どうすればいいんだ、どうすれば。
蝉がうるさい。
蝉がうるさい。
俺が茹って寝転んでいるというのに、奴らの目的はなんなのか。俺はこないだアホみたいなテレビ番組でアホそうなタレントがアホみたいに回答してるのを見ていた。暇だったからだ。暇じゃなけりゃあんな番組なんか見ないだろう。その番組のクイズコーナーに、夏にちなんだ問題を数問出すというのがあって俺は知ったんだ。蝉がなぜ鳴くのか。
そりゃあまあ理由は単純明快で、俺みたいなアホでもバカバカしくて笑えてしまうようなものだったけども、大切なことなんだろうなとちょっとしてから思った。生き物が生きてく上で必要な事、それはもちろん、食う、寝る、働く、そして…。
やあ、まあ、そりゃあ俺みたいな心の暖かな、優しい好青年が、そんな、ねえ、まあ、言葉をアレするのはアレだけれども、ともかくとして、なんだか今日は暑いし、夏だし、なによりもこの言葉を言うことがこの今日、夏休み、暇な一日、揺れる簾、隣の家からひっきりなしに聞こえてくる風鈴、それにそう、あれだよ、蝉…。
そうだよ、蝉のせいなんだよ俺が部屋で、一人で、ちっさいたまにノイズの入る、地デジに変わってもう何年もになるのになぜかまだ動いてるアナログテレビと一緒にゴロゴロしてるのも、バイトが校則でできないのも、最近どうにもやるせないのも全部そう、間違いない。
ならもういっそ言ってしまおう。口に出そう。いや、そう言う意味じゃなくて。いや、違う、違う違う。そうじゃない。俺はどうしてこんな、誰に言うでもなく一人でこんな、言ってしまえば楽になる。楽になろうぜ。な、俺。
俺は暫く口を閉じて鼻で深呼吸していたが、開けて肺に溜め込んだ大気を吐き、少しだけ吸って、そして吐息と一緒くたに声を出した。
「sex…。」
…まあ、そうなんだ。蝉が鳴くのはセックスのためなんだ。俺は誰に言うでもなく呟いた言葉を誰に言うでもなく取り繕うために誰に向けてでもなく顔の前で手を二、三度ひらひらさせた。
しかし、実際高校入って2年にもなるというのに、俺には何にもないわけだ。こないだ見た漫画みたいな青春はどうも送れそうにない。夏休みの昼間から勉強も何もせず、何も愛さず、誰にも愛されず、絶望と死の淵に立っている俺には漫画みたいな青春はおくれない。盛った。ごめん。そんなことはない。
なんとなく呼吸が浅い気がするから寝返りをうった。横を見たら蚊が目の前を通り過ぎたから潰した。血が出なかったのは血を吸われる前だったからなのか、オスの蚊だったからなのか、ジロジロと蚊の死骸を眺めながら考えた。なんといってもやることがない、いや、実際にはやるべきことだらけなのだけれども、一切のことに手を出したくない。とてもめんどくさい。
彼女欲しいなあと友達に言ったら、俺も欲しいと返された。そうだろうな、あいつにはいないよ。あのデブメガネには彼女なんていない。いるわけがない。
別の友達に童貞捨てたいなあと相談したら、お前まだ童貞なの?童の貞なの?わらしのさだと書いて童貞なの?ウヒェー童貞様のお通りだ〜と煽られた。あのガリガリメガネ、あんだけ煽っといてのメガネのガリガリなのには笑った。当然のように奴らも童貞だ。
そして俺の友達は全員メガネの童貞だということは、ご理解いただけただろう。