魔法のお勉強-05
●力試し
「カーイサーイ! ……コミ☆ケット!」
え? 空耳だよね?
色々突っ込みどころ満載の奇妙な叫びと共に、僕達の倍のスピードで距離を詰めて来る傀儡兵。
さっと皆位置に就く。デレックが前衛でネル様が後衛。僕は必要に応じて位置を変える遊撃の中衛だ。
「スジラド! 撃てるか?」
デレックが剣に魔力を流しながら言った。薄っすらと剣が桜色の光を帯びる。
「うん! 一発なら」
僕の採れる手段の内、一番強力な奴。これだけ距離があれば接敵までに一回行ける。
魔力を集め魔力を練り、腕を交差した構えから魔法の雷を紡ぎ出す。今はまだ投槍にしか出来ないけれど、そのうちチャクラムやブーメラン型にも出来たらいいな。なんて事を思いながら、プラズマの槍を生み出す。
「えぇい!」
轟音と共に眩い光に包まれる傀儡兵。足は止め体勢を崩し、盾の半分を吹き飛ばした。盾から立ち上る煙と焔。だけど本体は全くの無傷。
そうだよね。幾ら授業の模擬戦闘だって、一発で片付くような課題は出さないよね。
でもその間にデレックとネル様が良い位置取りをする。
デレックの雄叫び上げて繰り出す攻撃を、サッカーのルーレットのように躱す傀儡兵。
「うぉっと!」
回転運動そのままに、横薙ぎに襲うメイスを前に転がって外すデレック。
キィーン! 半分になった大盾に払われるも、ネル様の放った二の矢が傀儡の外皮に突き刺さる。
吐き出される野球のボール大の火の玉が、バッティングセンターの速さでネル様を襲う。
幸い誘導弾ではないけれど、野球の千本ノックのように矢継ぎ早。見越し射撃も遣って来るから、よく見て避けないといけないよ。
あ、デレックが蹴りを食らって吹っ飛んだ。いや、正確には喰らった瞬間、反対側へ跳んでダメージを軽減してる。
倒れて直ぐには動けないデレックに向かって行くのを、
キュキュキュキュン!
鉄釘を打ち出して攻撃する。火花が散って浅く釘が表皮を削った。
注意が僕に向いた隙にデレックは離脱したから牽制の効果位はあったかも知れない。
ネル様が矢を放つ。僕が釘を撃ち込む。そしてデレックが機を見て肉薄する。
「デレック! 無茶し過ぎ!」
攻めに熱中するあまり出来た隙。傀儡兵の振り上げたメイスが、身体を泳がせたデレックの肩口に振り下ろされようとするその時。
「今ぞ、冠を禦ぐに利し。決して急く事勿れ。
而じて、終に寇は勝つ事莫し。
護りも堅く進むべし。止まれ風の山。凪」
一瞬、傀儡兵の動きが。そうほんの一瞬だけ硬直した。半透明の沢山のネル様が、邪魔をするかのように傀儡兵の手や足にしがみ付いて。
「左門豊作?」
思わず僕は突っ込んでいた。
次の瞬間、透明なネル様達は振り解かれて。勢いを削がれたメイスは再び加速し出す。御本に依ると嵐を鎮めても十分は続く魔法なのに、無茶なことをしたせいか今の一瞬で解けてしまった。
稼げた時間は、デレックが衝撃に備える時間。剣を間に割り込ませて平で受けるその時間だ。受けはしたものの鈍い響きの嫌な音。デレックが戦闘力を今奪われたのがハッキリと判った。
次の瞬間、火の玉の弾幕が僕を襲う。僕は伏せて地面の起伏に身を隠しつつ、
「行けぇ~!」
キュキュキュキュン! キュキュキュキュン! キュキュキュキュン!
手持ちの鉄釘を撃ちまくる。
ドドドドッ! ドドドドッ!
掩体とした窪み前の土が火の玉で爆ぜる。駄目だ、顔も上げられない。
そんな射撃戦の中、とうとう釘が尽きてしまった。そして……。
「きゃあ!」
十数えない内にネル様の悲鳴が響き、
「終了!」
サンドラ先生の声が響く。
足首を掴まれ宙ぶらりんのネル様。
大地の窪みに釘づけにされた僕。
そしてサンドラ先生に手当てされているデレック。
「自分達の実力が判ったかしら?」
サンドラ先生に言われなくとも、誰がどう見てもこれは惨敗だった。





