スライム暴走-02
●判った!
埃の積もっている場所に移動して様子を伺う。
ロウソクを灯して以降、壁に擬態していたスライムは擬態を止め、怪しい光を放ちながらゆっくりと蠢いていた。
壁に開いた横一メートル縦二メートルの出入口が、僕達を誘い込むかようにそこに生まれ、暫く開いていた後で壁に戻る。
観察していると、今度は別の場所に同じ大きさの出入口。そこが閉じるとまた別の場所に出入口。
「スジラドさん……」
「これは誘いです。その証拠にさっきから風が止まったまんまじゃないですか」
松明の焔を揺らす事無く辺りを照らしている。
スライムの動きは止まらない。相変らず怪しい点滅をしながら、ステンレスに貼ったガムテープを剥がす音を立てながら、蠢き続けている。
蠢くスライムを見ていると、僕もナオミさんも具合が悪く為って来た。場の醸し出す重圧からか、それとも密封空間で松明を灯しているせいなのか? 空気は重く息苦しい。
「まるで馬車か船に酔った感じです」
ナオミさんはこの短時間で相当やつれた声に為って居る。
「ナオミさん。僕の眼を見て下さい」
落ち着かせるためにそう言ったんだけれど……。
「はい」
素直に答え、見つめ合う僕とナオミさん。二人の距離は息が掛かるほど。
顔がかーっとなった僕は思わず横を向いた。
息が切れる。咽喉が渇く。自分の胸に掌を当てると鼓動が早くなっている。
まさか? これが恋? 僕息が苦しいよ。
「ナオミさん!」
「はい」
「一緒に助かりましょう!」
「はい! スジラド様」
僕と同様に荒い息でナオミさんが返事をした。
どれ位経っただろう? 遂に松明の一本が燃え尽きようとしている。
僕はその火を燭台のロウソクに移した。独特のあの匂いが当たりに立ち込める。その時だった、今まで揺らがなかった炎が一方に棚引いたのは。
吹き抜ける風に匂いが弱まる。それと同時に僕達の荒い息も治まった。
少しぼーっとしていた頭が澄んで来た。
さっとそちらに目を遣ると、風が吹いて来た出入口が消えて行く。
「判った!」
僕は叫んでいた。
僕は状況を整理して推理する。ロウソクに含まれる成分を嫌い、スライムが換気を行った。今駆け抜けた風はその証拠だ。ならば。
「ナオミさん。脱出の目途が付きました」
僕は断言した。
「はぁっ、はぁっ、何が、ですか?」
息の荒いナオミさん。風を顔に受けた僕と違い、まだ濁った空気の影響から抜け出せていない。
「スライムはロウソクを灯した時出る煙を嫌って換気を行いました。これを利用すれば外に出られます。燭台を持って僕に付いて来て下さい」
「はい」
こうして、僕達の脱出が始まった。





