。 頼むわね。 あと、こちらはメメちゃんの指導でまとめてもらう。ここは京子ちゃんは部外者だからメメとナベの指示に従ってね」
「はい!」
日時は決定した。 二日後の午後6時開始。 ママにはもうひと仕事あった。 長老達にその映像を見てもらう方法をミルキーとサキとママで考える事だった。 それが一番難解なこと。
ミルキーは単純に「私が人間世界のお友達に教えてもらって視てきた未来の世界を見せますって云うのはどう?」
ママは「当たって砕けろ!それで行きましょうか?」
サキがミルキーに「ミルキーの世界の人たちは未来にトリップ出来ないの?」
「そう言う能力ないダニ。 コロポックルは今を楽しむ方向性だからそんなに未来のこと興味湧かないダニよ。 ミルキーは一度視てるから別だけどね」
当日の朝が来た。 ここはケンタの住まい。 あれから一週間ケンタの身体の維持をしていたが、一週間でもだんだん痩せて来たので軽いジョギングもして肉体の維持をした。 いよいよ交渉の日、気を引き締めて行こう。 五時にママとサキは二風谷にいた。
ミルキーは会議に先立って長老達に「私が人間世界に世話になってた時の友人に地球の近未来世界を視せてもらったダニ。 その映像が今日届くダニよ。 この地球の未来がどうなってるか皆さんに視てもらいたいダニ。 お願いしますダニ」
長老のひとりが「視るのはかまわないがそのふたりは誰ダニ?」
ミルキーが「はい、この方達が未来の映像を実際にこの白い幕に出してくれるマチコさんとサキさんダニ!」
「今、紹介いただいた私がマチコでこの子がサキです。 宜しくお願い致します」
ひとりの長老が「最近の人間は解らんからな。 おかしな事やったら即拘束するダニ。 覚悟しておくダニ」
いきなりのプレッシャーだった。
ママは「ハイ」と素直に返事をした。
ママは、会に念を送った。 数秒後にパワーが送られてきた。
「サキちゃんこのパワーをもっと増幅して映像に……」
白幕に未来の光景が初めはノイズが多かったが、徐々に鮮明になりそして鮮やかに未来が投影された。 全ての精霊達が視入っていたが、少し過ぎた頃から少しずつざわめきが起こって来た。
そこにミルキーが駆けつけた。
「ここの住人には何の事か理解出来ていないダニ」
ママは気がついた「しまった! そっか、私達目線なのか…… すこし説明が必要みたいね。 ミルキー悪いけど私達手が離せないから、京子ちゃんを至急ここに呼んできてちょうだい。 急いで」
すぐに京子がやってきた。
ママは「京子ちゃんお願い、みんなに画面の解説をして。 この精霊達は意味が解らないの……」
「わかった!」京子がビジョンを視ながら説明を始めた。
だんだんざわめきが消え精霊達は目を丸くしてビジョンに釘付けとなった。 京子節を交えながら三十分が過ぎた。 会場は最初とまるで違う雰囲気になっていた。
その時、長老のひとりが「この女は悪魔使いだ。 惑わされるな皆の衆。 こいつは一週間前に収監された女ダニ。 お前はなんの企みでここにいる?」
全ての集中が途切れた。 そしてビジョンも消えた。
「はい、私は確かに一週間前収監された女。 主人は今も収監されたまま。 でも、私は納得がいかずこのような手段を考えました。 もし私の云うことが嘘だというならその時は私を一生収監して下さい。 そのうち別世界の肉体も死ぬでしょうけど。 私は死を覚悟でこの場にこさせてもらいました」
ある長老が「のう、話を聞いてからでも遅くないダニ。 この者は本当に死を覚悟でここにおるダニ」
「そうじゃのう、聞くだけならかまわんかものう」
ひとりの長老が「じゃあ、多数決で今の意見に賛成な者は?」
聞く側が半数を超えた。
「それでは手短に話すダニ」
「皆さんありがとうございます。 今のは未来の片側の世界です。 実はもう片側が存在します。 どうぞご覧下さい」
「ミルキー、シリパの会に飛んで反対の世界の映像を送るように頼むわ。 行って!」
京子はママの顔を見た。 ママも用意が出来てるようだった。 サキちゃんもうなずいた。
ビジョンが再開された。 そこは札幌の大通り公園、薄暗い空と重たい空気感が漂う世界だった。 目を見開いた男が弱者を棒のような者で叩き、なにやら汚い言葉を吐いている。警察官は笑って見ている。 そこはもう一つの世界。
視線を下に向けたコロポックルも多くいた。 京子がママを制止させた。
「どうでしょうか? これも近未来の世界です。 今視たのは札幌市です。 私の住む未来の街の様子。 先ほどのも私の住む未来の世界です。 このように世界は完全に二つに分かれる運命を辿ります。 ですから皆さんが手を汚すことなく自然に世界はこのように変わります。 今、皆さんが動いたらもうひとつの明るい世界が無くなる可能性があるんです。 正直皆さんにそのような権限は神から与えられておりません。
今一度考え直して下さい。 今この場で、私と収監されている主人をどうするかお決め下さい。 考えたうえで主人を投獄するなら私も一緒に監禁して下さい。 主人とふたりで死を待ちます」
そこにミルキーが現れた。
「長老の皆さん、解ってやって下さいダニ。 彼女達に大それた望みはありません。 ただ、平和な世の中と笑顔のある生活だけが望みです。 我々妖精も調和が目的のはず。 調和の形が今皆さんのやろうとしてることですか? わたし、なんか違うような気がしますだれかわたしに教えて下さい?」
ママが「私は人間です。 自然破壊や動物の迫害、全部人間がやった事。 今更言い訳しません。 でも人間の世界はあなた方が言う悪い人間ばかりではありません。 今回あなた方に考え直してほしく集まった数は八十人。 みんな私の住む札幌から先ほどのビジョンを見せるために映像にあった別の未来世界に行って、ここにビジョンを送ってくれました。 どうか、もう一度考え直して下さい。 お願いします」
話しているママの後ろに六十二名の仲間がいつのまにか立っていた。 全員長老達に向かって頭を垂れた。
両者の間に長い沈黙が走った。 だんだんと長老達の険しい顔が柔和な顔に変わった。
ほどなくしてケンタも京子の横に立っていた。 それは人間と妖精の和解であった。
その後、シリパの会では妖精の世界との交流が始まった。 親善大使はミルキーとサキであった。
十二「時空の旅」
ケンタと京子は宇宙の存在との約束が遅れてることを気にしていた。
「さて、ケンタ。 これから先どうするの? 今までは神社廻ったりとふたりの都合でどうにでもなったけどさ、ひとを育てるって簡単じゃないよ。 今までの会は技術だけだから何とかなったけど石の力も借りたし……」
「そこだよ京子ちゃん。 最初に両方の世界を視せるんだよ。 そして二つの世界の意識の在り方の違いを説明するんだ。 視てるから話が早いと思わない?」
「なるほどケンタらしい考え方だね。でも事務所無いしどうやって人集める?」
「最初は狸小路でやるしかないかな…… 今まではカウンセリングみたいな感じだったけど、明日からは地球の未来を旅しませんか? て言うのはどう? 二つの世界があることを説明しておいて、両方ともトリップして見せるのさ。 あの妖精の長老達に視せたように。 自分たちが変わらなければ未来は変わらないという事を自覚してもらうんだよ。 どう?」
「私の旦那は天才だ…… 」
「とりあえず僕はその方向で行く。 京子ちゃんは今のスタイルを維持してほしい」
「なんで……?」
「それはそれで必要だからさ、僕の方はすこしカルト風に取られがちだから、敬遠されると思うんだ。 だから食べるためには仕方ないよ。 頼む!」
「……うん、わかった」
ふたりは狸小路にいた。
ケンタのテーブルには「時空の旅」と書いた張り紙があった。
三人の男が興味ありげに張り紙を見ていた。
二十五歳位のレゲエ風の男が「これどういうことっすか?」
KENが「葉っぱや薬を使わずに未来の札幌にトリップするのさ!」
三人は笑った。
「マジッスか?」
「マジッスよ、一人三千円、三人まとめてだと…… 割り引いて一人二千円。 合わせて六千円でどう? もしトリップ出来なかったら全額返金するよ」
色黒のゲンが興味を示した。
レゲエのオキが「一人二千円だって。 タイキもやろうぜ」
「うん、いいよ」
KENが「座らないと出来ないから三人とも、そこのベンチに座ってほしい。 そして深呼吸を三回して」
三人は従った。
「次は三人手を繋いでゲン君は僕の手を握って目を閉じて、僕の指示を待ってほしい。 視る世界は二つ。 僕も同行するから心配は要りません。 では未来に飛びます。 リラックスして心を空にして下さい」KENは片方の手の黒石に集中した。
四人は同じ狸小路に飛んだ「はい、目を開けていいですよ」
そこは明るくそして全体に白っぽい透明感のある狸小路。 三人は初めてテーマパークにいった子供のように目を輝かせていた。
タイキが「この辺りはラルズのあたりだよ。 全然雰囲気が違うね」
ゲンは「メッチャやばくない? 人もなんか半分透明だし。 なんか光ってるよ」
オキは「このまま歩いてススキノ行ってみない?」
四人は南に移動した。
オキが声を上げた「無い…… ススキノが無い! ただの公園に変わってるぜ!」
KENが「そうなんだ。 未来の世界ではススキノは消滅してるんだ。 酒を飲むという習慣が無くなるのさ。 当然風俗もね。 だから酒場はこの時代には消滅したんだ。 あの車を見てごらん。 乳白色のブヨブヨした感じあれが未来の車だよ。 燃料は宇宙線だから永遠に動くのさ。 無尽蔵のタダ燃料。 一台に一個の装置なんだ。 これは家も同じ仕組みだから未来に北海道電力さんは存在しない」
車好きのオキはいたたまれない気持ちになった。
「次は上から札幌を見てみようか? またみんな手を握って。いいかい行くよ」
瞬間、藻岩山山頂に移動した。
「これが未来の札幌市。 高い建物が無いでしょう? これは都市集中型の過去と違い、未来はみんな好きな所に住むんだ。仕事の為に都会に住む必要が無いからなんだ」
三人は目を皿のようにして札幌の街を眺めた。
「じゃあ、もうひとつの世界に行くよ。 手を握って」
四人は大通り公園にいた。
「ここは四人離れないようにしてね。 絡んでくる人間が多いから無視して」
ゲンは思った「臭っせ~~。 何だ、この匂いとジメジメした重い空気? 薄暗い空。 公園なのに全体が重たいし、ゴミ箱をひっくり返したようにゴミが散らばっている。 人の顔も全員がヤクザか変質者みたいな奴らばっかだ。 全員の顔があさぐろい」
その時後ろから「おい兄ちゃん達、金貸してくんねえかなあ? そこの兄ちゃんいい服着てんなあ。 俺のと交換してくれよ。 おい、その髪の変なの。 おめえのはいらねえ。安心しな…… 但し金貸しな」
KENが振り向いた「やめなよ! 俺、ミノルさんのダチだけど……」
「な、な、な、なんだ! もっと早く言ってくれよな」
絡んできた男は走って逃げた。
「なんなんすか…… あいつは?」
「この世界は絡まれてばっかりなんだ。 いちいち相手にしてるの大変だから、うちの嫁さんが過去で知り合ったヤクザもんが、この世界にいるから何かあったらその人の名前を使いなと、事前に話を付けてあったのさ。 それを利用しただけ。 この世界は自分の欲望だけで生きてるんだ。 特徴は他人の事は考えない世界。 付け加えると権力や暴力を重視する人間はいつも権力や暴力に怯えているよ。 心がそれらに執着するからなんだ。 これも未来の札幌なんだよ残念だけどね」
タイチは「俺、こんな世界イヤだよ」
KENは「大丈夫ださ。 執着を持たない、人を傷つけない、いつもにこやかにワクワクしてればこの世界には来ないよ。 あと見たいところある?」
ゲンが「僕の家族のこと気になるんだけど」
「ごめん。それはルールがあって見せてはいけない事になってるんだ。 ごめんね」
オキが言った「なんのルールなのさ?」
KENは黙って天を指さした。
「で、つぎどこか行きたいところある?」
そう話してる間に今度は女がタイチに寄ってきた。
「ねえ、兄さんいい事して遊ばない? あんた良い男だから安くするけど。 どう?」
「イヤ結構です」
「なんだいつれないね、おだてりゃ普通はハイって言うもんだよ。 このアタイをいったい誰だと思ってんだい? えっコラ若いの……」
豹変してドスの効いた声。 形相も変化した。
「姉さんごめんな。 さっきこいつらを遊ばせたとこなんだよ。 また今度くるからさ」KENが割って入った。
女は「ちっ、解ったよ、絶対だよ。 んじゃな」
三人は「もう帰りたい」とKENに言った。
KENは了承しもとの狸小路に戻った。 そこには京子の姿があった。
「お疲れさま。 気になって来てみたら、人だかりがあるじゃない。 見てみたら四人が手を繋いでぐったりしてるから、みんな救急車や警察呼ぼうとか言ってるし、私が言い訳して付き添ってたのよ。 このやりかたすこし工夫がいるね。 で、どうだった?」
三人は戻ってからしばらくは呆然としていた。
KENが「三人さん、どうでしたか?」
オキが「いい経験しました。 あれは何十後の札幌ですか?」
「近未来かな。 ミノルって今ススキノに実在するからね」
「えっ! 近い将来であんなに変わるんですか?」
「確定はしてない。 けど可能性は充分あるよ」
ゲンが「楽しかったです。 で、僕達はどっちを選ぶんですか?」
KENは「それが自由なんだよ。 可能性は最初の方だけど選択権は自分にあるから、その時に心に葛藤がある人は後の方に。 葛藤を手放した人は最初の世界に移行するんだ。
今日は僕にとっても君たちが初めてのお客さんなんだ。 楽しかったよ。 ありがとうね」
三人は経験したことをお互い確認し合いながら歩いていった。
京子が「やりかたを少し変えないと危ないね。 四人もぐったりしてるんだもの。 絶対薬かなにかを疑われるよ、間違いない」
「ごめん、ごめん。 そうだよね・・・」
二人は今後の課題をかかえて帰宅した。 結局ふたりは近場で店を開きKENの客の場合、京子がトリップ後の身体の介護をするということになった。 初日に来たオキ・ゲン・タイチの三人は沢山の客を紹介してくれた。 噂はあっという間に広がり一日に大勢が訪れる日もあった。
KENの体力は五人まで。 その後は京子に任せることにした。 リピーターも多くなった。 そんなある日、KENの前にひとりの婦人が現れた。 内容は歳若くして死んだ息子に会いたいので、その世界に行って欲しいというものだった。
KENは「それは可能ですけど、行ってあなたはどうなさりたいのですか?」
「ただ会えればいいの、他に望む事は無い。 ただ会えればいいそれだけ」
「ごめんなさい。僕にはお手伝い出来ません」キッパリ断った。
「あなたはインチキなの? どういう事? じゃあ、なんでこんなことやってるわけ?」
KENは下を向いたまま黙った。 婦人は怒り心頭で去っていった。
側にいた京子がその光景を見ていた。
「KENさんどうしたの? 今日は調子悪いのかい?」
「今の女の人の死んだ子供さんは、男の子だと思うけど、思い入れが強過ぎなんだよ。 視せるのは簡単なんだけど場合によっては、すごくショックな場合があるだろう。 そうしたら今の彼女はその世界に行って助けようとする。 つまり彼女は死を選ぶことになりかねないと思ったのさ。 誰にでも簡単にトリップさせないよ。 特に本人に害になると思った場合は……」
今度の客は二十才くらいの女の子だった。
「いらっしゃいませ」
「あのう、前世の私を視ること出来ますか?」
「あなたは前世はなにがいいですか?」
「……?どういう事ですか?」
「今のあなたと前世のあなたは関係ないですよ。 未来は今のあなたが創造して下さいね。仮にあなたの前世は農家で苦労して死にましたよって言ったら、あなたは一生それを引きずって生きていきます。 だったら知らない方がいいと思いませんか? それにこの地球人の前世は大体が農家か漁師なんですよ」
「じゃあ、三年後の未来を視させて下さい。」
「事情はどういう事ことかな? 聞いてもいいかなあ?」
「また事情ですか? もういいです」
帰ってしまった。
イッセイが聞いてきた「今日はどうかしたんすか?」
「ふふ、彼女は何でも良かったのさ。 暇つぶしなんだ。 まったく関心がない。 本当に興味があったらちゃんと考えて質問してくるよ。 お金もったいないから帰ってもらったのさ」
向こうでシリパがKENを見て微笑んでいた。 札幌の空は満月が輝く穏やかな好い夜だった。
十三「狸小路」
マチコママがふたりに差入れを持って狸小路に遊びに来た。
シリパに「最近シリパの会への質問で二〇一二年問題を取り上げた質問が多いのね。 京子ちゃんの所にはそういう類の質問は無い?」
「私の所は相変わらず恋愛問題が多いけど、ケンタのところは未来にトリップさせてるから半信半疑かそれ系の質問が多いみたい」
「でも、未来はたえず変わってるから下手な説明できないしママも言葉選ぶわよ」
シリパが「そ、そこなのよ。 パラレル的にいうと未来は必ず分裂するから、自分がどこを選択するかで結構違ってくるしね。 曖昧な答え方も出来ないわ」
「だから私は一応の見解を出そうと思ってるの。 未来については大きく二つに分離されると思う。 今いえるのはその事だけってね。 京子ちゃんはどう思う?」
「そうね、それが今の段階では無難な答えかもね」
京子は家に帰ってからママとの会話をケンタに説明した。
「まあ、それだけ現状は不確かだからそういういい方がベストかもね。 神の感覚だと百年の時間的誤差は許容範囲。 だから予言は外れることが多いし難しい。 そのことが解ってるから本当の覚者は日時を克明にしたがらないのもうなずけるよ」
狸小路の京子のところにリョウゼンが初めて尋ねて来た。
「きょ、きょ、京子ちゃん、なに、なにやってらの?」
「リョウ? リョウゼンなの? あんた久しぶりね元気?」
「あっ、はい」
「そう、で、今日はどうしたの? ひとりなの? こんな夜にリョウゼンの来るところじゃないよ、ここは……」
「……」リョウゼンは黙ってしまった。
「リョウゼンどうした?」京子は優しい口調で言った。
「こ、これ」リョウゼンはポケットから一枚の絵を出し開いてそっと差し出した。
「な~に? これ」未来都市を背景にした二人の人間と犬を描いた挿絵。
「なに? リョウゼンはこんな世界を観てみたいのかい?」
「はい」
途中でリョウゼンの雰囲気に何かを察知した。
「チョット待ってね」京子は携帯でマチコママに連絡を取った。
最近、会員の誰かともめたらしくしく、それ以来リョウゼンは会に顔を出さなくなったという。
「お前さあ、シリパの会でもめたんだって? どうしたの?」
リョウゼンは耳を両手で塞ぎ座り込んだ。 これ以上、外からの情報は拒否するというリョウゼンの表現のひとつだった。
「もういい。 わかったからさちょっと私の話を聞いて!」
「はい聞きますです。 です」
「未来に行くのもいいけど、この絵と少し違うかも知れないよ。 わかった?」
「はい、です~ぅ」
「お前はサザエさんとこのタラちゃんか」
KENに事情を話し二人の身体の京子に管理を頼みトリップした。
ここは五百年後の札幌。 リョウゼンの思い描いた世界とは大きく違っていた。 雑誌にあるSFの世界は透明のドームがあり、未来型の車が空中を飛ぶ世界がリョウゼンの頭の世界であった。 リョウゼンは何か考えていた。
京子が「リョウゼンどうしたの? なに考えてるの?」
「そうですよね。これが現実ですよね」リョウゼンの言葉使いが変わっていた。
京子は思い出した。 トリップした世界ではリョウゼンの意識は一般人の感覚だったことを。 リョウゼンは夢に描いた世界と違ったことにショックを覚えていた。
「そうですよね、現実はこんなものですよね」悲壮感があった。
京子が「どうせならこのままの世界を描いたら? そして未来は精神的な文明で理にかなった世界は実際こうなってます。 みたいなお手本を描いたらどう? 未来人はビックリするわよ。 五百年も前にこんな絵を描いた人間がいるってね」
「面白いですね。さすが京子ちゃんです」
ほどなくして二人は戻ってきた。
京子は「リョウゼン、今日は楽しかったわね。 マチコママも心配してたわよ。 ちゃんと会に顔出しなさい」
「あ、あ、ありがとう…… バイバイです」
会の話になるとうつむくリョウゼンだった。
「気をつけて帰りなよ、お休みリョウゼン」
リョウゼンは後ろ向きのまま手を振った。 相変わらずのリョウゼンに京子は微笑んだ。
ひと月程経ち再びリョウゼンが京子の前に顔を出した。
「リョウゼンいらっしゃい。 今日はどうした?」
画板から八枚の作品を取り出した「こ、こ、これっ!」
「おっ! 作品出来たのかい? どれ、見せてね」
目をやった瞬間京子は絶句した。
そして「KEN! 来て!」大きな声で叫んでいた。 京子の声が狸小路に響きわたった。
「どうかしたシリパ? 大きな声出して」
「KENごめんね。 これ、この絵見てよ!」
「おう、リョウゼン来てたのかい?」
京子が差し出した絵を見たKENは息を呑んだ。
「……これ、リョウゼンが画いたの?」
絵は八枚有り一枚の絵に七つの世界が描かれており、それが七部構成になっていて一枚一枚しっかりしたストーリー。 計四九枚の世界が緻密に描かれていた。 最後の八枚目には地球が変わる直前の絵が描かれていた。 この絵は実際を観てきた人間にしか描けない絵であった。 絵の価値を知る人間はこの三人だけだった。
シリパがリョウゼンに「リョウゼンはもうひとりだけでトリップ出来るんだね。 頑張ったね」
リョウゼンは満面の笑みを浮かべうなずいた。
KENが「それにしても完璧な絵だ。僕の観た通りの世界。 あの世界をカメラで撮ったようだ」
京子が「リョウゼン、この絵はリョウゼンが大きくなるまでお母さんに封印してもらいなさい」
「ふういん? わ、わ、わかりませんです」
京子は母親に手紙を書いた『この絵は今、世に出す絵ではないと思います。 この作品は社会的に影響を与え兼ねません。 それだけ今のリョウゼン君の絵は、一作品一作品が注目を集めます。 因みに、この絵は約五百年後の世界まで見事に描かれています。 我々夫婦とほか数名が垣間見てきた未来の世界と寸分違わず一致しております。 リョウゼン君が大きくなるまで封印をお奨めいたします。 生意気なこと言ってすみません。 京子』
そう走り書きをし母親へ渡すように言った。
「リョウゼン、どうせ描くなら昔の東京、江戸っていうけどそっちの方がみんなは喜ぶかもね」
「む、む、昔の東京ですか?」
「そう、昔よ。頭はチョンマゲで着物を着て刀持ってる時代。 日本の皆は好きだから沢山の人が喜ぶと思うけどどう?」
「き、き、京子ちゃんと行った京都とかですか?」
「そう。あれは京都だけど、今の東京を昔は江戸っていうの。 日本の中心なのよ。 面白いリョウゼンくん解りましたか?」
「はい、解りました」そういってリョウゼンは帰って行った。
ふたりを観ていたKENが「彼は天才だね。 あそこまで正確に描けるなんて思わなかった。 久々にビックリした」
「私も以前からあの子の絵は見ていたけど、今回のは特別だったわよ。 だ って一枚の絵で十年ごとのドラマを七回トリップしてひとつの絵に見事に納めちゃうんだもの。 それも七枚で約五百年分よ、最後の一枚は視点が宇宙空間から未来の地球を観たものだった、完璧に出来上がっていたわ。 もしかしたら昔のミケランジェロやダビンチの絵を世に先んじて見た心境?」
「でも五百年後の人は解ると思うけど、今の人が解るかどうか?」KENは遠くを見ていた。
KENのところにもしだいに常連が増え、路上での限界が出始めた。
「ねえケンタ、これから冬になるし、トリップして帰ったら客と二人とも冷たくなって震えてるよ」
「そうだね。 札幌の屋外では僕のやってることは限界があるかも。 小さな店舗でも借りる?」
「でも、それならシリパの会と同じくなるよね。 かといって宗教色は絶対イヤだし」
寒冷地ならではの課題が生まれた。 結局、二人は一戸建てに引越し、そこで看板を上げて再スタートした。 会員ナンバーの一番がリョウゼンだった。
THE END




