魔法のお勉強-04
●為せば成るがデレックの流儀
魔法に関して、僕達のやり方はバラバラだ。殆ど魔法への信仰に近いネル様と、理が全ての根幹の僕。デレックはと言うと、ひたすら沢山の練習を熟してモノにしようって発想で、訓練は裏切らないって言うのが彼の口癖だ。
「うーん」
一生懸命やっているのは判る。だけど蛮声を張り上げる呪文の詠唱はどうかと思う。
「獲ること醜に匪ざれど。
水は器に従いて、火は付く物に拠り容を現す。
起れ火の火。小着火」
用意の藁人形に、ライター程の火が点る。
火が全体を包んだ時、デレックは再び電車が通過するガード下でも響き渡りそうな大声で道う。
「未だ済まずとも孚有り。今希う伏衆たまえ。
伏せよ火の水。小消火」
燃え上がった焔は見事に鎮火する。
「やっぱり、デレック君は遣れば出来る子よねー」
サンドラ先生は歓びのあまり、デレックに抱き付き抱き締めた。
……って! これ、やばいかも。
「先生放して! デレックが死んじゃう!」
ネル様に言われて離した時には、息が詰まってぐったりしてた。
「頑張りましたね。ご褒美にこれを上げましょう」
サンドラ先生がデレックに渡したのは、柄に赤い魔石をあしらったグラディウス。
「デリック君の為に作られた剣よ。握って、あなたの魔法を剣に這わすようイメージしてね」
「あ、はい!」
「獲ること醜に匪ざれど。
水は器に従いて、火は付く物に拠り容を現す。
起れ火の火。小着火」
デレックの魔法を承けて、刃に沿って走る焔。
「うぉ! 凄ぇ! これ、ほんとに、俺がやったのか?」
頷く先生に、
「俺、一生大事にします」
今度は興奮冷めやらぬデレックが先生に抱き付いた。
●傀儡兵
「えーコホン。消火の魔法は反対に、火や魔法の火攻撃を斬り払う事が出来るようになります。
デレック君の使える魔法が増えて行けば、剣に付与出来る魔法も増えて行くでしょう。
残念ながらデレック君専用に調整済みですから、他の人が付与するのはロスが大きいですが、純粋な魔力ならこの通り」
先生が柄を握って魔力を通すと、白銀色の剣身はほんのりと薄く桜色の光を纏う。材質は鋼でも鋳鉄でも無いようだ。
「他の人が使っても、魔物や怪異や怨霊にも効く魔法の剣に早変わり」
くるくると、どこかの魔法少女のバトンのように回してポーズを決める、とってもお茶目なサンドラ先生。
まさかと思うけど、先生も前世の記憶あるとかなんて言わないよね。
「無事に魔法も使えましたし、一人一人に専用のマジックアイテムも渡しました。そろそろ力試しもしたいことでしょう。
だから魔法使用の是非を問う為の模擬戦を行います。と言っても、あなた達はまだ手加減の兼ね合いを知りません。代わりにこれと戦って貰います」
サンドラ先生が指輪の嵌った手を掲げ詠唱した。
「茅を抜くに茹たり。
開け地の天。土嚢」
すると大地にぽっかりと穴が開き、そこから三メートル程の金属ゴーレムが這い出して来た。
筋骨隆々なマッチョを模したその巨体。緋のマントを着けコリント式兜を被り左側だけ脛あてを着けたブーメランパンツ姿。
左手に『Λ』の印の入った丸い大盾を持ち、右手にメイスを持っている。
突っ込みどころ満載の出で立ちだけれど、見るからに屈強の戦士だ。
「私が造った傀儡兵で、口から魔法の火の玉を飛ばします。壊しても構いませんので存分に戦って下さい」
「「「ええっ!」」」
三人同時に声を上げた。
「先生。授業でいきなりジャンプ問題は勘弁して下さい」
「ジャンプ問題?」
首を傾げるネル様。
「あ!」
「時々おかしなこと言うよなスジラドは」
デレックに突っ込まれた。
算数や数学の教科書って、導入例題から段階的に難しくなって行くんだけれど。三問目から五問目辺りに突然難しくなっている問題がある。それを『ジャンプ問題』って言うんだよ。現場の先生はこのジャンプ問題に対して階段を創って教えている。
僕の記憶では、小学一年生の『さくらんぼ計算』くらい当たり前に使われている言葉だったと覚えているんだけれど……。
「仕方ないわね。では皆これを持って」
魔法のお勉強で何度か使った経験のある、治癒の魔法が使える指輪を僕達に渡す。
これで難易度はかなり下がった。
「じゃあ。今度こそ始めるわね」
傀儡兵は僕達に背を向けて三十メートルの距離を置く。そこで回れ右をして盾を構えた。





