6話「連鎖の端」
子供に付いていくことしばらく。
見覚えのある門に辿り着いた。
「ん?門だよなここ。家って街の外なのか?」
「……うん」
実は家は別の街でした、みたいなのは流石にやめてほしいが。
いやマジでどこまで行くんだ。
街の外にも整備された道はあったし、もしかしたらすぐ近くに住める場所があったんかな。
まだまだ情報不足だからなあ。
今後の展開が読めそうにない。
キャラカを提示して門を通る。
迷子の子は子供だからか、特に門番に気にされることもなく、キャラカを出さずとも素通りできてる。
良いのかそれで。
「……こっち」
「あーうん、どこまで行くんだこれ」
「もう少し」
明らかに道と言えるものは無い。
西大門の時と同じような、森の中を分け入っていく。
マジでどこまで行くんだ。
◇◆
そのまま、森を歩く。
不思議なことに、モンスターどころか、鳥の声一つしない静かさ。
不気味さ、とも言える。
そんな中、ようやく子供が立ち止まって振り返る。
「僕は……」
「うん?」
「僕は……後悔。違うんだ。僕の、せいで、お母さんは、死んじゃって」
「お、おいおい……」
俯いて泣き出す子供。
その身体が、ゆっくりと、足から消えていく。
霧のように、幻のように。
幽霊であるかのように。
「僕も、死んじゃって……。騙して、ごめん。お母さんを……助け……」
言い終わる前に、子供の後ろの木影から、黒い何かが現れる。
俺が反応するより速く、ソレは、子供に近づき、抱きしめた。
抱きしめた、という言い方は違うな。
ソレは、攻撃的な意思を持って子供に襲いかかり、その一撃で子供の霊は雲散霧消した。
ソレは女性だった。
だが、普通の女性と言うには、あまりにも酷い姿だった。
全身のあちこちが爛れたように崩れ、それを隠すのは、服と言うよりはボロ布と言った方が良い布切れ一枚。
そんなボロボロの姿で立つ女性は、腕の中に子供がいないことに気づくと、次はこちらを向いた。
明らかに正気を失った瞳。
次はお前の番だと、身体をこちらに向け、唸り声を上げる。
「ウ、アアアァァァ……!!」
『チェーンクエスト『街に潜む呪いの影』が開始されました』
「うぉう!?」
唸りながらの突進を、なんとか全力で右に避ける。
まさかの戦闘系のクエストか。
どうすれば良い?
とりあえず状況をまとめよう。
あれは流れ的に、たぶん、あの迷子?の母親だろうか。
結局、あの子供の名前聞いてないな。
それより、お母さんを助けて、とか言ってたか。
聖属性魔法でもあればどうにかなるんだろうか?
いや、どう見ても正気じゃないし、どうにもならんだろ。
倒すしか無いか?
って、考えてる余裕も無いな。
やるしか無い。
……そうと決まれば!
「【水雷弾】!」
「ウガァァァ!」
直撃!
吹っ飛ばせたおかげで、距離は離せた。
ゾンビ系なら、たぶん麻痺も気絶も無いだろうな。
期待はせず観察する。
よろめいているが、それはほぼ最初からだ。
HPがどのくらい削れたかは判断できない。
むしろ、ゾンビとかってHPあるのか?
着弾点を見ると、大きく抉れてるっぽいことがわかる。
HPはわからないが、身体は脆いみたいだ。
グロ描写軽減のおかげで、モザイクで分かりにくいが、たぶん動けなくなるまで攻撃すれば終わるはず。
魔法使いなのに脳筋とか言われそうだな。
けど他に方法も思いつかん。
ゴリ押しだおら!
「【水雷弾】!【水雷弾】!」
「グガ、ガァァァッ!」
他の状態異常のデバフは効かないだろう。
と言うわけで、【水雷弾】を魔力の消費は気にせずに連射する。
戦闘と言うには一方的なゾンビシューティング。
まぁ、元は一般女性だっただろうし、武器も特殊攻撃も無いただのゾンビなら大丈夫だ。
むしろ、序盤のこのレベルで、高度なアクションを求められたらたまったもんじゃない。
「……【水雷弾】!」
「グ、グ、ギ……」
そのまま動かなくなるまで撃ち続けた。
ほぼ魔力も使い切ったな。
街中ふらついてる間に回復してなかったら危ないところだった。
腹減ってたはずなのに食欲は無くなったな。
さて、こっからどうすれば良いんだろうか。
カサ、カサ……。
うん、終わってないんだな。
けど倒れてることには変わりない。
倒れたまま、手足が少し動く程度だ。
自動回復してるとかだったらマズイけど、たぶん違いそうだ。
どうしたら良いんだ、これ。
浄化とかが必要なんだろうか?
わからんけど。
試しに【水雷弾】撃ってみても、何か変化がある感じがしない。
……街に帰るか。
街には教会があったはずだ。
門番とかに話せばなんとかしてくれるだろう。
◆◇◇
門まで戻ってきて、門番に大まかな事情を説明した。
すると、門番の一人が教会へ応援を呼んでくるから待っててくれと走っていったので、別の門番に詳しく流れを説明しながら待った。
しばらくすると、聖職者らしい人を連れて門番が帰ってきた。
俺は案内という事で、2人を母ゾンビのところへ連れて案内した。
そのあとは何事なく、聖職者の人が浄化してくれて、母ゾンビは光となって消えていった。
南無南無してると、どこからかちいさく「……ありがとう」と聞こえた。
あの子供は成仏できるのだろうか。
心配ではあるが、とりあえずはひと段落と言うことみたいだ。
経験値がもらえて、レベルが5に上がった。
ただ、クエストが終わってないのも気になる。
それに、聖職者の人がこんなことも言っていた。
「この女性のゾンビは、呪いによって肉体と魂を縛られていた。もしかしたらこれは自然に生まれたゾンビではないかもしれない」
親子が死んだ理由も今のところ謎だ。
子供は何か知ってそうだったが、すでに居なくなっている。
クエストを進めれば何かわかるんだろうか。
御読了ありがとうございます。
前回ポイント評価をいただけたみたいで、ありがたいことにランキングか何かの端にでも載ったみたいです。
まだの人も、良ければ評価よろしくお願いします。
最新話の下の方で出来るらしいので。